「来年はもっとできる」―プロ未勝利だった西武本田を抜擢した投手コーチの決断とは?

今季はプロ初勝利を含む6勝を挙げた西武・本田圭佑【写真:荒川祐史】

プロ4年目の本田圭祐、今季は初勝利を含む6勝(6敗)を挙げ飛躍の1年に

 今シーズン、リーグ2連覇を達成した西武。最大8.5ゲーム差あったソフトバンクをシーズン終盤に猛追し、パ・リーグ史上最も遅い130試合目で首位に立つと、そのまま一気に頂点まで駆け抜けた。主要打撃5部門を独占した超強力打線に注目が集まるが、若手投手陣の成長もチームの躍進を語る上では欠かせない。今季初勝利を挙げた投手はドラフト1位の松本航をはじめ5投手。その中でも特に飛躍の1年を過ごしたのはプロ4年目・本田圭佑だろう。

 開幕ローテーションが内定していた内海哲也、榎田大樹が故障で離脱。ローテ入りが有力視されていたドラフト1位・松本航も肺炎を発症するなど、開幕直前になってもローテ投手6人がなかなか揃わなかった西武。そこで2019年シーズンの1軍投手コーチを務めた小野和義氏が白羽の矢を立てたのは、プロ3年でいまだ白星のなかった本田だった。“第6の男”としてマウンドを託された本田はロッテ打線を7回途中4失点にまとめプロ初白星をあげると、その後もシーズンを通して16試合に先発し6勝(6敗)をマーク。貯金を作ることは叶わなかったが、先発ローテの一員として十分な働きで優勝に貢献した。

 春季キャンプ中に行われたロッテとの練習試合で先発し、2回3安打4四球と精彩を欠いて即2軍調整を命じられていたこともあり、開幕ローテーションを予想するにあたって本田の名前を挙げていた人は多くはなかった。

 シーズン終盤、小野氏に本田を開幕ローテに指名した理由をたずねてみると「右で緩急を使っていく投手がいなかった。うちはどちらかというとパワーピッチャーが多いから、3連戦でバリエーションをつけるならそういう(緩急をつける)ピッチャーが1人いた方がいい。本田はコントロールはいいけど慎重になりすぎてしまう部分がある。大胆な投球ができるようになるまで使ってみたらどうなるんだろうという思いがあった」と決断に至った長期的なビジョンを明かしてくれた。

今季1軍投手コーチを務めた小野和義氏「あれだけ真面目にやっていて、技術も持っている子」

 さらに「本来なら、右の本格派、左の技巧派、変則ピッチャーがいれば理想。それが1カード、2カードに1枚ずついれば」とシーズンを戦い抜くローテーション作りの骨格について語った小野氏。本田の今季の最速は144キロ。スピードやパワーで押すタイプではなく、緻密な制球とカットボール、カーブ、チェンジアップといった変化球との緩急で打者を打ち取る投球スタイルが持ち味。対して、開幕ローテに内定していた今井達也、高橋光成の2投手は150キロ超の直球を投げ込んでいく本格派。本田のピッチングスタイルが、小野氏が求めていたローテーションの骨格にはまったからこその抜擢だった。

 本田の柔和で素直な人柄も決め手の一つだ。小野氏は「あれで人の意見に聞く耳を持たずに練習を不真面目にやっている子だったら使っていないよ」と豪快に笑い、「あれだけ真面目にやっていて、技術も持っている子。場慣れしてくれれば、来年はもっとできる」と本田のさらなる飛躍を見据えて頷いた。

 小野氏は来季から球団本部チーム統括部編成グループプロ担当に就任し、チームの編成を陰から支える。「人は時間をかけないと育たない。俺がどう言われても使い続けてやっていかないといけなかった。勝つことがファンに応えることだから」。そう話しながら投手陣が汗を流すグラウンドを見やった小野氏。ファンが待ち望んだ投手王国の礎は確かに築かれ始めているようだ。(安藤かなみ / Kanami Ando)

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