日弁連が死刑廃止を求めている理由 代わりに終身刑導入、裁判員になると適用判断

By 竹田昌弘

 国内の弁護士全てが登録し、会員となっている日本弁護士連合会(日弁連、菊地裕太郎会長)が国に対し、死刑廃止を求めている。今年10月に死刑に代わる最高刑(代替刑)として、仮釈放の可能性がない終身刑の導入を提案し、11月25日には、東京都内で「死刑廃止の実現を考える日」と題してシンポジウムも開いた。日弁連はなぜ死刑廃止を目指しているのか。20歳以上の有権者であれば、誰もが裁判員に選ばれ、死刑の適用を判断する可能性がある。日弁連の主張を手掛かりに死刑について考えてみよう。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

報道機関に公開された東京拘置所の刑場。手前の部屋で刑務官が三つのボタンを押すと、そのどれかが作動し、奥の部屋中央の四角で囲まれた踏み台が落下する。死刑囚は写真にはない絞縄を首に巻かれ、踏み台の上に立つ=2010年8月、東京都葛飾区

 ■冤罪による処刑避けられず、犯罪抑止効果も乏しく

 日弁連が死刑廃止を求める方針を決議したのは、2016年10月に福井市で開いた第59回人権擁護大会。このときの「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(日弁連は「福井宣言」と呼んでいる)には、刑罰に対する考え方と死刑廃止を求める理由が次のように書かれている(要旨)。 

 ①犯罪で命が奪われた場合、遺族が厳罰を望むことはごく自然なことである。一方で、生まれながらの犯罪者はおらず、多くは家庭、経済、教育、地域などにおけるさまざまな環境や差別が一因となって犯罪に至っている。そして人は、ときに人間性を失い、残酷な罪を犯すことがあっても、適切な働き掛けと本人の気付きで罪を悔い、変わり得る存在であることも、私たちは刑事弁護の実践で日々痛感する。刑罰は犯罪への応報にとどまらず、罪を犯した人の人間性の回復と社会復帰、社会的包摂の達成に役立つものでなければならない。 

 ②死刑は、基本的人権の核をなす生命に対する権利を国が剝奪する制度であり、日本は自由権規約委員会(自由権規約と呼ばれる市民的および政治的権利に関する国際規約の履行状況を監督する機関)や国連人権理事会から、廃止を十分考慮するよう求められていることに留意しなければならない。死刑制度を廃止する国は増加の一途をたどり、2014年12月の国連総会では「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が採択されている。 

 ③国際社会の大勢が死刑の廃止を志向しているのは、死刑判決にも誤判のおそれがあり、刑罰としての死刑には、その目的である重大犯罪を抑止する効果が乏しく、死刑制度を維持すべき理由のないことが次第に認識されるようになったためだ。日本では、過去に4件の死刑確定事件について再審無罪が確定している。死刑制度を存続させれば、死刑判決を下すか否かを人が判断する以上、冤罪(えんざい)による処刑を避けることができない。日本の刑事司法は、長期の身体拘束・取り調べや証拠開示などに致命的欠陥を抱え、冤罪の危険性は重大である。冤罪で死刑となり、執行されてしまえば、二度と取り返しがつかない。 

 ④死刑を廃止する際、死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑を検討する。代替刑としては、刑の言い渡し時には仮釈放の可能性がない終身刑、あるいは、無期刑(無期懲役・無期禁錮)の仮釈放が許されない期間を現行の10年から20年、25年などに延ばす「重無期刑」の導入を検討すること。

日弁連が「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を決議した第59回人権擁護大会=2016年10月7日、福井市

 ■国連で条約採択、廃止142カ国に対し存置56カ国

 福井宣言に書かれた①の考え方は、15年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)にうたわれている「誰一人取り残さない」、多様性と包摂性のある社会という理念に合致している。日本政府もSDGsを推進するための取り組みの一つとして、再犯防止の対策などを進めている。

 ②の生命に対する権利は、自由権規約6条に「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意(しい)的にその生命を奪われない」と定められている。死刑はこの生命に対する権利の侵害として、死刑廃止条約(死刑廃止を目指す市民的および政治的権利に関する国際規約第2選択議定書)が1989年12月の国連総会で採択され、91年7月に発効した。日本は米国、中国などとともに、条約に反対した。

 徐々に多くなっていた死刑廃止国は、この廃止条約を契機として、さらに増えた。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルによると、2018年12月現在、死刑廃止国は142カ国。内訳は、<a>全ての犯罪で廃止106カ国(欧州のEU諸国、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、ウクライナ、アルゼンチンなど)、<b>軍法などを除き、通常犯罪で廃止8カ国(ブラジル、イスラエル、カザフスタンなど)、<c>10年間死刑執行がない事実上の廃止国28カ国(ロシア、アルジェリア、ケニアなど)となっている。

 アジア各国・地域を見ると、モンゴル、フィリピン、カンボジア、ネパール、ブータンが<a>の全ての犯罪で死刑を廃止した国で、韓国、ラオス、ミャンマー、スリランカ、モルディブは<c>の事実上の廃止国に位置付けられている。

 一方、死刑を存置している国は、日本、中国、台湾、北朝鮮、インド、パキスタン、アフガニスタン、イラン、イラク、ヨルダン、米国(20州は廃止)、キューバ、エジプト、エチオピアなど56カ国と、廃止国の半分にも満たない。

■英国は誤判で死刑廃止、飯塚事件に同様の可能性

 ③で取り返しがつかないとしている、冤罪で処刑の可能性があるケースとして、日弁連は福井宣言の提案理由の中で、1992年に福岡県飯塚市で小学1年の女児2人が行方不明となり、遺体で見つかった「飯塚事件」を挙げている。再審無罪となった足利事件と同時期に同じ方法で行われたDNA型鑑定が、有罪の有力な証拠とされて死刑が確定したからだ。元被告は2008年に死刑を執行され、遺族が再審を請求している。

シンポジウム「死刑廃止の実現を考える日」であいさつする日弁連の菊地裕太郎会長=11月25日、東京・霞が関の弁護士会館

 英国では、誤判で死刑となり、執行後に真犯人が見つかったケースなどが実際にあり、死刑廃止に向かった。11月25日のシンポで、英国から来日した報告者が語った。廃止後、死刑を支持する人は「どんどん減った」という。フランスの弁護士は、社会党のミッテラン大統領時代、国民の大半は死刑を支持していたが、バタンデール司法相が主導して死刑を廃止した経過を説明。「廃止しても犯罪の状況には何の変化もなかった」として、死刑には犯罪の抑止力がないと述べた。

 同じシンポで、弁護士でもある公明党の山口那津男代表があいさつし「この時代にあっても再審が認められ、過去の判断が覆ることが現に起きている。死刑制度は人類とわが国にとって今後もあるべきか、深く顧みなければならない」と話した。

■仮釈放ない終身刑導入で死刑廃止37・7%

 日弁連によると、④の検討を重ね、仮釈放の可能性がない終身刑を死刑の代替刑として提案することを決めた。重無期刑は仮釈放の可能性があるので、無期刑の延長であり、質的に変わらない。仮釈放の可能性がなく、無期刑と質的に異なる終身刑を選んだという。死刑が廃止されたとき、死刑確定者も終身刑とする。ただ終身刑で服役中、罪を反省、悔悟し、再度社会で生活することができると評価されるような受刑者のため、終身刑を無期刑に減刑する制度の創設も目指す。

 一方、日弁連は政府に対し、5年ごとに実施されてきた死刑制度の世論調査が本年度に予想されることから、中心的な設問の選択肢は「死刑は廃止すべきである」「死刑もやむを得ない」「わからない・一概に言えない」の3択から「死刑は廃止すべきである」「どちらかといえば、死刑は廃止すべきである」「どちらともいえない」「どちらかといえば、死刑は残すべきである」「死刑は残すべきである」の5択にすべきだなどと申し入れている。 

 2014年の政府世論調査では、選択肢を09年までの「どんな場合でも死刑は廃止すべき」「場合によっては死刑もやむを得ない」から「死刑は廃止すべきである」「死刑もやむを得ない」に変えたところ、「やむを得ない」という回答が09年の85・6%から80・3%に減少し、廃止は5・7%から9・7%に増えた。「やむを得ない」と答えた人のうち「状況が変われば将来的に廃止してもよい」は40・5%もいた。また仮釈放のない終身刑が導入された場合は「死刑を廃止するほうがよい」と回答した人も全体の37・7%おり、死刑支持が盤石ではないことを示している。ただ死刑がなくなると、凶悪犯罪が増えると考えている人は57・7%に上った。

■12月に多い執行

 死刑の執行は過去30年、死刑確定者4人の再審無罪と死刑廃止条約採択後の1990~92年と東日本大震災・東京電力福島第1原発事故があった2011年を除き、年1~15人。第2次安倍政権の13年、15年、17年、18年はいずれも12月に執行があり、今年も近くあるかもしれない。

 日弁連は死刑制度と廃止の必要性などを詳細に解説したリーフレットを制作し、配布している。ネットからもダウンロードできる。URLは次の通り。

日弁連が配布しているリーフレット「死刑制度 いる? いらない?」

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/shikeiseido_yesno.pdf

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