増えるママさんアスリート 競技も子育ても諦めない 北欧「普通に」、日本でも

ハンドボール女子世界選手権で、試合を終え長男リアスちゃんを抱くスウェーデンのイザベル・グルデン選手=8日、パークドーム熊本

 子育ても、競技も諦めない。そんな「ママさんアスリート」が増えつつある。15日まで熊本県で開催されたハンドボール女子の世界選手権では、生後5カ月の長男と来日したスウェーデンの選手がチームの主力として活躍。日本でも「挑戦して変化を起こしたい」と語るママさんハンドボーラーが、公式戦復帰に向け汗を流している。(共同通信=柄谷雅紀、伊藤彰彦)

 スウェーデンのイザベル・グルデン選手(30)。強豪国で五輪に3大会連続出場中の司令塔は3日の日本戦後、7月に生まれたばかりの長男リアスちゃんをユニホーム姿のままコートサイドで抱き上げた。

 7月の出産後はしばらく授乳したが、9月に入って練習を再開。約3カ月で断乳し、10月には所属クラブで試合に復帰した。今大会では出産から約5カ月とは思えないパワフルな動きで存在感を発揮。最終戦となったドイツとの7~8位決定戦でチーム最多の7得点を挙げ、東京五輪世界最終予選の切符を獲得して4大会連続出場へ望みをつないだ。

ハンドボール女子世界選手権のロシア戦でゴールを狙うスウェーデンのイザベル・グルデン選手=6日、パークドーム熊本

 そんなグルデン選手を支えたのは、大学で経済学を学びながらハンドボールのエージェント業を行う婚約者のリーナス・パーソンさん(31)だ。大会開幕前に息子と熊本入りし、試合中にミルクを与えながら声援を送るなど奮闘した。

 元ハンドボール選手でもあるパーソンさんは「父親なので、分担してやるのが普通」と話す。グルデン選手が練習に行くときは、リアスちゃんの面倒を見るなど普段から分担しているという。夫の献身的な支えに、グルデン選手は「彼のサポートなしでプレーはできない。私のキャリアを全面的にサポートしてくれている」と感謝する。

長男リアスちゃんに授乳しながら、スウェーデン代表の試合を観戦するイザベル・グルデン選手の婚約者、リーナス・パーソンさん=3日、パークドーム熊本

 同国ではリン・ブロム選手(27)も昨年の出産後に代表復帰して活躍しており、大会中には娘がユニホーム姿で声援を送っていた。スウェーデン・ハンドボール協会は、子どもが2歳になるまで大会中の父子の滞在費を支払うなどのサポートをしている。ヘンリク・シグネル監督(43)は言う。「5~10年前よりも出産後の復帰は普通のことになっている。25~26歳でプレーを辞めてしまうのはいいことだとは思わないし、出産後にプレーがよくなる選手が多くいる」

 グルデン選手のプレーを見守っていたのはハンドボールの日本リーグ女子、三重バイオレットアイリスに所属する高木エレナ選手(28)。昨年12月に出産し、今月中の公式戦復帰を目指すハンドボーラーは、長男の陽翔(ひなた)ちゃん(1)を抱きながらしみじみと言った。「すごいですよね。こういう選手が身近にいれば、自分ももしかしたら5カ月で復帰できていたのかなって思います」

 熊本県内で行われた日本リーグのチーム同士での親善試合に出場した後、観戦に訪れた。今回が陽翔ちゃんを連れて初めての遠征で、母の山根クシシュトファさん(65)がサポートのために帯同した。

 出産後、国立スポーツ科学センター(JISS)からトレーニング方法などのサポートを受けて今年2月から徐々に動き始め、4月からトレーニングを開始した。授乳と平行して練習したことで、出産で15キロほど増えた体重は一気に約20キロ減った。「食べても食べても授乳で減っていった」と笑う。11月末に断乳したことで、体重も出産前のベスト体重まで戻りつつある。

 普段のチーム練習は午後6時半から午後9時半頃まで。元ハンドボール選手である夫の永士さん(30)も2交代勤務で不規則なため、練習時は鈴鹿市のファミリー・サポート・センターを利用して陽翔ちゃんを預けている。「練習に行くとなったら子どもを誰かが見なくちゃいけないから、体育館で子どもの面倒を見てくれる施設があったら嬉しい。子どもをちゃんと見られる環境を作ってあげれば、ママさんアスリートもどんどん増えていくのかな」

12月6日の日本―中国戦を息子を抱いて観戦に訪れた高木エレナ選手

 今回の遠征では、宿舎を3人部屋にするなどチーム側も対応した。ドイツでもプレー経験がある梶原晃監督(36)は「ドイツは子どもが身近にいるのが当たり前だった。僕らはこれを当たり前にしたい。こういう事例を作りながら、一石を投じられたらという思いがある」と話す。

 24日から行われる日本選手権での公式戦復帰を目指して練習に励んでいる高木選手は笑顔で言う。「出産したら無理だっていろんな人に言われるけど、それに挑戦していろんなことを変えたい」

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