[東京Petit-Cine協会]Vol.107 ネットメディアの世界

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txt:ふるいちやすし 構成:編集部

成熟していくYouTube番組

この9月から1月まで、YouTube番組の仕事をしている。とは言ってもYouTuberになったわけではない。ちゃんとクライアントから依頼され、しっかりとした製作費も戴いて、バラエティー番組を作っていたのだ。

あまり言ってはないが、以前からこういう企業絡みの映像は多く手掛けており、収入源としてはむしろ映画関係よりは多いのだ。というか、そちらで稼いで映画に注ぎ込んでいると言った方がいいかもしれない。

これまでもホームページ素材やインフォマーシャルといった形で企業宣伝に利用する番組やショートムービーを作った経験はあったが、ここまでしっかりと予算を割いて、YouTubeをメディアとして利用した企業戦略番組は私にとって初めてで、時代の変化を感じている。やはり企業にとってYouTube視聴者いうのはターゲットとして無視できないどころか、年齢層をかんがえるとむしろ地上波よりも有用性があるのだろう。

YouTuber達の使うメディアというよりは、そこに確実に視聴者が存在し、広告のターゲットとして認められてきている。今回この仕事に携わって知ったことだが、そこにはとっくにネットに特化した広告代理店が存在し、インフルエンサー達を使った独特のPRを提供する会社も存在する。「何を今さら!」と笑う人もいるかもしれないが、ネットメディアの世界はこれからもドンドン成熟していくのだろし、大企業ですらそれを当たり前に利用し、それに伴い、周りの業態も充実していくだろう。

成熟という意味では今回の番組のコンセプトは面白いモノだった。完全にPR番組だというのに、できるだけCM色を消してくれというのだ。増してや通販番組みたいには絶対にするなという。従って商品が出ても価格などは出さず、商品テロップも小さく出すという徹底ぶり。正直これには私も出演者も戸惑った。本当にこれでいいの?っていうくらい、宣伝色を隠したトークバラエティ番組を目指した。ネットメディアの捉え方が確実に変わってきているいい例だと思う。キーになるのは“その先に多くの人がいる”ということだろう。ひょっとすると地上波よりも面白い事になっていくかもしれない。いや、確実にそうなるだろう。

今回の体制はスタッフだけでも15名という私にとってはあまりない大所帯で、もちろん地上波のテレビ番組のような製作費は出ていないが、代理店が2つ噛んでいるところを見ると、クライアントはかなりお金をかけているように思う。そして驚いた事に、ゲストに呼んだ一流どころのタレント達にもさほど抵抗感はなく、楽しんで出演してくれた。この辺りに関しては、プロダクションによってまだまだ温度差があるが、これだけちゃんとした体制で番組が作られるのであれば、早く抵抗感を捨てた方が勝ちだろう。

いずれにしても、いわゆるYouTuber達の作る世界とは次元の違う企画力とセンス、クオリティーが求められていくと思う。つまり我々のクリエイティビティーが試され、必要とされる舞台になりつつあるという事だ。楽しみになってきた。

現代の映像制作に向き合うこと

いい話ばかりではない。最近、知人の紹介で新しい形の映像製作会社を作りたいので一緒にやらないか?という声がかかり、話を聞きに行った。ネットの環境が整ったお陰で、今や個人商店やSNSまで、とんでもなく多くの映像が必要とされている(うん、そこまでは分かる)。その中には大したクオリティーなんか必要のないモノが沢山ある(あれあれ?)。そういう小さな仕事を一手に格安で引き受け、スマホと学生のバイトを使ってやってしまおうというモノだ。

で?そこで僕に何をやれと?スマホでもカッコ良く撮れて編集できるようにバイトの教育をしてほしいと。ところで一本幾らくらいで受けるつもりなのかと聞くと、3000~5000円程度を考えているという。気分が悪くなって席を立ったが、彼がふざけているとは思えず、いや、そういう業態は彼がやらなくてもいずれ出てくるだろう。

確かにスマホのカメラの進歩は凄い。私が受けた仕事でも、クライアントの社員さんがスマホで撮った映像を組み入れた事もあったし、一度だけ工場の作業工程のタイムラプスをスマホでやった事もあった。確かにクオリティーは充分だったし、手振れ補正のクオリティーに至っては、ジンバルなんか使わなくても充分使用に耐えうる。もちろん4Kなんてへのカッパ。そう、“それでイイじゃん”というシチュエーションは確実にあるし、それは増えていくに違いない。

それでは100倍以上の予算を掛けて作る映像の価値とは何なんだろう?大判センサーによる映画のような表現?色味の微調整?確かにそれもあるだろうが、クライアントの目線で考えると、100倍の価値があるかは疑問だ。少なくとも我々プロフェッショナルはこの時代に真剣に向き合わなくてはならない。

そこで私が行き着いた一つの答が打ち合わせ段階での適切な提案と演出だ。それも商用映像に関してはターゲットとそれに対する効果も踏まえた意見を言わなくてはならない。そのコミュニケーションがちゃんとできた上での表現技術だ。そこにプライドをかけられないようではこの先やってはいけないと思う。

もちろん、その為には日々の研究が必要だ。映画のような表現は確かに得意な分野ではあるが、それがどういうターゲットのどういうシチュエーションにどういう効果を与えるかまでをしっかり考え、プレゼンできないといけない。その上で、技術がモノを言うのだ。映画を作る時は、ただ自分の考える美を追求すればいいかもしれないが、商用映像の世界に足を踏み入れるなら、クライアントと視聴者の満足を徹底的に求める姿勢と能力が必要なのだ。技術は技術。機材の性能は性能として、それだけでは売り物にはならない。それを何の為に使うかが大切な事なんだ。

映画作家の私がこういう事を言うとガッカリさせてしまうかもしれないが、それによって自身の作品を作るお金が得られるのなら、嫌々やっていてはいけない。実を言うと、私はこういう仕事も大好きだったりする。もちろん、スイッチはハッキリ切り替えるが、今回稼いだお金で、来年早々短編を一本撮るつもりだし、それに必要な新しい機材も手に入れる事ができた。無論、映画を作っているだけで生活できて機材も買えるというのが理想ではあるが、そうでなくても作品を作り続けてこそ映画作家なのだ。そしてその為になる事なら、真剣に取り組むべきなのだ。

大塚家具製作のバラエティー番組「ハピなびStyle」。私は構成・演出・編集そしてキャスティングまでも務めたプチシネスタイル。週に一回の制作会議、月に一回の撮影で4本を撮り、週に一本の割合で編集している。これを書いてる時点で撮影は全て終えているが、編集・公開は1月半ばまで続く。