被爆の「証人」、どう継承 広島の被服支廠「2棟解体・1棟外観保存」原案【インサイド】

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「2棟解体、1棟の外観保存」とする広島県の原案が波紋を広げている旧陸軍被服支廠(広島市南区)

 被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(広島市南区)を巡り、広島県が示した安全対策の原案が波紋を広げている。今も残る4棟のうち、所有する3棟について「2棟解体、1棟の外観保存」を掲げたが、広島市は「3棟保存」を主張。市民団体からも市と同様の要望が相次ぐ。中国新聞の情報公開請求で開示された、3年余りにわたった県、市、国の3者の協議の記録でも思惑の違いが鮮明になった。市内最大級の被爆建物を次代にどう引き継ぐのか。それぞれの主張や課題をまとめた。

 ▽保存の規模 財政負担重く意見二分

 残すべきは「1棟」か、「3棟全棟」か―。県が所有する3棟の扱いは意見が二分している。

 「1棟」を掲げた県の原案の背景には、1棟を耐震化するだけで33億円かかるという巨額の費用がある。県議会に根強い解体容認論も、財政負担の重さが最大の理由といえる。

 一方の「3棟」派。市民団体などは被爆建物を保存する意義に加え、3棟が約300メートルにわたって並ぶ「景観上の価値」を唱える。さらに中国財務局が管理する1棟を含めれば価値はさらに増すとする。複数の建築学者が「国内最古級の鉄筋コンクリート建築物」と評価していることも県、市、財務局の協議録で判明した。

 県は仮想現実(VR)の最新技術を使ってデジタル保存すれば3棟の規模を感じられると、2棟解体への理解を求める。市民グループ「アーキウォーク広島」(中区)の高田真代表(41)は「赤れんがの壁が続く3棟の前に身を置き、圧倒される体験は替え難い」と主張する。

 ▽費用確保策 外部資金活用、動きなし

 保存規模を巡って見解が割れる最大の要因はコストにある。協議録によると、3者は費用を捻出する手法の一つとして、保存工事を進める場合に国の財政支援が見込める文化財指定の道を探った。

 県は10月の作業部会で、中国財務局による文化庁への確認を踏まえて「国による重要文化財への指定は困難」と結論付けた。県財産管理課は「解体を考えている建物に文化財指定を求めるのは矛盾する面もある」と説明する。

 ただ3者協議には、県や市の文化財担当部署は入っていなかった。県などは、当初から文化財指定の可能性が低いとみていた節がある。

 公金を投じる以外には、国民から広く寄付などの形で資金を募る手法も考えられる。湯崎英彦知事は今月3日の記者会見で「ふるさと納税やクラウドファンディングというのも検討課題の一つ」と表明。松井一実市長も18日に「県が資金を集めるなら協力する」と述べたが、現時点で具体化の動きはない。

 ▽利活用方法 妙案なく長年放置

 1995年に日本通運が倉庫としての利用をやめて以来、建物は使われていない。県は瀬戸内海文化博物館やロシア・エルミタージュ美術館の分館、市は「折り鶴ミュージアム」の候補地に据えたが、いずれも結実しなかった。

 こうした経緯もあり、県は「利活用の検討は長引く可能性が高い。差し迫った課題である安全対策とは切り離して考える」とのスタンスから原案を導いた。

 これに対し、市は「利活用策は国、県、市で考えていくべきもの。一度解体すれば後に3棟必要となった時に取り返しがつかない」との立場だ。財務局は管理する1棟について、県が解体に踏み切る際には同調して解体撤去する方針でいる。

 被服支廠の構造に詳しい広島大大学院の大久保孝昭教授(建築材料学)は「何ら活用策が決まらず放置されるのが、建物にとって最も不幸だ。多くの人が訪れる施設にする方法を早急に決めてほしい」と求める。(樋口浩二)