性暴力認めぬ判決に深刻な危機感 世界最低ランクでも希望 2019年「女性」めぐる動き

By 江刺昭子

JR東京駅近くで開かれた「フラワーデモ」。抗議のメッセージを掲げる=6月11日夜

 この1年、日本社会は女性を含むマイノリティーの問題とどう向き合ってきたのか。

 12月17日、世界経済フォーラム(WEF)が各国の男女格差(ジェンダーギャップ)を発表した。調査対象153カ国中、日本は過去最低の121位。106位の中国や108位の韓国より下である。

 ■女性閣僚たった2人

 その大きな理由は、政治分野の遅れだ。

 7月21日、参院選挙が行われた。「候補者男女均等法」が施行されて初めての国政選挙で女性の進出が期待され、女性候補者の割合は28・1%と過去最高だった。立憲民主、国民、共産など野党の候補者比率は高いが、与党の自民、公明は低いままだった。

 当選者は28人、22・6%に終わった。ちなみに衆院議員は10・1%しかない。

 9月11日に安倍政権の改造内閣が発足したが、女性は高市早苗総務相、橋本聖子五輪相だけ。副大臣も25人のうち2人だった。

 EUでは、欧州中央銀行(ECB)総裁にクリスティーヌ・ラガルドさん、欧州議会委員長にウルズラ・フォンデアライエンさんが就任、ツートップを女性が占める。

 冒頭に示した男女格差調査は、経済・教育・健康・政治の4分野が対象で、政治分野の順位が足を引っ張っている。女性の政治への進出がこのような状態では、国際社会の動きについていけない。なにより、政治家たちの危機感の希薄さが問題だ。

 ■「#KuToo」キャンペーン

 「女性が仕事でヒールやパンプスを履く風習をなくしたい」。ライターで女優の石川優実(ゆみ)さんがツイートしたのは2月。まもなく「靴」と「苦痛」をかけた「#KuToo」運動として広がり、石川さんはネット上で署名活動を開始した。6月、厚労省に1万8800人の署名と要望書を提出した。

「#KuToo」キャンペーンのイメージ画像

 これに根本匠厚労相が「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」と、強制を容認するかのような発言をして抗議が相次いだ。

 ホテルや航空業界といった接客業では、服装規定でヒールを強制しているところが多いが、4月に格安航空会社の「ZIPAIR TOKYO」は、男女とも制服の靴にスニーカーを採用すると発表。JALは客室乗務員にも地上職員にもパンプス着用のルールはそのままだが、20年4月から女性の客室乗務員の制服に初めてパンツスタイルを採用する。

 働く女性の健康や安全を考えて、まずは足元の「働き方改革」を進めてほしい。

 ■伊藤詩織さんの訴え認める

 3月、性暴力・性虐待犯罪への地裁無罪判決が4件相次いだ。一つは名古屋地裁岡崎支部で、19歳の娘への準強制性交罪に問われた父親の判決。父親の性的虐待を認めながらも「抵抗することが困難だったとはいえない」として無罪にした。まさかの判決だった。

JR東京駅近くで開かれた「フラワーデモ」=6月11日夜

 4月、作家の北原みのりさんらが呼びかけた東京駅前広場の抗議デモには400人以上が参加。以後、毎月11日、性暴力への抗議の意思を示そうと、手に花を持った女たちが全国で「フラワーデモ」を続けている。

 こうした動きのきっかけは、17年にジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんによるレイプ被害を告発したことだろう。12月18日の東京地裁判決は「合意なき性行為」と認め、被告の山口さんに330万円の支払いを命じた。

 今年は性暴力に「ノー」の声をあげる動きが広がった画期的な年になった。声をあげた被害者を孤立させず、支援の輪を広げていかなければならない。

 ■芥川・直木両賞が女性

 7月17日発表の第161回芥川賞と直木賞の受賞者は、芥川賞が今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』、直木賞は大島真寿美さんの『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』となった。直木賞は候補者6人が全員女性だった。

 選考委員の桐野夏生さんが「全員女性ではありますが、一言でくくれないほど多様性に満ちていて、面白い選考だった」と講評している。両賞を女性が独占するのは、13年第150回の芥川賞に小山田浩子さん、直木賞に朝井まかてさんと姫野カオルコさんが選ばれて以来6年ぶり。

第161回芥川賞に決まった今村夏子さん(右)と直木賞に決まった大島真寿美さん

 長い間、近代文学は男性作家中心で、女性作家を「女流」と括って平気だったが、ようやく男女とも「作家」で通用するようになり、近年は女性の活躍が目覚ましい。選考委員もかつては男性ばかりだったが、現在は芥川賞が男女半々、直木賞は男6人女3人である。

 ちなみに書店員が選ぶ「本屋大賞」も、15年・上橋奈穗子『鹿の王』、16年・宮下奈都『羊と鋼の森』、17年・恩田陸「蜜蜂と遠雷』、18年・辻村深月『かがみの孤城』、19年・瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』と女性の受賞が続いている。

 ■広がるパートナーシップ制度

 19年は同性カップルを認めるパートナーシップ制度を導入する自治体が急増した。

 LGBTカップルを「子どもを作らないから、生産性がない」と断じたのは杉田水脈自民党議員だが、東京都渋谷区、世田谷区を皮切りに、札幌市、福岡市、大阪市など政令市を含む約30の自治体に広がっている。

 自治体が婚姻と同等の関係として認めることで、緊急時の病院での面会や賃貸住宅への入居がしやすくなった。

 12月には横浜市が性的少数者や事実婚カップルを対象に「横浜市パートナーシップ宣誓制度」を開始した。人口が多い自治体が取り入れたことで、差別や偏見の解消、支援の輪が全国に波及することが期待される。

パートナーシップ宣誓書を提出し、横浜市の担当者(右)から受領証を受け取るカップル=12月2日

 だが、パートナーシップ制度は自治体ごとに認めている。台湾では5月に立法院で同性婚を合法化する法案が成立した。アジア初だった。

 女性への、そしてあらゆるマイノリティーへの偏見や差別、格差を解消する動きが、2020年も広がっていってほしい。(女性史研究者・江刺昭子)

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