ROTTENGRAFFTYの『CL∀SSICK』はロックバンドらしい奔放さが貫かれた逸品

『CL∀SSICK』('04)/ROTTENGRAFFTY

12月18日にニューシングル「ハレルヤ」とトリビュートアルバム『ROTTENGRAFFTY Tribute Album 〜MOUSE TRAP〜』をリリースし、さらに12月21日&22日には京都パルスプラザにおいて自主企画イベント『ポルノ超特急』を開催するROTTENGRAFFTY。それを記念して、当コラムでも彼らのアルバムを紹介してみよう。

ロック本来の混合サウンド

音楽ジャンルでのミクスチャーロックという言葉を最近あんまり使わなくなった気がするのだが、いかがなものだろうか? そもそもこの言葉は和製英語であって、日本以外では通用しないということは以前もこのコラムで書いたような気がする。ミクスチャー(mixture)=混合だから、本来であれば(…という言い方も何か変だが)、ミクスチャーロックとはさまざまなロックを混合したスタイルを指すのだろう。だけれども、ミクスチャーロックというと、ラップを取り入れたものやヒップホップ要素のあるロック、あるいはレゲエ要素のあるロックという意味合いが強いように思う。ラップメタルなんていうのもそうだ。Wikipediaにもそんなふうにあるのでおそらくこれが周知のことではあるのだろう。

別にそれはそれでいいのだけれど、ちょっと落ち着いて考えてみると、ロックはもとより混合の音楽ではある。1950年代半ばの米国で出現したロックンロールは、[リズム・アンド・ブルースや、ブルース、ゴスペルなどの黒人音楽を基に、カントリー・アンド・ウェスタンやブルーグラスなど白人の音楽スタイルを融合させて成立したとされている]([]はWikipediaより引用)。Chuck BerryやLittle Richard 、Elvis Presleyの音楽がまさしくそれである。そうした米国の影響を受けたのがThe Beatles、The Who、The Rolling Stonesなどの英国のバンドたちで、彼らがロックンロールをさらに進化、深化させたことはここで言うまでもない。そうした英国バンドが米国でも支持を得たことに端を発して世界的なロック人気が爆発し、どんどん分派していったこともまた言うを待たないと思う(“ロックンロールとロックとは異なるもの”という見解もあるようだが、その辺を語り出すといくらWEB上といっても長くなり過ぎるし、何よりも面倒なもので、ここでは“ロック≒ロックンロール”としておいてください)。

エレキギターの音色を派手に、音量を大きくしたハードロックや、そこからの派生と言えるヘヴィメタル、また、それらと相対するかのようにテクニックに頼らないパンク~ニューウェイブ辺りは混合の感は薄い気はするが、クラシック音楽やジャズとの融合を試みたプログレッシブロックなどは、字義通りのミクスチャーと言えるだろう。ブルースロック、フォークロックもそうだし、インドの民族楽器を取り入れたラーガロック、中南米やカリブ海地域の民俗音楽の要素のあるラテンロック、日本で言えば沖縄民謡とロックを融合させたオキナワンロックもそのひとつと言えるかもしれない。やはりロックは混合の音楽であって、ミクスチャーロックとは“頭痛が痛い”や“危険が危ない”とか、“チゲ鍋”とか“サルサソース”みたいなものであることが分かる(註:チゲはハングルで鍋料理の意味、サルサはスペイン語でソースの意味)。そして、極めて手身近ではあるがこうしてザっとその進化を振り返ってみても、ロックとは実に寛容なジャンルであることも分かる。

何でそんな話をしたかというと、ROTTENGRAFFTYがミクスチャーロックバンドと紹介されていたからに他ならないのだが(それもまたWikipediaからの引用です)、彼らのメジャーデビューアルバム『CL∀SSICK』を聴くと、事はそう単純ではないことも分かった。ヴォーカルパートにはラップもある上に、分かりやすくガツンとラウドに展開するサウンドもあるので、確かにラップロックやラップメタルの類い=所謂ミクスチャーロックと見る向きがあることも理解できなくもないけれども、もっと広義な意味での混合の音楽──上記で述べたような、本来のロックらしさと言うべきものが備わったデビュー作であると感じたのである。

自らの革新性に対する自負

M1「PORNO ULTRA EXPRESS」はオープニングSEかと思うようなデジタルサウンドで始まる。シンセや同期を使っているし、ヴォーカルパートはいきなりラップで、そこにヘヴィなギターリフが重なって、歌はシャウト気味に展開していくので、いかにも“ミクスチャー”といった印象を受ける。だが、2回目の繰り返し、いわゆる2番から単音弾きのギターが重なるところが面白い。ニューウェイブ的というか、ニューロマ風というか、誤解を恐れずに言えば、DEAD ENDから脈々と連なる日本独自の音楽スタイルの注入を感じるのである。当時この界隈にはあまりなかった組み合わせだと思う。そんなふうに思って、改めてM1を頭から聴き返してみると、確かにデジタルを取り込んではいるが、イントロからギター、ベース、ドラムの3ピースの音をスポイルしていない。ちゃんとバンドサウンドを構築していることがよく分かるのだ。“当たり前のことを言うな”と𠮟られることを承知で言うと、しっかりとロックバンドなのである。

《ここから未開の地へのストーリー/導いてやるぜ本当に/後悔なんてさせやしないから/金と銀輝くREVOLUTION》《1音1語1分1秒…/重ね重ね積み上げた意義をのせて》(M1「PORNO ULTRA EXPRESS」)。

歌詞からもバンドであることの意識と、自らの革新性に対する自負がうかがえる。その意気や良し。メジャーデビュー作のオープニングに相応しいナンバーである。

M1で感じたロックバンドらしさといったものは、それ以後どんどん露わになっていく。M2「切り札」はエッジの立ったギターの音色もさることながら、イントロからブルースハープが聴こえてくる。この辺は俗に言う“ミクスチャー”とは明らかに異なる。ファンキーなリズムに重いギターリフ、そこにラップが乗るパートはあるにはあるが、ベーシックはロックンロール~パンクである。サビメロはとてもキャッチーで、本作がリリースされる少し前に流行っていた“青春パンク”の流れを汲むものである印象がある。M3「フロンティアスカンク」はギターのカッティングが興味深く、やはりこのバンドのギターは他とは一線を画す存在であることがはっきりする。全体の聴き応えはハードロックに近いだろうか。具体名を出して恐縮だが、ちょっとRED WARRIORSやZIGGYの雰囲気がある。間奏近くでマイナーに展開して、ノスタルジックかつ落ち着いた印象になるところは、まったくと言っていいほど“ミクスチャー”な感じはないと思う。少なくとも俗に言う“ミクスチャー”を標榜するバンドではないことは間違いない。

M4「e for 20…」でその辺は確信に変わる。Bメロでレゲエ風になるところがわずかに俗に言う“ミクスチャー”要素を感じるところであるが、全体的にはビートロック。サビメロはBOØWY辺りから続くJ-ROCKの王道とも言うべきキャッチーさを湛えている。また、間奏ではメロディーがさらに古典的なものへと変化しつつ、サウンドも(琴だろうか三味線だろうか)和楽器風の鳴りを響かせ、ここでは歌詞も古文風となる。イントロでのアナログ盤的なノイズとラジオエフェクトも耳を惹くが、ある意味で奔放とも言える全体の混合具合が相当に興味深い。

《真と心と芯のMIX STYLE》(M3「フロンティアスカンク」)。

《ALL change with my undulation Oh/進化する音 TRIBE/引火する言語 DRIVE/焦らず急ぎ感じて勝ち取る/革命的日常》(M4「e for 20…」)。

上記の歌詞からすると、彼ら自身も確信の元で臨んでいることがありありと分かる。

ポテンシャルの高さをダメ押し

ややジャジーな匂いをさせつつも基本的にポップで軽快なM5「pq」を挟んで奏でられるM6「(無題)」は、アコギのアンサンブルにシンプルな歌を乗せた、まったく奇を衒った感じのないスローバラード。こういうタイプがアルバムにあることで、ROTTENGRAFFTYが実験的であったり、衒学的であったりする理由で音楽に取り組んでいないことも想像できる。聞けば、この楽曲はNOBUYA(Vo)が敬愛するという故hideへの思いを綴った曲だという。真摯な姿勢が表れたものだろう。hideという人も分け隔てなく音楽に接していた人だったと聞く。氏が亡くなったのはROTTENGRAFFTYの結成前だから、少なくともバンドとしての交流はなかったのだろうが、その意志は継承されていると言っていいのだろう。

BPMの高い、即ち速いM7「∞」。AIR JAM以降のパンクにテクノポップを組み合わせたかのようなM8「ケミカル犬」。ドラマ『ツイン・ピークス』のメインテーマのような低めのギターから入ってラウドに展開し、しかも歌はキャッチーにリフレインするM9「Synchronicitizm」。パンクにレゲエ、テクノポップ、大サビでは3拍子、加えて解放的な歌メロと美麗なコーラスワークも聴ける、まさに何でもありと言えるM10「MASSIVE DRIVEN」。と、後半も自由奔放なサウンドが連なっていくが、ラスト、メジャー第一弾シングルでもあったM11「悪巧み〜Merry Christmas Mr.Lawrence」はその止めと言っていい出来栄えである。タイトルでピンと来る人も多かろうが、もともと存在していた彼らのオリジナル曲である「悪巧み」に、坂本龍一の代表曲のひとつと言っていい「戦場のメリークリスマス」を大胆に組み合わせている。パッと聴きリミックスやマッシュアップのようにも思うが、あの印象的なメロディーをエレキギターでトレース。ロックバンドとしての矜持を示しているようでもある。THE MAD CAPSULE MARKETSがYellow Magic Orchestraの「SOLID STATE SURVIVOR」をカバーしたことがあったが(1992年のアルバム『SPEAK!!!!』に収録)、それを彷彿させる佳作である。まさしく《心のオモチャ箱引騒き回し》たような(《》はM11「悪巧み〜Merry Christmas Mr.Lawrence」の歌詞の引用)、ROTTENGRAFFTYのポテンシャルの高さをダメ押ししているようで、アルバム『CL∀SSICK』のフィナーレを飾るに相応しいナンバーである。キレもいい。

さて、そのROTTENGRAFFTYは今年結成20周年ということで、ニューシングル、トリビュートアルバムがリリースされたことは前述の通りで、さすがにアニバーサリーイヤーらしい盛り上がりを見せている。ただ、その経歴を少し調べてみたら、シングルがチャートでトップ10入りしたのが2017年の「「70cm四方の窓辺」」が初で、アルバムのトップ10入りはその翌年である2018年の通算6枚目『PLAY』であった。また、初の日本武道館公演を実現させたのも2018年10月だ。つまり、完全に遅咲きである。ただ、アルバム『CL∀SSICK』で示したロックバンドの潜在能力を改めて考えればこうした高評価も分かり切ったことであるし、日本国民がそれに気づくのが遅すぎたとしか言いようがないのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『CL∀SSICK』

2004年発表作品

<収録曲>
1.PORNO ULTRA EXPRESS
2.切り札
3.フロンティアスカンク
4.e for 20…
5.pq
6.(無題)
M7「∞」
8.ケミカル犬
9.Synchronicitizm
10.MASSIVE DRIVEN
11.悪巧み〜Merry Christmas Mr.Lawrence

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