2019年を振り返って(後編)

増加した上場企業の早期・希望退職、 募集企業の二極化が進む

 上場企業の早期・希望退職の募集(判明分)は、2019年に入り増加に転じ、1-11月で延べ36社、1万1,351人に達した。統計開始以来、企業数が過去最低を記録した2018年から一転し、2019年は前年に比べ企業数で3倍、人数は約4倍に増加した。企業数では2014年、2015年の32社を上回った。また、人数が1万人を超えたのは2013年以来、6年ぶりとなる。
 実施企業の内訳は、約7割の企業が最終赤字、または減収減益の業績不振だった。ただ、業績が堅調な企業でも将来の市場を見据えて、募集を行う動きもみられた。
 業種別では、電気機器が12社と全体の3分の1を占め、上半期に募集が集中した医薬品が4社、卸売、機械、食料品、繊維製品が各3社で続く。電気機器、機械などの製造業は、取扱製品が国内外との競合で市況が悪化。さらに、生産拠点や事業所の縮小、統合に伴う退職も目立った。2019年は業界大手を中心に、大規模な退職者募集が散見された。1,000人以上の募集(または応募があった)は、2018年(1-12月1社)に比べ3件増加した。
 業績が比較的堅調な企業でも、先々の市場飽和や年齢構成のピラミッド型の是正を急ぐ。カシオ計算機(株)(TSR企業コード:290245109)は、バブル期から90年代前半にかけ、多い時で年に数百人を採用していた。しかし、最近の採用数との乖離から、「社員の年齢構成が逆ピラミッド型になり、是正が必要だった」(同社)という。また、国内市場の成熟化に伴う先行きの不透明感から、経営体力のあるうちに強化事業を絞り込む企業もある。キリンホールディングス(株)(TSR企業コード:290042992)は、営業などの部門で45歳以上の管理職を中心にセカンドキャリア支援を含めた希望退職を募集した。人数は非開示だが、「数百人まではいかない規模」(同社)と比較的小規模な募集となった。今後については「マーケティングやR&D(研究開発)などで外部からの採用など積極的に人材を強化していく」(同)という。
 一時期に比べ落ち着いてはいるが、2019年10月の全国の有効求人倍率は1.57倍と1.5倍を上回る高水準で推移している。東京都は、2倍超を維持し、官民で雇用の流動化に期待を掛ける。高い求人倍率を追い風に、業績が堅調に推移する企業の“先行型”募集、業績不振に陥った企業の“従来型”の二極化は、2020年に入るとさらに拡大する可能性が高い。

株主総会決議を巡る訴訟に「ご用心」

 大手精密バネメーカーの(株)アドバネクス(TSR企業コード:290032393)の株主総会決議を巡り、前会長や大株主などが起こした訴訟が注目されている。
 アドバネクスの加藤前会長、大株主の加藤雄一ホールディングス(株)(TSR企業コード:034324518)が、2018年6月21日開催のアドバネクス株主総会での取締役選任の決議が無効として、東京地裁に同年8月24日株主総会決議不存在確認等の訴訟を起こした。
 総会では出席した大株主が突然、業績低迷を理由に加藤前会長ら4人を取締役から外し、新たな社外取締役候補3人を含む役員選任を求める修正動議を提出。総会では大株主側の従業員が議長に選任され、修正動議が可決された。加藤前会長側は「総会の議長交代には瑕疵があり、総会は乗っ取られた」と主張する。一方、アドバネクスはこの株主総会の議事運営は適法と主張し、両陣営は全面的に争っていた。
 2019年3月8日、東京地裁は取締役選任決議について不存在ではなかったとして加藤前会長側の主張を棄却する一方、社外取締役の選任については取り消す判決を出し、企業の総会決議を取り消す判断が話題になった。
 一審判決後、両陣営が控訴した。同年10月17日、東京高裁は加藤前会長側の訴えを却下・棄却。2018年度については加藤前会長ら4人の取締役としての地位を認めたものの、すでに任期は満了したとして2019年度の地位確認の訴えは棄却した。加藤前会長サイドは「会社提案の選任決議は無効であるべきだ」として近く上告する方針とされ、この裁判を巡っては各メディアの報道が続き、専門家、法律家も株主総会を巡る司法判断を注視している。
 TSRが保有する裁判情報データベースよると、2019年に入り全国で株主総会決議の取消しなどを求めて提起された訴訟は、12月11日時点で100件を超えた。株式会社の最高意思決定機関である株主総会のトラブルは、リスクマネジメントでも最大限の注意が必要になっている。

アドバネクスが入居するビル

‌アドバネクスが入居するビル

難しい「反社的勢力」との関係遮断

 今年の世相を反映した言葉を選ぶ「2019年ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンに「闇営業」が選ばれた。お笑い芸人らが、所属する大手芸能プロダクションを通さずに反社会的勢力(以下、反社)が主催する宴会に参加し、金銭を直接受領し話題になった。また、毎年恒例の総理大臣主催の「桜の花を見る会」でも反社との関係が指摘されると、政府は12月10日、「反社について定義するのは困難」とする答弁書を閣議決定した。
 2007年に施行された、反社対応の基本原則などをまとめた「企業暴排指針(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)」と矛盾が生じかねず、皮肉にも反社の注目度を高める結果となった。
 2007年に企業暴排指針が施行されて以降、2011年にはすべての都道府県で暴力団排除条例(以下、暴排条例)が施行された。反社の資金源を断つため、取引内容の適否を問わず、反社との取引自体が禁止になった。2018年以降も各地で暴排条例が改正され、東京都では「みかじめ料」を支払った店側にも罰則を科す改正条例が2019年10月1日から施行されている。政府・地方自治体が主体となって反社排除の機運を高めた一年でもあった。
 暴力団員は準構成員を含め、過去10年間で8万人超から約3万人に激減した。一方、反社は新たな資金源を求めて「特殊詐欺」、「組織窃盗」などへの関与を強め、表向きは企業や団体を装いながら資金獲得のため巧妙に不動産や証券取引などに活動域を広げた。こうしたなか、頭角を現してきたのが「半グレ」と呼ばれる勢力だ。暴走族や遊び仲間といった人間関係でつながった集団で、暴力団とは異なり組織的な繋がりは緩く、暴力団対策法や暴排条例は適用されない。警察すら実態を把握しづらく、「準暴力団」と位置づけて全国の警察でも実態解明を進めている。
 折しも暴力団組織の対立抗争が激しさを増している。終息の兆しが見えないなか、2020年夏、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」が開催される。様々な利権を貪ろうと反社は一斉に活動を活発にすることが予想される。企業は、各部署が一体となった組織で反社に対峙していくことが必要だ。

金融界で進むマネロン対策

 2019年10月末から11月中旬まで、世界各国のマネーロンダリング(資金洗浄)対策を調査する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」が日本政府や金融機関に実施調査に入った。
 マネーロンダリング・テロ資金対策の国際基準(FATF勧告)の履行状況について相互審査するもので、日本は前回(2008年)の審査で40の勧告のうち、顧客管理などで「不備」があったとして、「フォローアップ」対象国になった過去がある。
 金融機関ではFATFの審査に向け、2018年に金融庁が示したガイドラインを踏まえて預金規定を改定する動きが広がった。具体的には、口座開設や海外送金の際に十分な本人ならびに送金目的の確認などを強化するため、専門部署の新設や不正取引の自動検知システムを導入するなどの対策を講じる金融機関が相次いだ。
 金融庁は、2019年2月の「TSR情報」へのマネーロンダリングに関する寄稿文で、「金融機関等は、リスクに応じて、顧客の本人確認や、取引目的、職業・事業の内容、及び資産や収入等の確認を実施する必要がある。法人顧客に対しては、実質的支配者(株式会社等の資本多数法人の場合、総数の4分の1を超える議決権を有している自然人等)に関する情報の確認も必要となる。一般企業においては、こうした取引時確認のプロセスに応じた書面提出等の対応が求められる」との認識を示している。金融界で進むマネーロンダリングへの対策強化は、一般事業会社も無縁ではない。
 FATFの審査結果が公表されるのは2020年夏頃。評価次第ではマネーロンダリング・テロに対する高リスク国として、国際的に信用を失墜するだけに目が離せない。

「大成功」のラグビーワールドカップ、笑った会社は?

 日本で初めて開催されたラグビーワールドカップ(W杯)。開催前は、ラグビー文化がそれほど根付いていない日本開催に、本当に盛り上がるのか、観客でスタジアムが埋まるのか、など国内外から心配の声があがっていた。
 日本代表「ブレイブ・ブロッサム」は、新しいユニフォームの「桜ジャージ」を身にまとい、アイルランドやスコットランドなど、これまでW杯勝利したことのないチームに真っ向から勝負を挑んだ。そして、4連勝で初めてグループリーグを突破し、日本中が大いに盛り上がった。
 惜しくも準々決勝で大会覇者の南アフリカに敗れたが、「ブレイブ・ブロッサム」の活躍だけでなく、日本各地で開催された会場でも日本流の「おもてなし」が世界中のラグビーファンから高い評価を受けた。
 大会組織委員会によると、日本大会の観客動員数は延べ170万4,443人、最多観客動員はイングランド対南アフリカの決勝戦が7万103人。チケットの販売数は、184万枚に達し、販売率は99.3%とチケット争奪戦が繰り広げられた。
 大成功に終わったラグビーワールドカップ日本大会で、業績を伸ばした企業がある。
 日本代表チームのユニフォーム「桜ジャージ」を手掛ける(株)カンタベリーオブニュージーランドジャパン(TSR企業コード:293789096)を子会社に持つ東証1部の(株)ゴールドウイン(TSR企業コード:590017411)だ。2020年3月期中間決算は、10期連続の増収、5期連続の増益だった。好調の背景の1つは、「桜ジャージ」の販売が2015年大会時の1万枚から約20万枚と急増したことだ。
 英国風PUBを出店している東証1部上場の(株)ハブ(TSR企業コード:294236058)も、ラグビーW杯の訪日外国人客を取り込み、全店売上は9月が前年同月比26.6%増、10月も同25.6%増と急増。ビール片手に観戦するラグビー文化をうまく売上増につなげた。
 W杯終了後の「ラグビーロス」も話題となり、特需の反動減も気になるところだ。2020年は東京五輪・パラリンピックが開催される。再び特需が発生するのか、その後の取り組みで企業業績の明暗が分かれる。

パレードで手を振る福岡選手(12月11日)

‌パレードで手を振る福岡選手(12月11日)

増加した「粉飾決算」、その訳と倒産の更なる増加

 2019年(1-11月)の「コンプライアンス違反」倒産のうち、「粉飾決算」が一因となった倒産(以下、粉飾倒産)は18件(前年同期8件)で、前年同期の2.2倍に増え、2年ぶりに20件台に達する可能性が高まっている。
 「粉飾決算」は金融機関から融資を受ける目的や、取引先から信用を得るために決算書をよく見せるために行われる。「税務署用」、「金融機関用」、「信用調査会社用」の3種類の決算書が作成されることもある。だが、急に粉飾決算が増えたわけでなく、粉飾していた企業の倒産が増えたというべきだろう。
 2019年の代表的な「粉飾決算」では、クラフト用品・裁縫用品企画販売の(株)サンヒット(TSR企業コード:292785178)がある。海外進出での投資失敗などを隠すため、15年間にわたり粉飾決算に手を染めていた。20行を超える金融機関を欺くために、金融機関ごとに違う決算書を作成していたが、金融機関で債務の一本化を図るために提出した決算書が他の金融機関向けのもので粉飾決算が発覚した。
 また、注文住宅建築・リフォーム工事ほかの(株)開成コーポレーション(TSR企業コード:310034329)。申立書には、「貸借対照表上で完成工事未収金や未成工事支出金を早期に計上することで資産を過大に計上。また、損益計算書では、完成工事高に未完成の工事を含めて売上に計上していた。これらの決算操作を30年間にわたって行っていたため、現時点で適正な額を認識するには多大な事務負担が生じる」と記載されている。一方、金融機関が粉飾決算を見破ったが、「金融機関が企業を再生させる支援の動きもあった」との話もある。
 医療機器・理化学機器販売などの(株)エル・エム・エス(TSR企業コード:292272499)は、税務署用と金融機関用の決算書を作成。円安による仕入価格の上昇で数年前から業績が低下したことに加えて、取引先への支援で資金繰りが悪化していた。税務署用は販売奨励金を前倒し計上することで赤字を回避、金融機関用は長期にわたり回収できなかった売掛金の短期貸付金を他の勘定科目に振り替え、さらに税務署用よりも総資産を圧縮していた。
 判明している粉飾倒産は氷山の一角に過ぎない。倒産に至らなくても私的整理や支援協議会などの外部機関を交えて再生を進めている企業もある。
 資金が回るうちは粉飾決算が発覚するケースは少ないが、ここ数年、人材確保のための人件費増大などで企業のキャッシュ・フローが悪化し、金融機関にリスケを要請する時に白状するケースもある。
 中小企業金融円滑法が終了以降も、金融機関は中小企業のリスケ要請に弾力的に応じている。だが、金融庁は2019年12月18日に金融検査マニュアルを廃止した。当初は3月頃に廃止される予定だったが、廃止を前に一部の金融機関は事業性評価や貸倒引当金の積み増しなどで、独自に選別の動きを見せてきた。人件費などの経費が上昇し、資金繰りが悪化している企業は少なくない。今後も粉飾決算の発覚が続き、倒産を押し上げることが危惧されている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月25日号掲載予定「2019年を振り返って(後編)」を再編集)

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