カタールがアラブ諸国から断交された理由とは 運河建設で陸続き解消も? 結局は意地の張り合い【世界から】

UAEのドバイにある「ドバイ・ファウンテン」。世界最大とされる噴水ショーは人気で、世界各国の人でいつも賑わっている。しかし、かつて多くの人が訪れていたカタールからの観光客の姿は今はない=伊勢本ゆかり撮影

 中東・ペルシャ湾沿いにあるカタールは、秋田県よりやや狭い面積の小国だ。にもかかわらず、天然ガスや原油などの資源に恵まれ、中東諸国の中でも裕福な国の一つに数えられる。

 カタールといえば、ことしの世界選手権のマラソンで暑さによる棄権者が続出し、東京五輪のマラソン会場を変更するきっかけとなったことが記憶に新しい。また2022年にはサッカーのワールドカップ(W杯)開催国というイメージが強いのではないか。

 しかし、この国は近隣アラブ諸国と国交断絶してから2年以上がたつ〝孤立した国〟という面もある。日本では詳しくは報道されることが少ないアラブ諸国の外交問題は現在、どうなっているのだろうか。

 ▽衛星テレビ局の免許も取り消し

 発端は17年6月5日に、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトのイスラム4カ国が一斉発表したカタールとの国交断絶にある。発表は、主な理由としてイスラム原理主義組織のムスリム同胞団など「テロ組織」への支援を挙げている。イエメンやインド洋の島国・モルディブなども4カ国に続いて断交している。

 各国は国境を封鎖し、カタール航空の乗り入れを禁じた。また、カタールに駐在する外交官を直ちに召還するとともに、カタールにいる自国民には帰国を要請した。同時に、自国内のカタール外交官は48時間以内、カタール国籍の人は14日以内に国外退去するよう命じた。それだけなく、サウジアラビアとUAEはカタールへの白砂糖輸出を即刻ストップ。カタール政府が出資する衛星テレビ局アルジャジーラの免許も取り消して、現地支局を閉鎖させた。

サウジアラビアと陸続きの半島部分がカタール。赤線部分に運河建設が計画されている

▽楽観的かつ頑固なカタール、奇策に出たサウジアラビア

 一方のカタール政府は冷静に対応した。加えて「数カ月で事態は収拾する」とする楽観的な見方が強かったため、同国内で大きな混乱が起きることはなかった。

 最も心配されたのは、8割近くを輸入に頼っている食料を始めとする物資の不足だった。ただ、これも断交発表直後こそ食品の買い占めが起きたものの、イランやトルコから十分な量が供給されるようになると収まった。結果として、断交による影響はほとんどなかったと言える。

 イスラム教の聖地メッカがあるサウジアラビアは強硬措置を取りつつも、政治と宗教は別という立場を取ってきた。このため、カタール国民のメッカ巡礼も許可されていた。

 だが、18年9月、この状況は一変する。サウジアラビアはカタールとの国境部に最大28億リヤル(約820億円)をかけて運河を建設すると発表したのだ。表向きは、海運の向上と海岸線のリゾート開発だとサウジアラビアは主張するが、半島状の国土を持つカタールを陸から完全に切り離して「島」にする計画なのは明らかだろう。

 そこまでするか? あきれてしまうほど「壮大な」プロジェクトだ。サウジアラビアは「計画は予定通り遂行する」とコメントを出している。だが、工事が始まったという話はついぞ聞かない。つまり、サウジアラビアに実行する気はないのだ。では、狙いは何か。カタールに揺さぶりをかけることなのだろう。

サウジアラビアなどとカタールの断交後、夫と自由に会えなくなった大学職員の女性=17年5月27日、ドーハ郊外(共同)

 ▽カタールと過激派組織の密接な関係

 スケールこそ大きいが、中身は大人げない「けんか」―。一連のやりとりを俯瞰(ふかん)してみるとそう思えてくる。だが、家族で自由に会えなくなるなど影響を受けている人は少なくない。

 そして、この国交断絶は複雑な事情や理由が絡み合って引き起こされている。主なものは次の通りだ。

①同じイスラム教スンニ派が大多数を占めるものの、教義の解釈に違いがある

②サウジアラビアなどが敵視しているシーア派のイランと親密な関係を築いている

③ムスリム同胞団などの過激派組織への資金提供疑惑

 断交宣言した各国が特に問題視するのは③。サウジアラビアやエジプトなどは、アラブ諸国やイスラム教がテロリストのイメージと結びつくことに強い懸念を抱いている。それだけに、カタールが進める独自の外交路線に他国がいらだってしまうのだ。

 カタールは過激派組織との関連を強く否定しているものの、サウジアラビアなどはこの発言を信用していない。18年10月、3年もの間過激派組織に拘束されていた日本人ジャーナリストが解放された。その際に「カタールが救出に一役買った」とする報道がなされ、日本政府も「人質解放に際して尽力したカタールとトルコ政府に感謝する」とのコメントを出していることを踏まえれば、カタールと過激派組織の間にある強い結びつきを想像せずにはいられないだろう。

 ▽願うのは、ただ平和

 今年に入って、UAEはカタール人の出入国を事前申請制で許可していると改めて表明。世界貿易機関(WTO)に起こしたカタールへの訴えも取り下げ、これ以上争わない姿勢を見せた。さらに、クウェート王族の長老が改めて和解を呼び掛けたほか、サウジアラビアで開催されたアラブ首脳会議にカタールの首長が出席するなど和解と融和に向けた動きが見られる。

 流れを受けてだろう。この12月にカタールで中東各国が争うサッカーの国際大会「ガルフ・カップ」が開かれたが、断交中のサウジアラビアとバーレーン、イエメンも出場した。関係各国がスポーツを介して再び集結したことについて、地元メディアは「仲たがいが終結する兆し」と好意的に伝えた。

 アラブ人同士、双方のプライドをかけて始まった今回の争い。意地の張り合いから長期化してしまっている感が否めないこの問題は今後、どう決着するのだろう。「なし崩し」なのか、それとも「劇的」なのか―。それでも、一つだけ確実に言えることがある。

 誰もが、争いではなく平和を願っているということだ。(ジャーナリスト、伊勢本ゆかり=共同通信特約)

カタールの首都ドーハのスーク(市場)。観光名所となっているが、訪問客は明らかに減少したという=17年7月6日(共同)

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