レコ大候補「パプリカ」と今年の漢字「令」に隠された景況感の暗号

世間はすっかり年末ムードです。12月12日の「いいじひとじ」の漢字の日に京都・清水寺で同寺貫主が揮毫するニュースは、年末の風物詩となっています。2019年の「今年の漢字」は「令」が選ばれました。

また、12月30日には日本レコード大賞の発表があります。今年で61回目となる日本レコード大賞候補の優秀作品賞10作品の中には、小中学生ユニットFoorinが歌う「パプリカ」が選ばれています。同曲は2020応援ソングプロジェクトによる応援ソングです。

実は、今年の漢字に「令」が選ばれたことと、「パプリカ」が今年のヒット曲になったことからは、日本の景気の先行きについて共通した暗示が読み取れます。2つの事象が指し示す景況感とは、明るいものなのでしょうか。


巧みに景況感を示唆する「今年の漢字」

日本漢字能力検定協会は毎年12月12日に、その年1年の世相を表す「今年の漢字」を清水寺で発表します。子供から大人まで一般の人がハガキやインターネットなどで投票し、多くの票を集めたものが選ばれる仕組みです。どんな漢字になるかで、足元の景況感を推し量ることができます。

景気が良く明るいムードが社会に満ちている時は、前向きな意味の漢字が選ばれる傾向にあります。たとえば、愛知万博が開かれた2005年が「愛」だったのは、いざなみ景気の拡張局面にあることを示唆する象徴的なケースでした。

逆に景気が落ち込んでいる時は、暗いイメージを思い起こさせる字が選ばれやすい傾向があります。北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻といった金融危機が生じていた1997年、1998年の漢字は「倒」「毒」でした。

東日本大震災が発生しても景気拡張局面継続となった2011年は「絆」が選ばれました。「震」(1995年・阪神淡路大震災)や「災」(2004年・新潟中越地震)ではなく、復興への前向きな気持ちを表す漢字が第1位に選ばれたのでした。

同年のベスト10には、「絆」以外にも「助」「復」「支」といった前向きな漢字がランクインしました。世の中の前向きな雰囲気もあり、2011年の景気の落ち込みは極めて短期間でした。

「税」が10位にとどまった事情

小学生など子供も多く応募する「今年の漢字」ですが、2019年は「令」が選ばれました。新元号が「令和」になったことから、その最初の文字を素直に選んだ人が多かったのでしょう。

2位は「新」。新天皇即位による新元号決定が、新たな時代の幕開けを告げた年だということで選ばれました。「○○ペイ」といった新しい支払方法など、新たな時代の到来を感じた人も多かったのでしょう。

3位は「和」。これも新元号「令和」からですが、こちらはラグビーワールドカップで初のベスト8に進出した日本代表の「ONE TEAM」などと絡めて選ばれたとみられます。昨年1位だった「災」は5位にとどまりました。

国民的グループ・嵐の活躍と台風の嵐から「嵐」が6位に、洪水被害などで7位に「水」が選ばれましたが、災害に関する文字のランキング順位は低めでした。4位は「変」でした。元号や消費税率の変更を意識した人も多かったでしょう。

2014年の消費税率増税の年に1位に選ばれた「税」は、2019年は10位にとどまりました。税率の引き上げ幅は前回の3%に対して今回は2%だったことのほか、軽減税率の導入やポイント還元といった消費増税のマイナスの影響に対する対策も取られたことで、消費税増税の影響は2014年よりは軽微だった可能性が今年の漢字にも表れているようです。

子供の歌のミリオンセラーに共通する現象

子供の歌の大ヒットも、景気と関係があります。子供の歌はジワジワ人気が出るもので、発売日に予約して購入するアイドルグループの曲と違います。ここでは初動売上枚数ではなく、総売上枚数を見ます。

オリコンができた1960年代後半から数えて、100万枚以上売れた子供の歌は5曲しかありません。「黒ネコのタンゴ」(約223万枚、1969年)、「およげ!たいやきくん」(約453万枚、1975年)、「おどるポンポコリン」(約164万枚、1990年)、「だんご3兄弟」(約291万枚、1999年)、「慎吾ママのおはロック」(約111万枚、2000年)の5作品です。

「黒ネコのタンゴ」は高度成長の最後。「たいやきくん」は、第1次石油危機からの回復局面。「おどるポンポコリン」はバブル最盛期です。この曲、「何でもかんでもみんな踊りを踊っているよ」と踊らされた時期と一致します。

「だんご3兄弟」は1999年3月発売なので、同年1月の景気の谷から景気拡張局面に入った時期。「慎吾ママのおはロック」は2000年8月、拡張局面の終盤でした。

「パプリカ」はレコード大賞をとれるか

子供の歌のヒットからは、親の財布の緩み具合がわかります。子供はお金を持っていません。「のんびり」とした気分で子供が欲しがる作品を親が買ってあげられる余裕があるといえます。

逆に2007年12月発売の「崖の上のポニョ」の映画はヒットしましたが、CDは約38万枚しか売れませんでした。景気局面を見ると、2008年2月の第14循環の景気の山の直前の発売でした。CDの発売時期と景気がおかしくなっていく時期が重なってしまいました。親は財布のヒモを締めたのでしょう。

今年は久しぶりの子供の歌のヒットの可能性があるでしょう。第61回日本レコード大賞候補となる優秀作品賞10作品の中に、シンガー・ソングライター、米津玄師がプロデュースした「パプリカ」が入っています。「パプリカ」を歌う小中学生ユニット、Foorinが万一受賞となれば、史上最年少の受賞者です。

NHK紅白歌合戦への初出場も決まったFoorinは、5人組の小中学生ユニットで、幼稚園や小学校では「パプリカ・ダンス」がブームです。この歌は今年11月18日付でオリコン累積売上が11.7万枚、デジタルシングルの累積売上は46.5万枚であるといいます。万一、レコード大賞となれば、さらなる売上増の可能性があるでしょう。

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