『ネオサピエンス』岡田尊司著 共感を求めない新人類

 他人との共感を求めない新種の人間の急増によって人類は新たな進化の段階に突入している――という仰々しい宣言から始まる。とはいえ、精神科医の長年にわたる臨床経験と研究データに基づく現状分析であり、背筋が冷たくなる近未来予言の書でもある。

 著者によれば、この数十年、幼い時に必要な愛情を受けられない「愛着障害」による境界性パーソナリティ障害や摂食障害、鬱病などが爆発的に増えている。さらにそうした環境に適応すべく、最初から他人と交わることに喜びも関心も持たない「回避型人類」が世界的に激増しているという。

 背景にあるのは、女性の職場進出と離婚の増加、そしてコンピューターゲームやインターネットの浸透といった情報環境の激変だ。

 セックスを忌避し、単独生活を選び、人より物や情報を好む回避型人類は世代を超えて広がり、遺伝子レベルにまで影響を及ぼして、新人類(ネオサピエンス)が旧人類を凌駕しつつある、というのが著者の見立てだ。回避型の割合は欧州で成人の3割、北米で2割、日本では若者の過半数に及ぶというデータも紹介される。

 新人類の台頭で社会はどう変わるのか。生命医療を駆使した生殖と養育、薬物による感情のコントロール、AIによる世界統治。著者が描く近未来はディストピア的様相を帯びる。

 回避型人類はAIと親和性が高い点が不気味だ。議論を分かりやすくするため単純化・図式化してはいるものの、非現実的なSFと一蹴はできない。

(文芸春秋 1400円+税)=片岡義博

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