いじめ自殺 第三者委調査の課題 京都精華大教授・住友剛氏「法を生かす条件整備が必要」

「法を生かす条件整備が必要」と話す住友教授=京都市内

 2017年4月、長崎県長崎市の海星高2年の男子生徒=当時(16)=が自殺した問題について、高校側がいじめ防止対策推進法に基づき設置した第三者委員会は2018年11月、「いじめが自殺の主要因」との調査結果をまとめた。しかし、高校側が受け入れない状況が1年以上続き、着地点は見えないままだ。同法や制度に課題はないのか。学校での事件・事故の対応に詳しい京都精華大人文学部の住友剛教授(教育学)に聞いた。

 -高校側が第三者委の調査結果を受け入れていない。

 第三者委を設置して調査をすると決めたのだから、たとえ意に沿わない結論が出たとしても、一定受け止めなければならないというのが、文部科学省の立場だろう。だが学校現場が納得できないという事態は起こりうる。

 -文科省は「基本的に学校側が受け入れることを前提にしている」と説明する。

 それは文科省の認識不足。いくら法や制度で義務付けても、現場が受け入れがたいと感じ、拒否的反応を示すことは当然ある。そもそもいじめ防止対策推進法や関連ガイドラインは、自殺など「重大事態」の調査義務やその結果の公表など学校に厳しいことを求めている。その分、学校現場がこの法律を大事にして、いま一度自分たちの実践を見直したいと思えるよう地道な啓発が必要だが、そこが不十分だ。

 -全国各地で第三者委など調査組織に不満の声が相次いでいる。

 大切なのは制度を作るだけではなく、それを生かす下地を作ること。各地の弁護士会や臨床心理士会など職能団体が推薦する人が委員を務めるケースが多いが、調査組織の運営に精通している人はまだまだ少ない。遺族や学校側とどのように関係を築き調査を進めるか。そこで行き詰まるケースも少なくない。
 調査報告書の内容について、少なくとも遺族、学校、学校の設置者の3者が納得した形で調査を終えるのが理想。そのためには、ガイドラインは求めていないが、調査組織が自らの見解などについて遺族と学校側の双方に説明し、理解を得る努力が必要だ。

 -努力をしても理解されないこともあるのでは。

 双方に納得してもらうためにはさまざまな工夫や配慮が求められるが、まだ実践的なノウハウが蓄積されておらず、成功例を積み重ねなければならない。ただ最終的に理解を得られなかった場合、説明の経過や意見の相違点などを記載して報告書をまとめるのも一つの手法。そうすれば遺族と学校側がどの部分で相いれないか、という点は少なくともお互いに納得できるのではないか。
 どのような教育実践をしていれば、子どもがいじめを苦に命を絶つことはなかったのか。どうすれば学校は遺族の心情に寄り添いながら、再建に向けて歩むことができるのか。調査には、学校関係者が亡くなった子どもや遺族からの問い掛けと向き合う作業を伴う。この問い掛けへの答えは、法や心理の専門家らの力を借りつつ探らなければならないが、最後は教育学の関係者が引き受けるべきだろう。

 【略歴】すみとも・つよし 1969年生まれ。神戸市出身。1999年4月~2001年8月、兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」の調査相談専門員を務める。14、15年度、文部科学省の「学校事故対応に関する調査研究」有識者会議委員。14年から現職。著書に「新しい学校事故・事件学」(子どもの風出版会)など。

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