ライブレポ:ロックンロール世界遺産、キッス最後の来日公演! 2019年 12月11日 KISS が「エンド・オブ・ザ・ロード・ワールド・ツアー」を東京ドームで開催した日

KISS アーミー大集結、これが最後の来日公演?

2021年7月17日のニューヨークでのラストショウまで、全世界を駆け巡るフェアウェルツアー中の KISS が日本に上陸した。オジー・オズボーンの原稿『ランディ・ローズの死後、オジー・オズボーンを支えた敏腕ギタリストたち』でも書いたが、アーティストの引退宣言に僕は疑心暗鬼であり、今回も正直同様だった。

しかし、あの重いコスチュームを着用して KISS の完璧なショウを全うし続けることが、年齢を考えると “肉体的” な限界に達している、というジーン・シモンズのインタビューでの発言が、納得いく理由に思えた。結果的に、僕は最後の日本公演を観たいという気持ちに変わっていった。

会場の東京ドームには年季の入った “KISS アーミー” が集結した。コスプレとメイクを施した強者を始め、久方ぶりにライヴに足を運んだであろう年齢層のファンも見受けられた。中には親子3代で観戦と思われる方々や若いファン層も混じっているのは、彼らの普遍的な魅力を物語っているようだ。

多種多様なグッズを売るテントには長蛇の列だ。思えばアーティストをキャラクター化して、マーチャンダイズで本格的にビジネスに結びつけたロックバンドの先駆者は、KISS をおいて他にないだろう。

期待通りのエンタテインメント、極上のハードロックンロール!

「デトロイト・ロック・シティ」に始まり、「ロックンロール・オールナイト」で締めくくる2時間に渡る最後の東京公演は、どこを切っても “期待通り” の究極のエンタテインメント・ショウだった。せり上がるステージ、耳をつんざくパイロや無数の火柱、ジーンの火吹きや吐血、ポール・スタンレーのサブステージへの飛行、そして空を舞う銀テープの紙吹雪に巨大風船。お馴染みの演出が、極上のハードロックンロールに乗せて、伝統芸能の如き “お約束” で次々と繰り出されていく。

何度もライヴに足を運んでその光景を観ているのに、不思議と飽きない。それは映画やミュージカルの名作を観る感覚と似て、ストーリーやオチまで全てわかっていても、いつだって最高に楽しませてくれるのが KISS のショウだ。実際、今回のツアーの映像が無数にネット上にアップされており、それを事前にチェックしていたが、実際に生で体感するのとはまるで次元が違う。

そんな、いつもと変わらぬ楽しい時間の中でも、大画面のモニターに映し出されたジーンやポールの姿を観ていると、これで最後なのかと何度も感慨を覚える場面があったのも事実だ。それは今から40数年前、僕にとってロックの入り口になったバンドのひとつが KISS だったからだ。

KISS にとって激動の時代、80年代に彼らは素顔を見せるのか!?

僕が最初に覚えた KISS の曲はラジオで流れた「ストラッター’78」で、人生で初めて買った LP盤が、78年のジーンのソロアルバムだった。まだ小学生だったので、地獄の怪人の如きジーンの風貌が、ウルトラマンの怪獣あたりを見るのと大差ない気持ちで大好きだった。吐血パフォーマンスを血糊と知らず、写真を見て本当に血を吐いているとさえ思っていた。

程なくして初めて手にした KISS のレコードは『アライヴⅡ』で、文字通り擦り切れるまで聴きまくり、布団叩きを使ってエアギターでエース・フレーリーになりきった。

以来、フィギュアを集めるようなマニアではなかったけど、常にその動向を見続けてきた。リマインダー的な視点にフォーカスして歴史を振り返ると、70年代に全ての成功を手にした KISS にとって、80年代はまさにバンド史上最も激動と言える時代だった。

80年代に入り、大きく動いていくミュージックシーンの中で、KISS から届いた最初のアルバムが80年『仮面の正体(Unmasked)』だった。その名の通り、ついに彼らは素顔を見せるのか!? という衝撃に包まれたが、ジャケットにはイラストが描かれていただけだった。

ポップ化と揶揄されたアルバムへの賛否や、メンバー間の不協和音で日米市場でのバンドの人気は次第に下落していく。82年には KISS 最大の問題作にしてコンセプト作『エルダー~魔界大決戦(The Elder)』、82年にはピーター・クリスと袂を分かち、メタル路線にシフトした『クリチャーズ・オブ・ザ・ナイト(暗黒の神話)』をリリースするも迷走が否めず、KISS はどうなってしまうのかと気を揉ませた。

遂にメイクを捨てた KISS、メタルブームに乗った第2の黄金期

そんな中で83年、伝家の宝刀が抜かれる。83年にリリースした『地獄の回想(Lick It Up)』で、KISS を KISS たらしめるメイクを遂に捨て、素顔を晒した写真をジャケットに使用したのだ。タイトル曲の PV を観て、初めて素顔で動くポールとジーンを目撃することが叶ったときの興奮は今も忘れ難い。

アルバムは、折からのメインストリームでのメタルブームに乗りヒットを放つ。さらにエリック・カー、ブルース・キューリックといった新メンバーの活躍もあり、80年代中盤から後半にかけてリリースされたアルバムも次々とヒット。音楽のチカラだけで第2の黄金期を作り上げていった。あの煌びやかな80年代に最もマッチしそうなメイクやド派手な演出ではなく、より音楽にフォーカスした等身大の KISS として活動を続けたのは、今考えると不思議なことだ。

僕が KISS のライヴをようやく生で観れたのもこの頃だ。89年の大阪城ホールでのライヴはノーメイク時代で、派手な演出はほとんど登場しなかった。けれども、70年代の名曲と80年代の楽曲をバランス良く織り交ぜたショウは素晴らしく、彼らの極上のハードロックンロールが全ての魅力のベースになっていることを改めて実感させられた。

90年代、再びメイクを施した KISS の思い…

結局、KISS は90年代に入り、再びメイクを施して現在まで紆余曲折を経ながらも活動を続けたが、今回のファイナルショウでも、80年代の楽曲が多くセットリストに組み込まれていたことは興味深い。ジーンやポールにとってもノーメイクで勝負しチャートを席巻したことで、楽曲への自信、思い入れはひとしおなのであろう。

そして、今回の来日メンバーであり近年活躍しているギターのトミー・セイヤー、ドラムのエリック・シンガーも80年代とは切っても切れないアーティストたちだ。トミーといえば、80年代の LAメタルムーブメントの先陣を切ったブラック・アンド・ブルーのメンバーだし、エリックはジェイク・E・リーとのバッドランズをはじめとしたバンドでの当時の活躍を想起してしまう。

そんな生粋の80sメタラーの彼らが KISS のメイクを施し、80年代の KISS の楽曲を演奏している姿を観るのも、改めて何とも感慨深いものがあった。

イメージは歌舞伎役者、願うはロックシーン初の世襲バンド!

今回のツアーパンフは、 KISS の長い歴史から選ばれた貴重な写真で見事に構成されているが、彼らがすでに70年代のデビュー当時から、今に至るコンセプトの全てがすでに完成されていることに、改めて驚かされる。

KISS は本当に終わってしまうのか。それはジーンとポールのみが知ることだが、多くのロックファンは永遠に続いて欲しいと願っているに違いない。すでに提唱している人もいるけど、KISS にはロックシーン初の世襲バンドになって欲しい。2代目ジーン・シモンズ、3代目ポール・スタンレー、そう、歌舞伎役者のようなイメージだ。

もちろん、ジーンやポールの厳しいジャッジに適った人物に限る。実際、今のトミーとエリックを、メイクも同じなことから2代目エース、2代目ピーターとしてファンも見ているのではないか。

この地球に生まれた貴重なロックンロール世界遺産である KISS を永遠に絶やさず、後世の人類にも体験して欲しい。KISS 最後の東京でのショウを観て、僕は改めて本気でそう思ったのだ。

追記:この原稿を書き終わろうとした矢先、何と KISS が東京ドームで共演した X JAPAN の Yoshiki と、年末の紅白歌合戦で共演するというニュースが飛び込んできた。あの伝説の『ヤング・ミュージック・ショー』を放映したNHKに、40数年ぶりにまさかの凱旋である。最後の最後まで驚きを与え続けてくれる KISS、日本での最後の勇姿を大晦日にとくと見届けたい。

カタリベ: 中塚一晶

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