神奈川県横須賀市走水名産のノリが苦境に立たされている。台風19号の影響で今シーズンの初収穫は、例年より約3週間遅れの今月初旬にずれ込んだ。年末商戦には一部間に合う見込みだが、生産量は不漁にあえいだ昨季を下回る恐れもある。養殖業者はコスト増や高齢化などから年々その数を減らしており、関係者からは将来を危惧する声が出ている。
潮の香りが漂う工場で、巨大な乾燥機がごう音を立て、形の整ったノリが次々と出てくる。生ノリのかくはん、成形、乾燥、破れや異物のチェック─などの工程を経て19センチ×21センチの乾ノリが完成する。
「潮と風を見て、きょう刈ろうと決めた」。そう話すのは、この工場を営む丸良水産の長塚良治さん(59)。今季の初収穫は今月5日。走水で養殖を40年続けるベテランは「ここまで遅くなったのは初めて」とつぶやく。
市東部漁業協同組合走水大津支所によると、走水の養殖業者が種付けした網を沖合の養殖場に張り始めたのは10月上旬ごろ。だが、台風19号の接近で網を一時陸に揚げた。
台風が過ぎ去った後も流木やごみなどが大量に漂流し、作業が停滞。川崎の東扇島沖で貨物船が沈没し重油が流れ着いたことも影響し、養殖の仕事は3週間ほど中断を余儀なくされた。
ただ、台風だけが苦境を招いたわけではない。
走水の業者は2003年に16軒あったが、現在は7軒に半減した。その背景には、作業に必要な機械の更新に多額の出費を強いられることや、燃料費が高騰していることがある。後継者がおらず、廃業した業者もあるという。
地球温暖化に伴う海水温の上昇も深刻だ。ノリの生育にとって1、2度のわずかな変化が命取りだが、水温の高さなどが原因で収穫期は30~40年前と比べて約1カ月短くなっており、生産量に響いている。
同支所によると、18年度の生産量は587万枚。高水温に悩まされ、前年度から3割以上落ち込んだ。
養殖時期の関係でノリだけでは9~12月の間は収入がない。同支所は「コストと時間のかかるノリは、リスクと収益が見合わなくなってきている」と厳しい事情を明かす。
対策として、長塚さんは高水温で育ちの悪かったノリ網を部分的に新しいものに張り替える「二期作」を検討。同支所は年末商戦にこだわらず、天候や海水温に左右されづらい1~3月に集中して生産することを挙げる。しかし、大きく改善するかは分からない。
今シーズンのノリの品質自体は、昨年よりも良いとの見込みがある。長塚さんは「『初もの』を楽しみにしてくれているお客さんのもとへ、一刻も早く届けたい」と話している。