宮内庁は25日付で、来年1月16日に皇居・宮殿で行われる令和最初の「新年歌会始の儀」の入選者10人を発表。長崎県から佐世保市立祇園中教員の柴山与志朗さん(60)=北松佐々町=が選ばれた。
「公私ともに多くの悩みを抱え、苦しんでいた40代の頃、短歌と歌会に救われました」。令和2年の歌会始で入選した佐世保市立祇園中教員の柴山与志朗さん(60)=長崎県北松佐々町=は、短歌への思いをそう語る。
歌歴は20年。きっかけは長崎新聞に掲載された歌人俵万智さんのインタビュー記事。俵さんは短歌の魅力や歌作りへの思いを語っていて、引き付けられた。俵さんが所属している伝統ある歌誌「心の花」に入会。作歌を始めた。39歳だった。「あの記事との出合いが、私を短歌の世界に導いてくれた」と振り返る。
公立中学校の国語科教員を長年勤め、来年3月で定年を迎える。振り返れば、長い教員生活は苦労も多かった。最も苦しかったのが40代。当時、部活動の顧問としての悩みを抱えていた。両親の介護も重なり精神的に追い込まれ、おのずと詠むのは苦しい心情を吐露する、ひりひりした内向きの歌になった。
明日はないと思えば心澄み わたり歌など詠みて夜更け を待てり
そんなとき、参加した歌会での歌友の言葉が心に響いた。「そこまで自分を責めなくてもいいじゃないですか」と。別の歌会では「歌うことで状況を突き抜けてほしい!」と言葉を掛けられた。さりげないそれらの言葉は、八方ふさがりだった当時、驚くほど新鮮だった。「自分自身をがんじがらめに縛っていたものが緩んでいくのがわかった」
やがて、歌にも少しずつ余裕と変化が見えてくる。
笑いながら父に語ればグフ グフと父にも笑みの伝わり てゆく
「自分が変わると、自分と他との関係が好転し、お互いが相手の存在を認められるようになる」。この体験で、言葉には人を救い育てる力があると実感。言葉の力と、自分の作品を人に読んでもらうことの大切さを子どもたちにも伝えようと、授業を通して短歌作りを指導。生徒の作品は、長崎新聞のジュニア歌壇に投稿、発表している。
歌会始への応募もその一環だった。歌会始の題「望」をテーマにした短歌を夏休みの宿題に出し、自身も生徒と一緒に応募した。
「悩みも苦しみも歌にすることで救われ、歌会に出すことで共感してもらえる。歌に出合えて本当に良かった」
〈自選2首〉
子を抱きて世界で一番好きと言う60億のてっぺんである
子どもらと共に笑える師になれと父に言われし言葉を思う