ジョン・レノンへのアンサーソング「チェッカーズの X’mas Song」 1984年 11月21日 ザ・チェッカーズのシングル「ジュリアに傷心」がリリースされたされた日(チェッカーズのX'mas Song 収録)

80年代を彩った邦楽のクリスマスソング「チェッカーズのX’mas Song」

80年代を彩った邦楽のクリスマスソングとして忘れられない1曲を挙げるとするならば、僕は迷わず、ザ・チェッカーズの「チェッカーズのX’mas Song」をセレクトする。この曲は彼らの人気がとどまる所を知らなかった84年11月21日リリースされ、最大のヒットシングルとなった「ジュリアに傷心」のB面に収録されている。

チェッカーズと言えば87年リリースされた全曲メンバーが作詞作曲を手掛けたオリジナルアルバム『GO』がバンドの分岐点とされている。それはここから、アイドルからの脱却を計り、多面的に音楽を吸収。大衆に寄り添いながらもメンバーそれぞれの個性を遺憾なく発揮させたアーティストとして著しく成長を遂げていったと捉える人が多いからだ。

しかし、彼らのソングライティングについての才能はこの時期いきなり開花したのではなく、デビュー当時からシングルのB面やアルバム収録曲において、メンバーそれぞれの持ち味を活かしたオリジナルソングをしたためていたのも事実だ。

作曲は武内享、チェッカーズのサウンドに多様性を持ち込んだキーマン

この「チェッカーズのX’mas Song」の作曲はリーダーの武内享氏。ビートルズをフェイバリットに挙げ、50年代から60年代初頭のドゥーワップ、ロッカバラード、ロックンロールなどのアメリカンメイドな音楽をバンド・サウンドの根底に持つチェッカーズに多様性を持ち込んだキーマンでもある。

氏が作曲クレジットに名前を残した曲として、もっとも有名なのは、88年のヒット曲「ONE NIGHT GIGOLO」になると思うが、隠れた名曲も数多い。たとえば10枚目のシングル「OH!! POPSTAR」のB面「おまえが嫌いだ」では藤井郁弥氏が描く、来るべきビート・パンクブームを先取りするかのようなシニカルな歌詞を極限まで際立出せるマキシマムなロックンロールをクリエイト。

そして特筆すべきは、デビュー曲の「ギザギザハートの子守歌」のB面「恋のレッツダンス」の作曲も享氏である。この曲は当初A面に収録される予定であった。つまりデビュー曲として用意されたという、ドゥーワップの持つ最もキャッチーな部分を全面的に打ち出しながらも70年代、歌謡曲の黄金時代を彷彿させるサビの部分のメロディの親しみやすさも兼ね備えた名曲に仕上がっている。

ジョン・レノン&オノ・ヨーコ「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」へのアンサーソング?

閑話休題。彼らが人気絶頂時にB面に収録されリリースされた「チェッカーズのX‘mas Song」は、ミッド80’Sに差し掛かったあの頃を今振り返ってみると、等身大の彼らのメッセージではないだろうかと思えてならない。

曲を聴いてもらえば分かるのだが、この楽曲のミディアムテンポな美しい旋律は、1971年にジョン・レノンがオノ・ヨーコと共同名義でリリースした「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」にインスピレーションを得て創ったものだというのがわかる。ジョン・レノンが世界を俯瞰して、「♪ クリスマスがやって来るね 争いは終わったよ」と優しく呼びかけるのに対し、チェッカーズは「♪ 二人だけのX’mas きらめくTreeの下で 君の瞳に永遠の愛を誓うよ」と極めて個人的かつ普遍的なラブソングとしている。

ここで歌われる “君” というのは、彼らを心の支えとするファンと捉えることもできる、“ジョンが願った平和な世界は、84年の今、彼らをとりまく現実には少なくとも存在しているよ。僕らは幸せになれたんだ” というメッセージが潜んだアンサーソングとして僕は受け止めている。

バブルへ向かう時代、お金では買えない普遍的な愛を歌ったチェッカーズ

日本がバブルに向かい、どんどん豊かになっていく時代、物質文明が先行されればされるほど、お金では買えない普遍的な愛を歌うチェッカーズは輝きを増していった。それは、50年代のアメリカにおいて豊かさの象徴であったティーンのためのロックンロールを歌うバディ・ホリーやエディ・コクランなどが輝いていたことと酷似している。豊かさの中で時代の寵児となったチェッカーズが歌う普遍的な愛は多くの若者の心に突き刺さり、時代がどんなに変化してもファンの心にあの日の面影のまま生き続けている。

チェッカーズは83年にレコードデビューを飾り、92年の紅白歌合戦の出演を最後に解散する。日本が最も豊かで輝いていた時代を駆け抜け、多くのファンの個人的な日常に彩りを添えてストーリーを育んでいった。当時のチェッカーズファンの多くが彼らを懐かしさで語るのではなく、瞼の裏にあるあの頃の煌びやかな面影が生きているかのごとく語るのは、そんな時代性もあったのかもしれない。

しかし、それ以上にチェッカーズの奏でるラブソングは、このクリスマスソングのように普遍的であるが故に、物質的な豊かさとは相反する、お金では買えない絶対的な価値観をもって、当時ティーンだったファンの心に種を撒いた。そしてこの種は時には風雪に耐えながらも、長い月日を経て今も大きな花を咲かせ続けている。

歌詞引用 チェッカーズのX’mas Song / ザ・チェッカーズ Happy Xmas(War Is Over)/ ジョン・レノン&オノ・ヨーコ

カタリベ: 本田隆

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