埼玉県川口市のクルド人児童差別問題はなぜ起きたのか 日本の『移民問題』はすでに始まっている

問題となった小学校(筆者撮影)

トランプ政権の「裏切り」とも批判された中東政策の変更で、クルド人が窮地に追い込まれたことは記憶に新しい。国をもたない最大の民族と言われるクルド人だが、日本でその名前がマスコミを賑わしたのは「イジメ」被害であった――。

マイノリティへの偏見

舞台となったのは埼玉県川口市のA小学校。近年、川口ではクルド人の定住化が進み、およそ1500人が市内で生活している。これは在日クルド人の4分の3にあたり、その集住地区は最寄り駅の名をもじって「ワラビスタン」とも呼ばれるほどだ。

そのクルド人の小学生女児が複数の児童から、身体的、精神的なイジメを受けて登校拒否になってしまった。

最初にこの“事件”の現時点での決着を述べておくと、今年5月、被害児童と加害児童の家族間で「和解」が成立しており(A小学校・教頭談)、本稿ではイジメ自体を蒸し返す気はなく、ましてや児童である加害者を批判する気はない。また、イジメ内容等はマスコミなどで報じられているので、ここでは省きたい。

大切なのは、この「事件」が大きく取り上げられた要因だ。それはざっくりと言えば、学校側のイジメに対する対応であり、いまひとつはクルド人というマイノリティに対する偏見であろう。

マスコミに報じられた当初、学校側の窓口となったB教頭(当時)のマスコミに対する説明は二転三転。そのことによって、「イジメを隠蔽しているのではないか」と主にネットを中心に批判が殺到した。

しまいには、B教頭はもちろん、加害児童の“犯人捜し”まで始まるなど、イジメを含めた二重の人権侵害の様相も呈してきたのだった。

知らない人たちへの怖さ

そして、いまひとつのクルド人児童への差別問題。

これは稿をあらためて詳細をルポしたいが、単に児童間だけの問題ではない。根っこには、地域社会と集住化が進むクルド人の間で、少なからず軋轢があることに起因する。A小学校の隣の学区に住み、小学生の児童を持つある母親はこう証言する。

「このイジメはママ友の間でも話題になりました。ただ、現実的な問題としてクルド人と日本人の間で意思の疎通に欠けているのは事実。トラブルも少なくなく、(クルド人)家族単位での移動が多いので話声がうるさいとか、一か所に集まるので路駐されて迷惑しているとか、ゴミ出しのルールを守らないとか……多かれ少なかれ住人は我慢していると思います」

大人たちの間で不満が渦巻けば自ずと子どもたちにも伝播していくであろう。このようなことが、なんら罪のないクルド人女児へのイジメに繋がっているのだとしたら、その解決策は容易ではないのだ。

もっとも、イジメの舞台となった学校側も、事件を受けてそれなりの対処はしているようだ。前述したA小学校の現教頭はいう。

「(事件後の)一学期に、クルド文化の講習会を校内で開きました。また、『クルド語で挨拶しよう』という試みも行っています。さらに、二学期にはクルド人児童の保護者会も開催しています」

イジメ事件を受けて、いささかの泥縄感はなくはないが、それでも現実的にクルド人児童の数が多い以上、このような試みが、イジメ被害の再発防止になんらかの役に立つではあろう。

いずれにしても、外国人の集住という、少子化日本で避けて通れない課題が、このクルド人児童イジメ問題からは透けてみえる。今後どのように対応していくのか。日本人の覚悟が求められている、とも言えそうだ。(取材・文◎鈴木光司)

※TABLOでは定期的にこの問題を取材して
掘り下げていきたいと考えています

© TABLO