大幅高となった日本株市場は本当に「バブル」なのか

12月13日、米中通商協議において第1段階の合意に至ったと米中両政府から発表されました。筆者にとってほぼ想定通りの合意内容でしたが、米国を中心に株式市場は好感しました。

週明け16日には、米国の主要株価指数は最高値を更新。そして欧州でもStoxx600が同日に2015年以来の最高値を超え、上昇しました。


米中摩擦は解決したのか

とりあえず米中政府の間で一定の合意が実現しましたが、米国が発表した合意内容の中に、中国の知的財産や技術移転の問題是正などが含まれています。これらの問題に中国がしっかり対応するかに関して、筆者は懐疑的です。

今回は、米中ともに合意に至ることで「成果」を得るというインセンティブが強かったように見えますが、今後、今回の合意(米国から中国への要求)がどの程度実行されるかは慎重に見たほうが良いと考えます。

また、中国に対し、経済的・外交的に圧力をかける米国の長期的な戦略自体は変わっていないとみられます。このため、2020年に今回の合意事項を中国が守らない、あるいは、対中強硬姿勢を強めるのが大統領選挙を有利に進めるための得策であるとトランプ政権が判断すれば、米政府は今回引き下げた関税を再び上昇させるなど、強硬姿勢に転じると予想します。

もちろん、ドナルド・トランプ大統領の立場からすれば、大統領選挙に勝利するためには、米国の世論の支持を得ている中国への強硬姿勢を強めるだけではなく、自国の経済成長の失速や株式市場の下落を回避することは不可欠でしょう。それゆえ、仮に2020年に米政府が再び関税を引き上げるにしても、それと同時に成長率を高める経済政策運営を進めるとみられます。

2020年の米中経済はどうなる?

筆者は、関税引き上げよりも、適切な金融・財政による経済安定化政策が重要で、それは米国、中国いずれにも当てはまるとみています。そして、2020年に米中貿易戦争が再び激化しても、各国の金融・財政政策の効果で各国経済が悪化するリスクは低いと考えています。

経済安定化政策の中で一番大きいのは、2019年7月以降に米連邦準備制度理事会(FRB)が行った3回の利下げ、その後のバランスシート拡大への転換だとみています。

金融緩和の景気刺激効果が2020年に顕在化するため、関税引き上げなどの悪影響によって製造業の生産活動の伸び悩みが続いても、国内需要主導で米国経済は2%前後の底堅い経済成長が続くでしょう。

また、2020年は中国でも金融緩和による経済安定化策の効果も期待され、世界的な製造業の調整が早期に底入れする可能性が高いとみています。

米欧株は2020年も期待できるか

2020年の金融市場はどう動くでしょうか。

米国において、民主党の大統領候補が誰になるなどの政治情勢が、米国の通商政策の“変数”となると思われます。米国の政治動向をめぐる市場参加者のシナリオ想定や思惑がより複雑化するため、2020年は米国政治をめぐる思惑が市場心理を揺るがす場面が多くなるかもしれません。

2019年の金融市場を振り返ると、年央の米中の緊張関係の高まりによって株式市場が下落した場面は、特にパフォーマンスが良かった米国株の押し目買いの機会となりました。2020年も米中貿易戦争で市場心理が揺らぐ場面は、同様にリスク資産に安値で投資する機会になりえるとみます。

ただ、2019年のように米欧株などの年間上昇率が20%以上に達するほど、株式市場の好パフォーマンスは期待できないでしょう。2020年の世界経済は安定成長となりますが、成長率の加速は期待できないためです。

日本株がバブルとは言えないワケ

最後に、読者の多くが興味を持たれている日本株市場について、筆者の見方を述べます。日経平均株価は9月初めには2万円台で停滞していましたが、12月には2万4,000円台まで大幅高となりました。先に説明したように、米欧株の主要株価指数が最高値を更新する中で、日本や新興国も含めて世界的な株高となったためです。

過去3ヵ月余りの日経平均株価の大幅高を受けて、バブルではないかとの見方が聞かれます。ただ、年初来で株価指数のパフォーマンスを地域別に比較すると、米欧よりも劣ったままで、米欧株を中心にみている筆者からすれば日本の株高はマイルドに映ります。

2020年も米国を中心に株高トレンドは崩れないとの筆者の想定が正しければ、バブルの領域まで日本株が上昇しているとは言えないでしょう。

ただ2020年の日本経済は、消費増税による緊縮財政政策の強化によって、ほぼゼロ成長に停滞すると予想します。オリンピック開催で東京を中心に雰囲気は明るくなるかもしれませんが、すでに最近の経済減速の余波で求人数がやや減少するなど、2018年まで好調だった労働市場の減速が始まっています。

2020年は海外からの追い風で株式市場は底堅いでしょうが、家計所得と個人消費の失速によって、景気回復の実感が多くの国民に広がることはないでしょう。経済政策の失敗によって、安倍政権の政治的な求心力がさらに低下し、2019年までは世界で最も安定していたと言える日本の政治情勢が不安定化する展開を筆者は懸念しています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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