ニュージーランド火山噴火、御嶽山との共通点指摘も 地元から「起こるべくして起こった」の声 16日で一週間

噴火し、噴煙を上げるニュージーランドのホワイト島=9日(マイケル・シャーデさん提供、共同)

 ニュージーランド北島沖にあるホワイト島にある火山が9日に噴火してから16日で1週間となる。国内では噴火した午後2時11分に合わせて1分間の黙とうがささげられた。

 噴火当時、島やその周辺に約50人の観光客がいた。15日時点で16人の死亡が判明、ほかに25人以上がやけどなどの大けがを負った。警察などは、島に取り残されていた8人のうち6人の遺体を収容し、行方不明となっている残る2人の発見を急いでいる。警察は多くの死傷者が出た刑事責任を追及する捜査を始めている。この大惨事は現地・ニュージーランドでどのように受け止められているのか、伝えたい。

 ▽島への上陸はツアー会社任せ

 ホワイト島はニュージーランド北島の東にあるベイ・オブ・プレンティの沖約48キロに浮かぶ直径2キロほどの小さな無人島だ。先住民マオリが付けた名前は「テ・プイア・オ・ファカアリ」。これは「ドラマチックな火山」という意味だ。現地ではマオリ名の「ファカアリ島」を使う人もいる。

 海底火山の山頂部が海面付近にあるため、島に近づくにはヘルメットやガスマスクなどが必要。そうはいっても、比較的簡単に噴気孔を観察できるため、観光客に人気となっている。年間1万8000人が訪れ、このうち約80%が海外からの旅行者だ。今回、被害に遭った47人は、およそ半数が隣国オーストラリアからで、ほかに米国、英国、中国、マレーシアなど出身国は計7カ国に上る。

 噴火の前触れはあった。直近の1年間を振り返っても、筆者の携帯電話にはホワイト島の火山についての活動情報がしばしば送られてきたのだ。とはいえ、毎回5段階ある警戒レベルで最も低い「1=小規模な火山活動」にとどまっており、こちらも半ば慣れてしまっていた感があった。しかし、約3週間前から「2=中~大規模な火山活動」に上がり、それを維持していたと思っていたら、9日午後2時過ぎ(日本時間同午前10時過ぎ)に突然、上空約3600メートルまで噴煙が達する噴火が起きた。それに伴い、警戒レベルも「3=小規模火山噴火」、そして「4=中規模火山噴火」に引き上げられた。

 実は、ニュージーランドの政府関連機関から発表される警戒情報は「火山活動の状況」と「危険性」のみで「取るべき避難行動」については含まれていない。レベル2だった今回の噴火でも、島に上陸するかしないかの判断はツアー会社にゆだねられていた。つまり、観光客などの安全に関わるとても大切な判断が民間任せになっているのだ。厳格化を求める批判を受け、11年に国もツアーの安全についての監査を厳しくしているが、十分でないことが改めて明らかになった。

9日、ニュージーランドの火山島ホワイト島の噴火でけがをして、対岸の北島に待機していた救急車に運び込まれる人(AP=共同)

 2014年9月、日本では御嶽山が噴火し、噴石の直撃などで58人が死亡、5人が行方不明となった。現地では直後からこの御嶽山噴火と発生過程などが似ているという指摘が出ている。

 御嶽山の噴火はマグマ噴火より低温の水蒸気爆発だったが、噴火の際に出ていた警戒レベルは最も低い1の「平常」(当時の呼称)で、直後に3の「入山規制」に引き上げられた。17年、1の「活火山であることに留意」(新たな呼称)になったが、火口から約1キロの立ち入り規制は続行。一部遺族は、警戒レベルを事前に引き上げなかったなどとして国と長野県に損害賠償を求めて提訴し、長野地裁松本支部で係争中(19年12月16日現在)となっている。

 京都大の井口正人教授(火山物理学)によると、ホワイト島の噴火は水蒸気噴火かマグマ水蒸気噴火と考えられる。また、気体中の二酸化硫黄の量が増えているため、地下にマグマがあるのは間違いないとしている。

 ▽気遣う住民

 被害の大きさにニュージーランド国民は大きな衝撃を受けている。中でも観光客をホワイト島まで運ぶツアーの発着地となっているベイ・オブ・プレンティ地方の町ファカタネは、島を中心とした観光で成り立っていることもあり、犠牲者やその家族などへの気遣いあふれる対応をすぐさま取った。

 町の入り口でビジターを歓迎する看板に掲げられていた島の写真を噴火直後に撤去し、海岸近くには追悼の場を急きょ設けた。ファカタネは人口わずか2万人で、住民同士の絆も強い。噴火によって亡くなったり病院で重体となったりしている友人や家族のことを思い、献花に訪れた人々が泣きながら抱き合う姿もそこここに見られた。

 一方、噴火前にファカタネから約40キロ離れたタウランガに入港していた世界最大級のクルーズ船「オヴェーション・オブ・ザ・シーズ号」の乗船者38人もホワイト島へのツアーに参加し、噴火に巻き込まれた。そのため、船が停泊する港には乗船客を気遣って、花を手向ける多くの住人の姿が見られた。ファカタネからやってきた先住民のマオリは安全に航海を続けられるよう、船に向けて「カラキア」と呼ばれる祈りを行った。

 参加したマオリの1人は「不幸な出来事に遭遇した乗船客のことをファカタネの住民が気にかけ、心配していることを伝えたかった」と、全国放送のニュース番組「1ニュース」に話している。船は11日朝に次の寄港地に向けて出港した。見送る地元の人々の中には感極まって涙を浮かべる人もいたという。

 ▽上陸禁止? 継続? 割れるニュージーランド

 今回の噴火を住民はどう感じているのだろう。

 全国放送のニュース番組「ニュースハブ」が住民にインタビューをしたところ、ある住民は「ショックで悲しいことだが、あまり驚いてはいない。活火山であり、誰もがそのリスクを知っていた」と答えていた。その他もおおむね、同様の意見だった。

 起こるべくして起こった惨事―。地元の人々はそう捉えているようだ。

 起こるべくして起きたのなら、噴火は繰り返すことになる。事実、直近の10年に限っても何度も噴火している。それゆえ、今後についての意見は分かれている。「島への上陸を禁止すべきだ」とツアーに反対する人がいる一方、ファカタネの行政側は地域経済が観光産業によって支えられていることを根拠に継続を主張する。

 年間観光収入は約1億3000万ニュージーランド・ドル(約96億円)に上り、観光は雇用の創出にも貢献している。加えて、行政側はホワイト島を中心にした向こう10年間にわたる観光計画を立てている。ちなみに、素晴らしい観光スポットであることをアピールするために、同島には「王冠にはめられた宝石」とのキャッチコピーが付けられている。ファカタネを含む行政組織の長であるジュディ・ターナー氏は噴火を受け中止しているツアーについて安全性を確保した上で再開したいとしている。

 井口教授は「今回のような噴煙3千メートル級の噴火は鹿児島県の桜島では日常的だが、火口付近に人が近づくようなことはまず起きない」としている。これは、ホワイト島のこれからを考える上で重要な指摘ではないか。

噴煙が上がるニュージーランドの火山島ホワイト島=9日(ニュージーランド・ヘラルド提供・AP=共同)

 ▽悲劇を繰り返さないために

 悲劇から1週間が過ぎた今、多くの人々は、大きく分けて二つの疑問を抱いている。

 それは①活火山であり噴火を繰り返していたのになぜ上陸・観光を許していたのか②今回の噴火は結果的に何をもたらしたのか―だ。

 オーストラリアにあるモナーシュ大の火山学者、レイ・キャス氏は「ホワイト島は沈静化しているように見えても決して油断してはいけない火山。いつ爆発してもおかしくない」と指摘する。活火山である島へなぜ上陸が許可されているかについて記者に問われたケルビン・デイビス観光大臣は「今まで30年以上も行われてきたこと」とし、「まだ遺体が島に残っている現在、話すべきことではない」と回答を避けた。

 10日にファカタネを訪れたジャシンダ・アーダーン首相が「議会で質問すべきことは質問し、答えを得るべきことは必ず得る」と話し、今回の噴火に関する対応に落ち度などはなかったのか、きちんと追求する姿勢を明らかにしている。

 この発言に代表されるように、政府は噴火に遭った人たちの家族が抱えている懸念事項を解明することを約束している。ウィンストン・ピータース副首相も「包み隠すことなく、真相の究明に努力する」と口にするなど、意を決している様子だ。

 御嶽山の噴火を受け、日本では水蒸気爆発の兆候をつかむため、48の火山を対象に火口付近の観測設備を増強するほか、避難ごう(シェルター)設置を進めるなどの安全対策がなされている。また、活火山の周辺自治体や観光施設に避難計画づくりを義務付け、住民や登山者、観光客の安全確保を強化する改正活動火山対策特別措置法(活火山法)も施行された。

 ホワイト島の観光の是非を話すことも大切だが、まずは、この大惨事がなぜ起きたのかをしっかりと解明することが大事だ。そして、悲劇を再び起こさないため、日本にならって、観光客の安全を守るための対策を万全に講じることが必要ではないか。(ニュージーランド在住ジャーナリスト クローディアー真理=共同通信特約)

水蒸気が上がるニュージーランドの火山島ホワイト島=9日(ゲッティ=共同)

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