母親の過干渉にうんざり…でも経済的に家を出られない娘と母の関係

世の中には仲良し母娘もいますが、一般的に母と娘には確執があることも多くあります。社会人になれば育った家を出て、親と距離を置くのがいちばんいいのですが、東京は家賃が高すぎるため、なかなか独り立ちできない人も多いのも現実です。


母の期待を背負わされて

ひとりっ子で、小さいときから過干渉で過保護に育ったというノリカさん(33歳)。有名私大を出て、母親の期待通り大手企業に就職しました。

「子どもの頃から学校に着ていく服も親が選んでいました。高校時代、休みの日に友だちと遊びに行くときも服装チェックが入る。夕方6時前に帰らないと玄関の外に仁王立ちで待っていましたね」

反抗はしなかったといいます。

厳しいけれど、親は親。自分のためを思ってくれていると信じていたからです。そんなノリカさんが首を傾げたのは、残業が続いたある日のこと。上司から「今日は帰れ」と言われました。自分だけ帰るわけにはいかないと言うと、母親から会社にクレームが入っているといいます。「うちの大事な娘を過労死させる気か」と。

「そのとき、母親に対してめらめらと憎悪がわいたんです。25歳くらいになっていたかな。遅い反抗期といいますか。社会人なのだから、残業でしんどかったら自分で言いますよ。職場はものを言いやすい環境でしたし。私の仕事にまで首をつっこんでくる母に対して嫌悪感を覚えました」

家に帰って文句を言いましたが、母は「あなたのことを思って言ったのに」といつもの態度。そこでノリカさんは生まれて初めてキレました。

「いつまでも私はアンタの人形じゃない!」

そう叫び、身の回りのものをもって家を出て、その日はホテルに泊まりました。すると翌日、母親は会社にやってきて彼女にすがるようにして泣きながら謝罪したといいます。

「もう、うんざりでした」

すぐにアパートを契約、家を出てひとり暮らしを始めます。ところが彼女は奨学金を借りており、その返済と生活費で経済的に余裕がなくなっていきました。

婚約はしたものの

そのころから社内につきあっている人がいました。部署は違うが同期で、ともに研修を受けた仲間のひとり。彼女は思わず母のことを愚痴りました。

「そうしたら彼が結婚しようかって。つきあってまだ半年くらいしかたってなかったし、彼はそろそろ転勤になるという噂もあった。彼は、『転勤になったら一緒に行こうよ』と無邪気に言うわけですよ。だけど私は仕事がしたい。結婚して辞めて転勤先についていくなんてできない。生活は苦しいけど、ひとりでがんばってみると彼には告げました。そうしたら彼が、婚約だけでもというので、保険というか安心材料として婚約してしまったんですよね」

口約束に過ぎなかったのですが、彼がすぐにそのことを公表。ふたりは社内でも公認のカップルとなりました。ノリカさんにしてみたら、熟慮する暇もなく婚約してしまったことになります。

「彼が転勤になっても私はこっちで仕事をしていればいいやと気楽に考えていたんですよ。そうしたら案の定、彼は1年半後に転勤。結婚して来てほしいと懇願する彼に、私はやはり行かれないと言いました。このまま婚約状態でいいじゃないか、と。でも彼は納得せず、婚約破棄となってしまったんです」

疲れ果ててしまって

一連のできごとは母には内緒でした。家を出てから彼女は母の電話も3回に1回くらいしか出ませんでした。だが仕事と生活と、そして婚約の一件で疲れ果て、彼女は会社で倒れてしまいます。駆けつけてきたのは母でした。

「結局、アパートを引き払って実家に戻りました。28歳のときでした。数年の間に10キロ近く痩せていましたね。栄養状態も悪かったようです」

実家に戻って栄養状態はよくなったし、経済的にも楽になったものの、母からの干渉は続き、彼女のストレスは相変わらずでした。

最近は言い争うことにも疲れ、朝は何も食べずに出勤、夜は帰宅するとまっすぐ自分の部屋に入る。母が追いかけてきても鍵をかけて部屋には入れません。

「泣き叫ぶ母親の声が耳について。そこで生活時間を変えました。帰ったらまず睡眠をとる。そして母が寝たころ食事をとってお風呂に入って、それからまた少し寝て午前3時くらいに起きます。本を読んだり仕事の準備をしたりして、早朝に出勤する。できるだけ母と顔を合わせないようにしています」

あと数年で奨学金の返済が終わります。そのときこそ、彼女は家を出て名実ともに自立するつもりです。

「母の知らないところで結婚してしまう手もあるかな、と。もう私の人生に入り込んできてほしくないんです」

父は以前から帰宅したりしなかったりの生活。おそらく女性がいるのだろうとノリカさんは感じています。母の寂しさを理解しないでもないのですが、いいかげん自分の人生をひとりで歩きたい。どんなに言ってもわかってもらえないのだから、実力行使しかないと彼女は表情を引き締めました。

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