水1リットル300円!  観測船「しらせ」の水事情  気象予報士のぼちぼち南極

 第61次南極観測隊を乗せて昭和基地に向かう観測船「しらせ」は、オーストラリアの最終寄港地を出ると、4カ月近くは無寄港・無補給となる。でも、その間もお風呂や洗濯は可能。そのためのさまざまな設備が船内にあるからだ。貴重な真水を確保し、大事に使っている水事情を探った。(共同通信=川村敦、気象予報士)

1日の仕事を終え、観測隊員用の浴室でくつろぐ隊員たち=19日、南極海(共同)

 ▽茶色、赤…、湯船はカラフル

 しらせには運航する海上自衛隊の乗組員と観測隊合わせて約250人が乗っている。浴室は複数あり、湯船が備わっている。が、もちろん「湯水のごとく」じゃぶじゃぶ使うわけにはいかない。どうするかというと、航海中は海水を温めて湯船に張る。最初は「どんなものだろう」と及び腰で入ってみたけれど、どうしてなかなか、いい湯である。少しぬるっとした感触があるが、それほど違和感はない。

 ところがある日、湯船をみたら、なぜか茶色く濁っている。観測隊員に聞くと、プランクトンの豊富な海域ではこういうことが起きるのだとか。言われてみればこの日の湯はかすかに磯臭い。別の日には、赤々とした湯が入っている。何事かと思ったら、これは誰かが湯船に入れた入浴剤のせいでした。

「しらせ」の観測隊員用男性浴室にはシャワーもある

 シャワーは真水。流しっぱなしは厳禁だ。体を洗うときは頭も一緒に洗い、まとめて流す。当然ながら節水対策は徹底している。観測隊用の男性用浴室の湯船は3~4人が入れるくらい。女性隊員に聞いたら、女性用はもう少し小さいらしい。

 船上で観測をしている間は真剣な顔をしている隊員たちも、風呂の中ではほっとした表情を浮かべている。お風呂がリラックスの場というのは日本にいるときと変わらない。

 ▽トイレは30秒以上流す!

 洗濯機も節水のため、数日分をまとめてスピードコースで洗うことになっている。トイレを流すのも海水だ。

 面白いのが、トイレを流す際は30秒以上流すように言われていること。海水だけはいくらでもあるためかと思ったら、実は、出したものを確実に処理装置まで送るため。そうすることで、有毒な硫化水素が発生するのを防げるのだという。

 機関長の藤村智治(ともはる)2佐(43)によると、しらせには真水を入れるタンクが430トンある。出港時に満タンにしても、長期の航海をこれでまかなうことはできない。そのため、ボイラーの熱で海水を加熱し、発生する水蒸気を冷やす仕組みの造水装置も2台備えている。水温にもよるが、2台がフル稼働すれば1日で最大120トンの真水をつくることができる。

 船では1日当たりだいたい50トンの水を使う。だから、燃料さえあれば真水がなくなることはない。藤村さんは「なくなることはないが、水を無駄に使うことは燃料を無駄に使うことになる。燃料の節減のためにも節水を呼び掛けている」と説明してくれた。

 ちなみに、造水装置でつくる水は1リットル当たり約300円の費用がかかる。国内の日常生活ではあまり意識しない水が、いかに貴重なものかが分かる。

南極観測船「しらせ」船内にある造水装置

 ▽使用水は浄化処理、空き缶は持ち帰り

 では、使い終わった水はどうしているのか。風呂や洗面で使った生活排水は、バクテリアや薬剤などを使った処理装置で浄化し、海に流している。トイレの廃水は、別系統の処理装置を使って浄化してから流している。

 ただ、浄化しても残る沈殿物は、海域によっては海に流すことができない。最終的に残った物は日本まで持ち帰り、帰国後に処理しているそうだ。しらせはごみの焼却装置も備えている。空き缶はつぶして容積を減らし、保管しておくということだった。

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