2019年を振り返って(前編)

 2019年も残すところあと僅か。今年は5月に「平成」から「令和」に元号が変わり、秋にはラグビーワールドカップの熱戦が繰り広げられ、日本中が沸いた一年でもあった。
 新たな時代の幕開けを感じさせる2019年は、夏場から企業倒産が増加し、警戒感も強まった。果たして2020年はどんな年になるのか。様々な角度から2019年を振り返り、2020年を展望する。

2019年の企業倒産、11年ぶりに増加へ

 2019年の企業倒産は「底打ちから増勢へ」と、潮目が大きく変わった。
 2019年1-11月までの企業倒産は、件数が7,679件(前年同期7,613件)、負債総額が1兆2,663億7,400万円(同1兆4,036億7,700万円)だった。
 件数は、四半期ベースで1-3月期は前年同期比6.1%減、4-6月期は同1.5%減と、減少幅は縮小。7-9月期には同8.1%増と、7四半期ぶりに前年同期を上回った。月ベースでは、2-4月に4カ月連続で前年同月を下回ったが、7月は26カ月ぶりに800件台に達し、さらに9-11月は2011年5-7月以来、8年ぶりに3カ月連続で前年同月を上回った。
 リーマン・ショックが起きた2008年の企業倒産は1万5,646件に達した。いわゆる『非常事態』に近いレベルだった。このため、2008年10月に信用保証協会100%保証の「緊急保証制度」が導入され、2009年12月には中小企業の資金繰り緩和のため「中小企業金融円滑化法」が施行された。そして、2013年3月に金融円滑化法が終了後も、法の精神は引き継がれ、金融機関は中小企業からの返済猶予に対応してきた。これら金融支援策の下支えで倒産は2009年以降、減少をたどり、2014年は1万件を割り込み、2018年まで10年連続で前年を下回ってきた。
 引き続き金融支援に大きな変化はないが、業績改善が遅れた中小企業は少なくない。世の中で好景気を謳う論調も出ているが、目先では利益低下で資金繰りが悪化し、新たにリスケ要請する企業が目立ち始めたとの声も金融機関では聞かれる。こうした足元の動きから、2019年の倒産は11年ぶりに前年を上回る可能性がほぼ確実になった。

全国企業倒産 暦年推移

経営者も追い詰められる 「人手不足」

 2019年1-11月の「人手不足」関連倒産は374件(前年同期比3.3%増)で、調査を開始した2013年以降で最多の2018年(387件)の記録を塗り替える勢いだ。
 代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などによる「後継者難」型が234件(前年同期比10.3%減)、人手確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」型が72件(同35.8%増)、中核社員の独立、転職などの退職から事業継続に支障が生じた「従業員退職」型が40件(同66.6%増)、賃金等の人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰」型が28件(同16.6%増)、それぞれ発生した。「後継者難」型が唯一減少したが、「求人難」型や「従業員退職」型の増加が著しい。また、人手不足を回避するため賃金を上げざるを得ず、それが足かせになって経営に行き詰まる「人件費高騰」型も増勢をたどっている。
 2018年に倒産した企業は、人手不足が微妙に収益に影響している。財務分析では、売上高に占める人件費の割合「売上高人件費率」が、倒産直期(最新期)に前期より2.5ポイント増加している。倒産企業の人件費総額は、前々期から前期に2.8%減少し、最新期は前期から2.4%増加している。ここに今の中小企業の苦境が透けてみえる。
 倒産に至る企業は、売上高が落ち込んでもリストラなどの固定費圧縮の余地が限られ、「売上高人件費率」が上昇しやすい。また、人手確保や最低賃金の引き上げで人件費が上昇圧力を受けても、それに見合う売上高を確保できず「売上高人件費率」が上昇しやすい。
 この流れがわかりやすいのがコンビニエンスストアFCだろう。加盟オーナーの苦境がマスコミでも報じられているが、人員を確保できずオーナー自ら店舗に立ち続け、過労死に至ったニュースは社会問題化した。
 一方で、北海道を地盤とするコンビニ「セイコーマート」を運営する(株)セコマ(TSR企業コード:010158766)の丸谷智保・代表取締役社長は2019年秋、東京商工リサーチ(TSR)の単独インタビューに応じ、「コンビニ、全店で24時間営業する意味はない」と語った。この発言がネットニュースで配信されると、瞬く間にコンビニ業界だけでなく広く拡散し、注目を集めた。

廃業で増加する「信用コスト」、高齢社長の「後継者不在」

 休廃業・解散が過去最多を記録した。TSRが集計した「2018年休廃業・解散」件数は4万6,724件(前年比14.2%)増で、2000年の集計以降、過去最多となった。これは年間倒産の5.6倍にあたり、市場から退出する企業が「倒産」でなく、「休廃業・解散」にシフトしていることを示している。
 今やリスクマネジメントの強化には休廃業・解散も含めて見ることが必要になっている。日本銀行の「金融システムレポート」(2019年10月)では、「企業経営者の⾼齢化が進むもとで、後継者不足等から事業承継が円滑に進まず、休業や廃業に至る企業が増加している」と警鐘を鳴らす。
 一方で、「休業や廃業の決定・周知とともに債務超過や保全不足が表面化し、信用コストが顕在化する事例も⼀部みられている」と、信用コストの変化を警告している。理屈上は、休廃業は「資産超過での事業停止」だが、休廃業の企業の資産を再査定すると、不良在庫や回収見込みのない売掛債権などの評価替えで、「資産超過だったバランスシートが崩壊するケースもある」(金融機関の担当者)という。
 TSRが保有するデータから約20万社を抽出、分析すると、後継者が決まっていない企業が約6割(構成比55.6%)に及ぶことがわかった。代表者が80代以上では、23.8%の企業で後継者が決まっておらず、今後、この中から多くの企業が廃業、倒産に向かうだろう。廃業の増加は、金融機関の信用コストの増加を招き、人口減少や低金利で経営環境が厳しい地銀の再編を後押しする要因にもなりかねない。
 倒産減少の時代が長く続き、世の中は「倒産」に対して、ゆでガエル状態になっている。事業会社の与信担当は人数が減少し、投資部門と兼務することも多い。倒産が増勢に転じた今、高水準の休廃業・解散をみて、審査担当者は「大倒産・廃業時代が到来したら、今の体制では業務が回らない」とこぼす。2020年は、来るべき時に備え、体制見直しが必要な年かもしれない。

沈む金利、崩れるモラル

 2019年は「私的整理」も注目を集めた。私的整理手続の1つである事業再生ADRの利用件数は、2016年度は2件で2008年に運用を開始以降、最低を記録した。2017年度は5件、2018年度は8件と2年連続で増加。2019年度は、4-11月累計で6件となり、このままだと3年連続で増加する可能性がある。6月に(株)文教堂グループホールディングス(TSR企業コード:350391742)が事業再生ADRを申請するなど、上場企業の利用も少なくない。
 事業再生ADRは一般債権者への金銭的な影響を避けられ、「再建計画が金融機関と合意出来るのであれば、取引は継続したい」(ADR申請企業の取引先)との声は多い。ただ、債権者である金融機関は「ADRを申請したので返済は止めるが再建計画はこれから作成する、では困る。返済を待つ合理性を検証できない」と苛立ちを隠さない。
 事業再生に詳しい専門家は、「(2009年に施行された)金融円滑化や日銀の金融緩和、マイナス金利政策でレンダーガバナンスが崩れた」とみる。従来、大口債権者であるメインバンク主導で企業のライフサイクルの適切な時期に、「再生」または「退場」が促されていた。だが、「カネ余り」で貸し手と借り手のパワーバランスが変化し、規律に歪みが生じているというわけだ。大手行の担当者は、「円滑化で、現場はある意味“思考停止”に陥った」と振り返る。
 景気下支えで矢継ぎ早に打ち出された施策のひずみが、静かに形を変えて広がっている。

事業再生ADR利用件数の推移

苦境の「BtoC」、小売業の倒産は2年連続増へ

 2019年10月、消費税が10%に引き上げられた。2度の延期を経て実施に踏みきった政府は、軽減税率やキャッシュレスポイント還元を初めて導入するなど、影響を最小限にとどめる政策を打ち出している。
 消費税に関連した破綻は12月13日までに全国で3件発生している。高知市の地場スーパー、(有)幸町スーパーマーケット(TSR企業コード:830126155)は、軽減税率対応レジへの負担や電子マネーの普及で想定以上に資金繰りが悪化した。カード決済は、現金取引が中心だった店舗にドラスティックな変化をもたらす。回収が長期化するため、売上高が増えるほど資金繰りが窮屈になるからだ。また、カード会社に支払う手数料も無視できない。約3%ほどの負担だが、資金余力の乏しい企業ほど収益を圧迫され、資金繰りが悪化する。いずれもキャッシュレスの導入前から指摘されていたが、ようやく現実味を帯びてきた。
 2019年の小売業の倒産は、増税スタートの10月以前から増勢をたどっていた。1-11月では1,131件(前年同期1,060件、6.6%増)で、10年ぶりに増加に転じた前年(1,132件)をさらに上回っている。中小の小売業者はインバウンド効果に浴せず、業績不振に喘いでいる。
 一方、ネット通販の台頭は、急速に進む消費構造の変化に大きな圧力となって立ちはだかっている。2019年は婦人服「J.FERRY」や、子供服「motherways」など、全国展開するアパレル小売業者の破綻が続いた。低価格化の一方で、生産コストが上昇し、固定費負担が重い店舗型のブランドが苦境に立たされている。
 また、百貨店の閉店も相次いだ。主要百貨店の最新期の決算は7割が減収で、なかでも地場百貨店の業績不振は顕著だ。大手は選択と集中を急ぎ郊外店舗を縮小し、地場百貨店は業績回復が見出せず閉店に踏み切る老舗が多い。店舗を閉める理由は両者で異なるが、すでに来年以降も「地域の顔」として親しまれた多くの百貨店の閉店が発表され、不振百貨店の経営破たんも囁かれている。
 消費構造が大きく変化し、消費の落ち込みやマインドの回復が遅れたなかでスタートした消費増税。これらが経営体力の乏しい中小企業にどう影響するのか、小売業界への注目は日増しに高まっている。

小売業の倒産 年次推移

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月24日号掲載予定「2019年を振り返って(前編)」を再編集)

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