衛生管理を徹底し子牛の死亡減 国内最大級、杉本本店の巨大牧場(人吉市)

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矢岳牧場の生産管理システムについて説明する杉本本店の杉本光士郎社長=人吉市

 宮崎県との県境に近い熊本県人吉市矢岳町。標高約540メートルの山間地に県内最多、和牛では国内トップクラスの4700頭の母牛を飼養する「矢岳牧場」がある。経営は宇城市の杉本本店グループ。牛の死亡率を抑える衛生管理の徹底や、一貫した生産管理システムを実践する大規模な黒毛和種繁殖経営の現場を訪ねた。

 「敷地を全て歩くと6時間はかかりますよ」。車で牧場内を案内してくれた社長の杉本光士郎さん(35)がハンドルを切りながら笑みを見せた。約52ヘクタール、東京ドーム11個分の敷地に、1棟約250頭を収容できる大型牛舎35棟が立ち並ぶ。

 牛舎に足を踏み入れると、ふんの臭いがほとんどしないことに気が付いた。ハエも極めて少ない。「毎日、徹底した清掃を欠かさないんです」と杉本さん。社員が毎日、果樹用の薬剤散布車を使って牛舎と牛の体を同時に消毒して回る。常駐の獣医師による、子牛の成長段階に応じたワクチン接種プログラムも特徴の一つだ。

 これらの衛生管理によって下痢や肺炎などの疾病リスクを抑え、矢岳牧場の子牛の死亡率は約1%。農林水産省によると全国の平均死亡率は約6%で、それに比べるとかなり低く抑えられている。杉本さんは「生後数カ月の牛は一度病気になると発育が悪くなり、肉質にも影響が出るので予防に力を注いでいる」と説明する。

 1日に生まれる子牛は平均12頭、1月に約400頭。獣医師を含むスタッフが24時間体制で出産に対応している。子牛は生後3カ月ほど母子同室で母乳を飲ませて育て、免疫力アップを促すという。母子同室以外にも、母牛舎や分娩[ぶんべん]舎など繁殖のステージごとに牛舎を分けて管理することで、疾病を予防したり業務効率を高めたりしている。

 同社はもともと食肉加工・卸売業者だが、「自社の管理下で育てた牛が一番安心」と90年代に入って自社肥育を始めた。2004年には自社ブランドの牛肉「黒樺牛[くろはなぎゅう]」も売り出した。

 和牛オーナー制度で経営破綻した安愚楽牧場(栃木)から11年に矢岳牧場を買い取り、翌年から繁殖にも乗り出した。現在、同牧場を中心に繁殖した子牛を、県内外の直営牧場や預託先農家の計約40カ所で肥育。グループの飼養頭数は肥育、繁殖合わせて1万8千頭まで増加した。

 規模拡大を進めるのは、少子高齢化で国内の生産体制が細る中、消費者のニーズに応えるためだという。来年1月には、昨年末の環太平洋連携協定(TPP)に続き、日米貿易協定が発効する見通しで、安価な輸入牛肉との競争激化は必至だ。ただ、裏を返せば貿易自由化は市場拡大のチャンスでもある。「海外では日本食や和牛が人気。輸出も見据えて整備してきた食肉処理場が来春完成するので、今後は輸出にも力を入れる」と攻めの姿勢で挑む。(福山聡一郎)

(2019年12月16日付 熊本日日新聞朝刊掲載)