会社から離れた場所でパソコンとインターネットを使って仕事をする「テレワーク」が今、重い障害を抱える人たちが在宅で安心して働ける手法としても広がり始めている。先駆的に取り組む企業の一つ、保険調剤薬局大手クオールホールディングスの特例子会社クオールアシストで働く社員らを取材した。(共同通信=北本一郎)
▽12都道県、47人が在宅フルタイム
グループ内のデータ入力やデザイン、ウェブサイト制作などを手掛けるクオールアシストは、2009年の設立時から重度障害者の在宅雇用を推進してきた。当初7~8人だった社員は徐々に増え、現在は、北海道から宮崎県まで12都道県の47人がフルタイムで働いている。ほとんどが重度障害者。事故などで車いす生活になった人が多いが、最近では難病の人も増えている。
重度障害者の就職では「通勤」が最大のネックになる。自分一人で通勤できることが事実上の条件になることが多いからだ。クオールアシストではICT(情報通信技術)を積極的に活用。10年かけて通勤を必要としない職場環境を確立してきた。
会社の設立時から取り組む青木英社長(48)は、重度障害者にも「高い能力を持っている人がたくさんいる。動けないという理由だけで働けないのはすごくもったいない」と強調する。
▽年1回の社員総会
クオールアシストは11月22日、東京都内で年に1回の社員総会を開いた。全国から約40人が集まり、研修や交流会に参加した。
普段は音声会議システムでミーティングをやりながら仕事をしているが、チームワークをさらに磨くため、こうした実際に集まる機会をつくっているという。
三重県に住む田邊千晴さん(22)は、小学生のときに交通事故に遭い、首から下が動かなくなった。赤外線操作システムを使ってパソコンを自在に操作。イラストレーターというソフトで年賀状やポスターのデザインを制作する。田邊さんたちがつくる年賀状は同社サイトで一般にも販売され好評を得ている。
入社3年目となり今ははオンラインで後輩社員の指導もする。「いつも声だけで会話をしていますが、1年に1度こうして顔を合わせてお話しできるのはとても楽しいです」と笑顔で語った。
▽やりたい仕事ができている
群馬県に住む筋ジストロフィーの社員、深澤謙人さん(27)は14年に入社。ウェブサイトの制作チームで活躍する。大学でITを学び、障害者技能競技大会(アビリンピック)のパソコン関連競技での入賞歴もある。卒業後には働きたいという気持ちが強く、大学を通じて「障害者枠」での就職を検討したが、「日常生活で介助が必要なことを考えると難しかった」。
そんなときにネット検索でクオールアシストを知った。入社した今は「自分のやりたい仕事ができている」と力強く語った。
宮崎県の菊池雄二さん(48)は元とび職人。4年前に旅行先でおおけがをして胸より下が動かなくなった。病院やリハビリ施設に1年以上いた後に、やっと自宅に戻れたという。
「外の仕事だったのでパソコンは全然できませんでした。でもこのままではもう働けないと思い、リハビリ施設にいるときに少しパソコンの勉強をしました」。18年に入社し、今はデータ入力チームで働く。在宅勤務のメリットを聞くと「生活の中ではトイレが一番不便。在宅ならトイレに行きやすい。そこがいいですね」。
▽フレックス制
愛知県の岩田信二さん(25)は大学を卒業して入社した。骨が弱くなる難病を抱え、車いすの生活を送っている。
大学の通学は親が車で送り迎えをしてくれた。「僕にとって通勤は苦でしかない。車から降りる際の介助もいります。親に付いていってもらわないといけないので、その間は親も働けません。在宅勤務なら親も自由にできます。僕も外に出てけがをする心配がないし、天候も気にしなくてよい。今の僕には一番合っていると思います」
勤務時間をフレックス制にしているのも大きなポイントだ。朝の8時から夜の10時まで、自由に働く時間を決められる。社員には病院に定期的に行ったり、生活介助を受けたりする必要のある人が多いが、フレックスならその時間を避けて働ける。疲れたら長い休憩時間を取ることも可能だ。
東京都の小林久美子さん(40)は週に3日、1日4時間の人工透析を受ける。透析のある日は透析から帰ってきた後に働く。「毎週計12時間、病院に行く必要があるので、在宅で仕事をできるのは魅力的です」
▽チームプレー
「個性もばらばら。障害も地域もばらばら。だけど団結力がある。背負っている境遇が同じという認識が強いからかもしれません」。青木社長はチームプレーがこの会社の強みと言った。
会社の「10周年記念誌」やグループ会社の会社案内を見せてもらった。すべて音声によるコミュニケーションだけで各地に散らばる社員が協力してつくった。「会社案内は10日でできた」。総会では、クオールグループの社員向け福利厚生サイトをつくったチームが表彰された。
▽重度訪問介護
重度障害者を巡っては、障害福祉サービスの「重度訪問介護」について、就労中に介助費の補助を受けられないことが、国会でも取り上げられる問題となっている。さいたま市では独自に在宅就労中にもサービスを受けられる支援策を始めた。
青木社長は「重度訪問介護は、働けるための制度に変わってほしい。ご家族の負担が全然違ってくる」と指摘する。
今後について聞くと「地方には働きたくても働けないという障害者の方々がまだたくさんいるはずだ。各地の福祉関連機関や団体と連携して採用地域を広げていきたい。そして、社員のスキルを高めて一般の会社と同じレベルの仕事ができるようにしていきたい。それに合わせて売り上げが増えれば社員の給料も改善していきたい」。来年は社員が50人を超える。グループ外の仕事の受注も本格化させる考えだ。