バカボンとの異色のコラボCM、BMW1シリーズの新型は「天才」なのか?

およそBMWのイメージとは結びつかない「天才バカボン」、それもアメコミ風の実写ムービーがいきなりテレビ画面の登場し、少々びっくりしました。このテレビCMやWEBムービーは、バカボン一家がBMWの新型車、1シリーズの先進的な機能を紹介しながら、最後は「うちのクルマは天才なのだ」と落ちを付けるコマーシャルです。

天才バカボンとのコラボレーションでBMWが変えたかったイメージと、知って欲しかった先進の安全技術とは?


女性やビギナーにアピール?

面白いとか天才バカボンのイメージとは違うなど、コマーシャルは色々な論争を巻き起こしています。狙いが奏功したかどうかはともかく、刺激的だったことは確かです

とにかく最初は1シリーズの新機能より、スマートなバカボンのパパやレレレのおじさんや目ン玉つながりのおまわりさんこと本官さん、ウナギイヌなどに意識が行ってしまい、いったい何のCMだったのかも吹っ飛ぶほど刺激的でした。

その意味から考えると、果たしてこのコマーシャルは成功したのか?などと思ったこともありましたし、バカボンのイメージとは違うとかスベっているなどと議論も起きていますが、こうして話題になったり、強く印象に残っているのですから、成功と言えるのかもしれません。

ではこの「THE GENIUS BAKABON & BMW」と名付けられたハリウッド映画のような実写版バカボンで、本当に言いたかったことはなんなのでしょう。さらに「もしも多忙なバカボンのママを手助けしてくれる“天才的なクルマ”が現れたら、バカボンたちの日常は一体どう変わっていくのか?」というコマーシャルが投げかけた問いに用意されている答えとは、何なのでしょうか?

今回の新型1シリーズには「リバース・アシスト」、「パーキングアシスト」、そして「BMWインテリジェントパーソナルアシスタント」と言った先進安全などが搭載してあります。

そうした機能を持っているクルマが“日本の女性の毎日を変える”という意味もこのCMには込められていて、どちらかと言えば運転が苦手な人に1シリーズは優しいと言いたかったようです。過去に、アンケートなどでBMWのイメージを女性たちに何度か聞いたこともあるのですが“男性的なクルマ”とか“クルマ好きの人が乗るイメージ”と答える人がけっこういました。

BMWらしいスポーティなサイドフォルム

確かにBMWはコンパクトカーからラグジュアリーカーまで“自分で運転するためのドライビングカー”を標榜し、実際にそうしたイメージ戦略も行ってきたわけですが、今回は少しばかりイメージ転換ということでしょう。

走りだけじゃない選択とは?

実は今回のフルモデルチェンジによってもっとも話題になっているのは前述の3つのシステムではなく、BMWの1シリーズはFR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)にがらりと変身したことです。

つまりこれまでは後ろのタイヤで路面にパワーを伝えていたのですが、新型は前輪がその役割をします。ところがBMW好きやクルマ好きの人たちの言葉を借りれば「運転を本当に楽しむならFR。その貴重なクルマがまた消えた」。

BMW自身も「運転席こそがファーストクラス。もっとも快適なシートだ」というほどドライバーズカーの魅力を前面に出していたほどです。何より、旧型までの1シリーズは、このクラス唯一のFRでしたから、走りが好きな人たちに大きな支持がありました。

一方でFRはキャビンに広さを確保する上で、不利な構造だったのですが今回、歴代1シリーズとして初めてFFとなったことで、キャビンや荷室も広く出来ました。

FF化による恩恵を受け、リアシートの足元のスペースが40mmほど拡大されました。

BMWならではの走り、後輪駆動の味を少しばかり諦めても使いやすさを優先し、高い実用性を確保することが時代に合った決断ということなのです。BMWファンにすれば少々寂しい変更ではあったかもしれませんが、コンパクトなハッチバックである1シリーズの主なユーザーにとってみれば、走りの違いなどはほぼ問題にならないと思います。

参考データなのですが最近の1シリーズのユーザーは4割が女性だそうです。こうなるといつまでも“運転を楽しむために”と抽象的な言葉では説明できなくなってきます。

荷物も人もしっかりとなれて、取り回しもしやすいボディーサイズとなり、1シリーズはFFとなりました。第一、最近のFF車で運転に問題があったり、ストレスを感じたりするほど走りが酷いクルマはないでしょう。

車好きやBMWファンにとって少々残念だった駆動方式の変更という大変革を受けた上で、より安全にも配慮しているということなのですが、さらに高度な安全性能というセールスポイントは加わりました。

まずは「リバース・アシスト」という機能を見てみましょう。実は試乗会でこの機能に一番驚きました。この機能は正確には「リバース・アシスト/後退時ステアリング・アシスト機能」と言います。時速35Km/h以下の走行時なのですが、直近の50mのドライビング・ルートをクルマが自動的に記録し、必要なときにはこれまでドライブしてきたルートに沿って自動でステアリングを操作しながら後退できるのです。

来た道を正確にトレースしながら後退していく「リバース・アシスト」

例えば行けると思って侵入してしまった袋小路。バックが苦手な人にとって全身で入ってしまった路地をバックで抜け出すのは相当なストレスを感じるはず。そんな状況で「リバース・アシスト」を使えば、まるでVTRの逆回しのように車がステアリング操作をしてくれて袋小路から抜け出す、という機能です。アクセルとブレーキ操作はドライバーが行うのですが、ステアリング操作はクルマがやってくれます。

「そんな状況、それほど多くはないよ」と言う突っ込みも聞こえてきそうですが、レアケースだからこそ不慣れですが、ストレスなくバックが出来るわけです。これは実に便利というか「こんなことが出来るんだ」と驚きました。

色々と試したら、これで良かった

次に「パーキングアシスト」です。これはビギナーや女性にとってもっとも苦手な縦列駐車を、ステアリング操作無しでこなしてくれます。まず、システムが駐車可能なスペースがあるかどうかをセンサーが測定します。その上で駐車スペースがあると判断すると、ステアリング操作をドライバーに代わって自動的に行いながら駐車してくれます。

縦列駐車も楽々こなしてくれる「パーキングアシスト」

ドライバーは音によるガイダンスとコントロール・ディスプレイに表示される指示に従ってアクセル・ペダルとブレーキ・ペダルを操作するだけ。これも便利で安全なシステムです。

そしてもうひとつアピールしているのが「BMWインテリジェントパーソナルアシスタント」です。これは、ドライバーの音声だけで、さまざまな操作をアシストするというシステムです。

メルセデスにも“は~い、メルセデス”と呼びかけて色々な設定を行うシステムがありますが、BMWも同様のシステムをすでに採用し、今回は1シリーズにも与えたわけです。こちらは「OK、BMW!」とAIを呼び出すと、あなたの音声を認識して、ナビや空調をコントロールすることができるのです。

この時の呼びかける言葉は、ドライバーが自由に設定できますから「ねぇ、◯◯ちゃん」とか彼女の名前を入れたり、嫌いな上司の名前で命令したりと自由ですが、実はそこまで試していません。とりあえずAIはマニュアル、オーナーハンドブックを記憶していて、あなたの愛車の状態を熟知していますから、優秀なパートナーとして頑張ってくれます。

ただ、実際に試したとき、私の滑舌のためかもしれませんが認識ミスがたまに起きました。AIとの会話で車との愛着は確かに湧くかもしれませんが、通じなかったときのもどかしさを感じる場面もたまにありました。


ここまで見てきましたが、新型1シリーズの一押しシステムはまずまず満足できますし、女性ユーザーにも十分にアピールできると思います。

ドライバーを囲むようにレイアウトされているインパネは見やすく扱いやすい。デジタルメーター類も視認性がいい

一方、クラス唯一のFRというBMWファンにとっての拠り所をなくしてしまった今回の新型1シリーズ、果たして「これでいいのだぁ~」と手放しで言えるのかどうか……。実際に走らせてみると「良く出来たFF」という印象と同時にFFでも十分にスポーティに軽快に走れます。

それに、よりパワフルなエンジンを積み、走りを優先するM135iはXドライブという4WDを採用しました。306馬力の大出力を路面に効率よく伝えるには1輪当たりの負担を軽減できる4輪駆動はいい選択です。

こちらはクルマ好きにも納得で満足度も高いと思います。このクラスを求める多くのユーザーにとってこの段階でのFFかFRかという議論は、要らないように感じると同時に、エントリーモデルの118iが334万円という価格も「欧州プレミアムとすれば、まぁまぁかな」という印象でした。

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