コンパクトカーで諦めてきたことを、諦めない
フィットらしさは変わらず
北海道にあるホンダの鷹栖テストコースで初対面したホンダ 新型フィットは、一塊感のあるコンパクトカーであるのは変わらないのに、グリルの鼻先にホンダの“H”マークがなければそれがフィットだとわからないほど、デザイン的変身を遂げている印象を受けた。
「ボディサイズはほとんど変わらない」という事前説明を聞いてからの対面だが、これまでよりその存在は少々大きく見えるほどだ。
しかし、そのフォルムは歴代フィットを踏襲する1モーションフォルムであり、かつセンタータンクレイアウトもそのままだが、室内の広さはコンパクトな外観からは想像できないものだった。
つまり、「これまでのフィットらしさ」に、“異常”なし。ただし4代目となる新型フィットのその“実”は、従来“以上”と言っても過言ではないと思う。
知らずに諦めていたニーズを掘り起こす
初代フィット以来受け継がれてきた魅力は、コンパクトながら広々とした室内や燃費の良さ、そして比較的手頃な価格だろう。
新型フィットは、取材時には細かなスペックや価格は明かされなかったが、開発段階からさらに室内を広く、少しでも燃費は良くという目標を掲げていたのはもちろん、これまでユーザーが知らず知らずに諦めていた潜在的なニーズに新たに応えることが命題だったという。
取材中のお話で印象に残るのは、潜在的に諦めていたことは“潜在”であるがゆえに、直接聞いても具体的な答えは返ってこないわけで、世界中のユーザーと丁寧なクリニックを行ったらしい。
その結果、コンパクトカーではまだ満たされていない、快適・リラックス・癒やしが求められていることがわかった。日常を支えるコンパクトとして有益な点は変えずに、一方でその変わらない良さに“心地よさと美しさ”を新たに加え、その言葉にならないニーズに応えようということになったのだそうだ。
コンセプトは「用の美・スモール」
見過ごされてきた“体験”に注目
ホンダはこの新型フィットで、日常を支えるコンパクトモデルとしての“体験”、ある意味では日常のこととなれば当たり前のこととしてやり過ごして、見過ごしていた“体験”に注目し、その日常の質を上げる改良をし、進化させた。
先ずフォルム。
ホンダはそれについて、二輪で揺るがない存在である「スーパーカブ」を例に挙げ、「意味のあるカタチは変わる必要がない」として、初代フィットからのアイコニックなフォルムを新型でも受け継いだ。
これまで少々イカつい印象もあったエクステリアデザインは、力強さと柔らかさを併せ持つ、シンプルでクリーンな印象へと変わった。
フロントマスクではライトの縁取りをアンダーラインにLEDのデイライトを採用したことで目力が増し、コンパクトなこのフォルムにこの目力を持つ姿は女性から見るとカッコ・可愛い印象を受ける。またボディカラーや新設グレードのSUVライクなタイプのクロスター(のちほど詳しく紹介)など、少しの違いで個性も変わる。
インテリアのポイント1:圧倒的なパノラマ視界
細いAピラーで開放感と安全を確保
インテリアも、毎日が心地よく楽しくなるという“体験”にこだわっていた。
まずは圧倒的なパノラマ視界と水平基調の薄型インパネだ。今回運転席に座って最初に驚いたのは、何よりも前方視界。フロントウインドウの両サイドのAピラー(柱)をごく細く、これは単に開放的な心地よさを抱くだけでなく、コーナーや交差点での対向車や歩行者に対する死角を軽減している。
ちなみに、Aピラーは衝突安全ボディ構造のために太くする必要があった。今回は衝突荷重を2番目のサブピラーへ流すことによってフロントピラーはガラスを保持する性能を満たすだけでよくなり、従来に比べ半分以下の太さにすることができたのだ。
液晶表示もシンプル
この視界についてはフロントピラーだけでなく、ワイパーも設計を工夫し、また水平なインパネ造形もこれに貢献している。
そしてさらに、メーターバイザーがない。これはフル液晶メーターを採用することで実現している。視界→認知認識という点では、液晶表示としながらあまり多くの情報を詰め込んでいないのが万人に優しい。情報もシンプルでわかりやすかった。またホンダセンシングの作動もわかりやすく表示してくれる。
インテリアのポイント2:新設計シート~フロント~
小柄な人も運転しやすく
新設計されたフロントシートは線で支えるバネ構造から面で支えるマット構造となり、個人的にはチルト(高さ調整)の工夫を特筆したい。
座面の前端が膝裏をしっかり支える構造は、小柄な人が座面を上げると視界は良くなるものの膝裏がより強くシートに当たり、ペダル操作がしづらいものが多い。
新型フィットでは座面を上げるとシートの前側がやや下がるので、小柄な人を含め、より自分の体型に合った理想的なドライビングポジションを取りやすくなっているのだ。
また使い心地については、電動パーキングブレーキの新採用によって、これまでハンドブレーキがあったエリアにバッグを収めるスペースが実現。テーブルコンソールにはアタッチメントが付けられる工夫にくわえ、レールを用いて大きなアームレストなど好みの用品でカスタマイズできるようになった。
インテリアのポイント3:新設計シート~リア~
柔らかな厚みで快適性アップ
またリアシートも骨格から新設計。センタータンクレイアウトによって前席以降のスペースアレンジが魅力のフィットだが、これまでリアシートの快適さが若干犠牲になっていたことは否めない。
しかし新型ではその点も見直され、柔らかさを感じる厚さを確保することで快適性は増している。シートのファブクックの素材感や風合いも良く、ライトグレージュに包まれた空間の印象はとても優しい。
乗り心地は、ひとクラス上に
走りを支える秘密は四位一体!?
そして、新型フィットの乗り味。これは、ひとクラス上といっても過言ではない向上が実感できた。
乗り心地については、低フリクションサスペンションの採用によってフロントは路面の凹凸を滑らかに、リアは段差の大きな突き上げ入力を緩和。アルミ製のダンパーマウントが中に2つ内蔵され、大小の入力を別々に制御できるしくみだ。
ステアリングもバリアブルギアレシオの採用(グレード別設定)により、小舵角ではゆっくり、大舵角ではクイックに。ステアリングの操舵フィールがより滑らかで、走りの質の向上に一役買っているのは間違いない。
そしてそんな走りを支えるボディの剛性感。必要な場所に一層の補強が施され、コーナリング時に路面とタイヤの接地性も確かに感じられるのは、ステアリング、シート、サスペンション、そしてボディの三位一体ならぬ、四位一体によるものだろう。
気になるパワートレイン、新設計「e:HEV」の実力
動力も大幅に見直された
まずガソリンエンジンだが、従来の1.3Lのガソリンタイプを継続搭載。ただしエミッションと低フリクション技術採用により、燃費も向上した。
そして注目のハイブリッドだが、こちらには新設計の「e:HEV」(イー・エイチイーブイ)なる小型2モーターシステムが搭載される。
e:HEVは駆動用、ジェネレーター(発電)用の2モーターを持ち、基本は駆動モーターで走行。バッテリーが減ったとき、より力強い走行をしたいときにはジェネレーターで電気を作るためにエンジンがかかる。その両方の電気エネルギーで力強く駆動モーターを作動させて走る、というのはこれまでと変わらない。
発進はモーターだけで静かに。ブレーキ時はジェネレーターで回生しバッテリーで電気を貯める。
街中ではほとんどのシーンでモーターだけの走行が可能になり、加速が必要なシーンでは瞬時にエンジンが発電し、エンジンで発電した電力とバッテリーの電力で力強い加速が可能となる。
高速道路ではモーターは停止し、エンジンがホイールに直結。これによって高速燃費が大幅に改善されるという。発生トルクは1.5Lターボ以上のトルクを発揮するというが、どうやらそれはホントのようだ。アクセルを踏み込んだときの力強さ、再加速の頼もしさも十分。
多段クラッチのような体感
新しいフィットのe:HEV、速さにはシャープさが、フィーリングにはリニアな感覚が増している。楽しくて快適だ。
これには新採用のステップシフトの存在もポイントとなっている。
これまでのハイブリッド車は、ジェネレーターでエンジンを始動する際アクセルを踏むと必要以上にエンジンが高回転まで上がってしまい、エンジン騒音が気になった。さらに加速フィールと合わない感覚のズレ(ラバーバンドフィールなどと呼ぶ)もあった。こうしたズレを補正しようとアクセルを緩めエンジン回転を下げたりすると、今度は電気エネルギー不足により失速気味になる。
要するにこれまでのハイブリッド車は燃費こそ優れるものの、走りと静粛性のバランスが上手くいってなかったのだ。
そこで新型では、エンジンの制御にステップシフトを採用。体感的には多段クラッチを有するDCTのように変速する。スムーズで、エンジンをMTで操っているかのようなフィーリングをアクセルペダルだけで行うことができた。段階的に加速する感覚や、変速ショックがあるようなところまで“演出”されている。
これを小さなフィットに搭載するため、大幅な小型化を行った。加えてトランク下のバッテリーも同様に小型化した。昇圧技術で少ないバッテリーで大きな出力が得られるうえ、シートアレンジに支障はないというところにもこだわっているのだ。
安全装備 ホンダセンシングも進化!
カメラが高性能化
安全は、JNCAP☆☆☆☆☆5スターレベルだそうだ。
さらにホンダセンシングも進化した。そのポイントは、従来ミリ波レーダーとカメラで行っていたセンシングを、新型では高性能のフロントワイヤレスカメラと前後の8つのソナーセンサーに変えたことだ。
これにより、横方向のセンシングが特に向上している。また8つのソナーにより、これまで感知できなかったコンビニガラスなどでのブレーキ制御、後方は誤発進制御に加え、ブレーキ制御もできるようになったそうだ。
カメラの高性能化により、従来の対向車とのブレーキ制御、右直事故のようなシーンでのブレーキ制御もできるようになった。横断する自転車や街灯がないような場面での歩行者の感知もできるようになったという。
新型フィットに用意された5つのバリエーション、あなたはどれが好み?
単純な性能だけじゃない、新しい選び方
そして新型フィットの購入時に注目すべきなのが、お客様の好み(ライフステージやライフスタイル)に合わせた5つのバリエーションだ。
■基本はその名の通り「BASIC(ベーシック)」。シンプルながら上質な内外装のデザインが特徴だ。
■中心は「HOME(ホーム)」。これはインテリアを中心に差別化が図られ、エクステリアで2トーンが選べる。
■「NESS(ネス)」はスポーティ。軽快なスポーツウェアのようなカラーリングはファッショナブルで、気分も盛り上がる。
■最上級の「LUXE(リュクス)」は、ダウンサイジングする方にも満足できる装備や質感が与えられている。フィット初の本革シートも採用、専用ホイールやカラーで差別化が図られ、クラスを超えた性能や快適さをより質感も抱くパッケージで心地よく楽しめそうだ。
■追加される「CROSSTAR(クロスター)」はSUVテイストのモデル。ロードクリアランスも標準より30mm高いアクティブ仕様。ウォータープルーフ素材の内装を採用し、アクティブ層には注目のモデルとなりそう。
個性豊かな5種類、それぞれの画像&解説はコチラ
まとめ:早く街中で乗ってみたい!
期待を越えてきた新型フィット
これまでも、コンパクトクラスの中でホンダ フィットの実用性の高さはピカイチだと思っていた。
その一方で、乗り心地や音、フィーリング、そして質感はより良いに越したことはない(つまり、改善の余地はある?)という印象もあった。
新型フィットは今回、それらを大幅に改善したうえ、さらにフロントウインドウの視界という新しい価値も加えてきたのだ。
日常の“体験”を大切に
街中、そして日常を大事に開発された新型フィット。
そのデザイン性も含め(ボディカラーや内装色のセンスもいいっ!)、次なるは街中というリアルワールドでの体験をするのが楽しみだ。
[筆者:飯田 裕子]