かつて隆盛を誇った西川口 全国に名を轟かせた「NK流」を警察が本気で潰した あれから十数年……街は一度も栄えず、死んだ

キラキラと輝いていた西川口メインストリートは今…(筆者撮影)

本当に街は再生したのか? そう自問自答したくなる関係者も多いのではないか。ふた昔前、「埼玉の歌舞伎町」とまで言われた歓楽街が、意外な苦戦に喘いでいる。

ぶっ壊された街

かつての埼玉の歌舞伎町こと西川口はいまから10年以上前、あまりにも隆盛が過ぎた歓楽街を警察が一掃した。それまでも見せしめ的な摘発はあったが、文字通り風俗街をすり潰す勢いで壊滅したのだ。そして、あとには空き家となったテナントビル群が累々……。

お上の想定では、そこに“健全”な店を入居させ街を活性化させるハズだったが、現実はそううまくはいかない。実際、最初に風俗店の穴を埋めたのは、立ちんぼなどの違法な売春行為だった。まあ、NK流と呼ばれた本番行為アリの風俗も合法かと言われれば「?」もつくが、少なくとも店舗を持ち、料金明瞭で客にとっては安心できるものではあった。

しかし、立ちんぼは料金こそある程度は信用できるものの、店舗はなく万が一のトラブルのときに解消するすべもない。しかも、立ちんぼとして現れたのは日本人女性ではなく、中国人女性だったのである。

ことの良し悪しは別にして、外国人労働者が日本の街に定着していくにはひとつの流れが出来上がっている。まず、その街が過疎や西川口のように激変して人の流れが止まること。そうなると賃料などが安くなり、外国人労働者が借りやすくなってくる。さらに、知人・家族などを呼び寄せて……というのがパターンで、これを「集住」と呼ぶ。

西川口の場合だったら、まず風俗などに従事する女性がいて、それをサポートする男性が集まる。彼らが多くなれば、食事をする店も必要となり、さらに住むようになると各種生活必需品も必要となる、という流れだ。

実際、そのような過程で人は集まり、いま現在の西川口駅周辺にいると、ここは日本か?と錯覚するほど中国語が飛び交い、中国料理の店が多くなっている。

二度と立ち直れない――

一部のマスコミでは、バラエティに富んだ中国料理店が出来たこともあり、エスニックタウン、新中華街などと取り上げるムキもある。確かにそうした側面はあり、日本人に馴染の広東料理や北京料理だけではなく、東北(地方)料理、福建料理など珍しいグルメもあって興味はひく。

だが、残念ながら「中華街」「グルメタウン」と呼ぶには西川口自体のパイが小さく、街を活性化させるほどのブームを起こすのはなかなか難しい。つけ加えていえば、身近な東京である池袋がすでに中華タウン化して久しい。中華グルメならまずそちらに足を運ぶだろう。そこらあたりを街の人々に聞いてみたが、「グルメの街と言われるほどは人が来ていない。ほとんどが中国人の客」というのが現実なのだ。

またパイの大きさで言えば、いくら中国系の店が多くなっても店舗数には限りがあり、かつて風俗ビルだったテナントなどは、10年以上たったいまでも空き室のままのところもある。

「正直いって、昔に比べれば人はまったくいなくなった。タクシーも深夜になれば西川口にあまり寄りつかない。せいぜい、仕事が終わった立ちんぼや客引きなどショートの客がほとんどだからだ。街も全体的に暗くなって地元の人間以外は怖がる人もいる」、そう語るのは古くから地元で店舗を構える商店主だ。

結論を言えば、警察が威信をかけて風俗街を抹殺した結果、10年以上たっても街は再生せず、かつての活況は取り戻せていない。そして新たにあらわれたのは日本ならざる異国情緒だった……ということ。これが是なのか否なのか、お上はどう評価するのだろうか。(取材・文◎鈴木光司)

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