【津川哲夫F1私的メカチェック】レッドブル・ホンダRB15の上昇気流を支えたエクストリームなリヤサスペンション下半角

 長かった2019年F1シーズンも、ついに最終戦アブダビGPが終了。ご存知のとおり、リザルト的にはメルセデスの圧勝となった。そのなかでも目立ったのは(ファンには怒られそうだが!)フェラーリ・チームの不甲斐なさ。それでも今年は我らがニッポンのファンにとっては溜飲が下がるF1シーズンであった。その源はもちろん、レッドブルそしてトロロッソのホンダ軍団の活躍。なにせ3勝を挙げ、レッドブルは表彰台の常連となったのだ。

 今シーズンのレッドブルRB15は結構、エクストリームなコンセプトでシーズンを戦ってきた。尖ったデザインは当たれば大きいが外れても結構大変なのは言うまでもない。

 この写真はRB15のバックエンドを左後方から撮影したもの。リヤサスペンションアームとディフューザーなどが見える。注目は上下のサスペンションアームの角度。ギヤボックスから外側のアップライトに向けて強い下反角が付いているのがわかる。

 他チームにも多少この下半角が見られる傾向にあるが、RB15の下半角は極端だ。写真は静止状態で重量荷重だけが掛かっていてダウンフォースはゼロ。このアーム角度はジャッキアップしても変わらないのがミソだ。

 つまり、RB15のリヤサスペンションはこの静止状態より下には動かないと言うわけだ。これをサスペンションのフル・ドゥループ状態と言うが、普通サスペンションは静止状態から上下に動くのが常識。だがRB15はその常識を覆し、この状態から車体は沈む方向にしか動かない。

 これはRB15のエアロ・コンセプトからの発想で、業界最大の前傾角(レーキ角)を持ち、加速時のサスペンションはスクワットと言われるリヤの沈み込みを容認して、その荷重移動でリヤのトラクションを得て素早く加速する。

 ストレートではダウンフォースでリヤが沈み込んだままでレーキ角は弱くなりドラッグを減らしトップスピードを得る。そして減速時には前荷重となり写真の状態にまでリヤが持ち上り、減速によってダウンフォースを失ってゆく速度を強いレーキ角の増加で食い止め制動力を上げる……。

 しかし、このリヤサスペンション導入初期にはホンダPUの特性にこの可変動作がコラボできず、ダウンフォースのバランスに苦しんだ。安定したダウンフォースを得るためにサスペンションは硬くなり、写真の状態がほぼ通常走行状態にさえなっていた。

 ダウンフォースを優先したがため、マシンの挙動が神経質であったが、レッドブルRB15はシーズン中盤でサスペンション稼働が本来あるべき姿に近づき、ホンダPUの安定したパフォーマンスとのコラボによって総合パフォーマンスを上げた。

 2019年、最終的にはRB15の過激さがメルセデスに次ぐ優れた安定性を築いたと言うわけだ。

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