祝『ダイ・ハード』30周年! クリスマスに“世界一ツイてない男”ことマクレーン刑事を観る

『ダイ・ハード』©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ダイ・ハード』1作目が公開された1989年とは、どんな年だったのか?

映画『ダイ・ハード』が公開された1989年は、どんな時代だったのか? 日本では1月7日に昭和天皇が崩御し、昭和から平成に代わった。まだバブルの真っ最中で、ソニーがコロンビア映画を買収するなど、日本企業は向かうところ敵なし。手塚治虫が亡くなり、任天堂がゲームボーイを発売した年でもある。世界では、ルーマニアで独裁政権が倒れ、大統領だったチャウシェスクが失脚。ベルリンの壁が崩壊し、東西の緊張は解けたが、12年後に9.11が起こって新たな緊張が生まれるとは夢にも思えなかった頃だ。

『ダイ・ハード』は、そんな時代の空気をたっぷり吸って始まる。クリスマス・イブのロサンゼルスに、ニューヨークから一人の刑事がやってきた。彼の名はジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)。頑固者の彼は捜査中の事件があるからとニューヨークを離れられず、日系企業ナカトミ商事の重役に昇進しLAに転勤した妻ホリー(ボニー・ベデリア)と別居中で、久しぶりに家族に会い、一緒にクリスマスを過ごしにやって来たのだ。

ひとまず勤め先のナカトミ・プラザのオフィスに妻を訪ねたマクレーンは、彼女が旧姓に戻っていることにショックを受けたあげく、運悪く西ドイツの過激派ハンス・グルーバー(アラン・リックマン)率いるテロリスト・グループの襲撃に遭遇。人質となった妻を助けるため、たった一人で完全武装したテロリストに立ち向かうはめになるのだが……というのが、あまりにも有名な物語の発端である。

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舞台となったナカトミ・プラザのモデルは、撮影所跡を再開発したセンチュリー・シティにある34階建てのフォックス・プラザで、この映画を製作した20世紀フォックスの本社がある。1989年といえば、三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収した年でもあり、日系企業の自社ビルという設定がいかにもバブル期だ。

まだ若々しかった『ダイ・ハード』豪華キャスト陣に目を細める

『ダイ・ハード』©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

30年前に公開された『ダイ・ハード』が、いかに若々しかったか。主演のブルース・ウィリスはTVシリーズの『こちらブルームーン探偵社』(1985~1989年)で注目され、映画に転身したところ。1987年にデミ・ムーアと結婚したばかりで、白いランニングシャツの下の筋肉に張りとツヤがある。知的で冷徹な悪役像を作り上げたアラン・リックマンは、なんと本作が映画初出演。グラフィック・デザイナーから俳優に転向し、26歳で王立演劇学校を卒業した遅咲きの変わり種で、ブロードウェイの舞台「危険な関係」で注目を集めた後の映画デビューだった。

『ダイ・ハード』©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ボニー・ベデリアのキャリアはウィリスよりずっと上で、『ダイ・ハード』シリーズ2作の他、『推定無罪』(1990年)のハリソン・フォードの妻役が有名。現在はテレビに活躍の場を移している。本名はボニー・ベデリア・カルキンといい、『ホーム・アローン』(1990年)でスーパースターになったマコーレー・カルキンは彼女の甥である。

『ダイ・ハード』©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ナカトミ商事のタカギ社長を演じたのはハワイ生まれの日系2世、ジェームズ繁田。ロジャース&ハマースタインのミュージカル『フラワー・ドラム・ソング』(1961年)で知られる、最も有名なアジア系俳優の一人だったが、惜しくも2014年7月に85歳で亡くなった。私が好きだったのはテロリストのカールを演じたアレクサンダー・ゴドノフ。ボリショイ・バレエ団出身のダンサーで、『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985年)で映画デビューし、『マネー・ピット』(1986年)などに出演したが、1995年に45歳の若さで亡くなった。ブルース・ウィリスと対決する場面の体の動きがすばらしく、この場面だけでも何度見たかわからない。

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“不運なタフガイ”マクレーン刑事ことブルース・ウィリスの30年に乾杯

『ダイ・ハード』は2012年の『ダイ・ハード/ラスト・デイ』まで全5作が製作された。監督のジョン・マクティアナンは1作目の大ヒットでアクション映画監督としての名声を確立。2作目(1990年)はレニー・ハーリンに譲ったが、3作目(1995年)で監督に復帰し、続く『ダイ・ハード4.0』(2007年)では製作に回っている。

30年の間にシリーズ自体も加齢し、『ダイ・ハード4.0』からは成長した娘ルーシーが、『ラスト・デイ』に至っては息子ジャックが大活躍。さすがのダイ・ハード男も寄る年波には勝てず、世代交代かと思わせる寂しさだった。とはいえ、5作目までよくも続いたというべきで、とりもなおさず“不運なタフガイ”マクレーン刑事と、彼のキャラを作り上げたブルース・ウィリスのおかげだろう。『ラスト・デイ』を見た後で1作目を見直すと、その面白さに圧倒される。改めて、ブルース・ウィリスの30年に乾杯!

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文:齋藤敦子

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