買い物慎重派が60万円の高級時計を購入、決め手はサブスクでの“出会い”

生活者の新しい消費観・消費行動を解説する連載の第6回。第5回に引き続き、サブスクリプションサービス(以下:サブスク)を積極的に利用している生活者をご紹介します。第5回では、サブスクを利用して「買わずに使う」生活を送る女性をとりあげましたが、それとは逆に、サブスクをきっかけに以前はしなかった消費をするようになったという方もいます。今回は、服やコンテンツなど、多数のサービスの利用経験がある30代男性の例をご紹介いたします。


安さよりも、返品しやすさが大事

都内在住のI・Tさんは、「とにかくものを無駄にしたり、損をするのが嫌」という気持ちが強いといいます。買ったまま使わずに場所をとってしまったり、捨ててしまうというのはもってのほか。加えて、多くのものは所有しているうちに価値が下がっていくので、できるだけ持ちたくないと考えています。

彼は日常の買い物はほぼネットショッピングで済ませていますが、ネットでの買い物は品質が不安定なので、レビューをじっくり読み込んでから購入。★5(最高評価)のレビューは信用できないものも多いので、★1~2といった低評価で理由が詳しく書かれているものや、「他の製品も試してみた」という人を参考にしています。また、欲しい製品に詳しい友人がいれば、どれがおすすめかを徹底的に聞くようにしているそうです。

とはいえ、どこまで慎重に検討したとしても、ネットの買い物は最終的には買ってみないとわかりません。そのため、購入する時の最重視ポイントは「返品できるかどうか」。返品NGのセール品と返品OKの定価品があったとしたら、彼は迷わず返品OKの定価品を買うといいます。安く買うことよりも、「損をしない」ことが重要だと考えているんです。

サブスクは「新しい経験を買う感覚」

そんなI・Tさんがサブスクを使い始めたきっかけは、1か月無料お試しキャンペーン。当初はメリットがわからず懐疑的だったものの、使ってみると意外と楽しかったといいます。特に、月額1~2万円程度で高級時計を借りられるサービスを使ったときは、高級時計に対する考え方が大きく変わったそうです。それまでは「ブランドに高いお金を払うなんて……」と考えていたのが、実際に使ってみたことで「高い時計には高いなりの価値がある」ということがわかり、気に入った時計を60万円で購入するに至りました。

60万円で購入した高級時計

普段の買い物にはとても慎重な彼が、サブスクには積極的にお金を投じ、高級時計の購入にまで至ったのはなぜでしょうか。それは、新しいものに触れるという「経験を買っている」意識が強いからだといいます。「サブスクのメリットは、自分からは取りにいかないものと出会えること。今はやめてしまったものも、それほど大きな負担をせずに『自分には合わない』ということがわかったので、試した価値はあった。どれも良い経験だったと思っている」とI・Tさんは話します。

サブスクが消費の入り口に

博報堂生活総合研究所の「消費1万人調査」によれば、オンラインショッピングの利用経験がある人は90.9%にのぼっています。また、ECなどが登場したことによる消費の変化について、「簡単になったか、難しくなったか」を聞いた質問では、「簡単になった」が74.4%と、多数を占めています。

一方で、「大胆になったか、慎重になったか」を聞いた質問では、「慎重になった」が69.5%にのぼります。インターネットでの買い物は便利な反面、実物が見られないので、慎重に検討する人が増えているのかもしれません。

こうした慎重な人にとって、買わずに気軽に試せるサブスクは、消費のハードルを大きく引き下げるものなのではないでしょうか。I・Tさんのように「1か月無料お試し」などをきっかけに使い始め、だんだんとその価値がわかるようになり、それまで買おうと思っていなかったものを購入するに至る。そんな新しい消費の形が生まれつつあるようです。

【調査概要】
・消費エクストリーマー調査
調査地域:首都圏
調査手法:家庭訪問および会議室でのデプスインタビュー
調査対象:20~40代の男女
フリマアプリ・サブスクリプションを積極的に利用している方、スマホゲームや趣味に積極的にお金を使っている方、家計簿に力を入れている方など
※機縁法およびweb・SNSを通じてリクルーティング
調査期間:2019年4月8日~6月14日

・消費1万人調査
調査地域:全国
調査対象:15~69歳の男女
調査人数:10,000人(国勢調査に基づき性年代・エリアの人口構成比で割付)
調査手法:インターネット調査
調査期間:2019年5月28日~6月1日

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