長崎 この1年(4) 日韓関係悪化 対馬から雪解け目指す

来島した韓国人観光客を歓迎する横断幕を掲げ、笑顔で「アンニョンハセヨ」と声掛けする宮城さん(右から2人目)ら対馬市民有志=12月5日、比田勝港国際ターミナル

 日韓関係悪化の荒波をかぶり、経済が大きく落ち込んだ国境の島、対馬。24日は日韓首脳が中国で会談したが、解決の糸口は依然見えない。そんな中、雪解けを模索する市民レベルの取り組みも始まった。
 韓国からの高速船が発着する対馬市上対馬町の比田勝港。7月までは最多5社が競合していたが、現在は1社だけ運航の日もある。身動きが取れないほど観光客でにぎわっていた国際ターミナルも人影はまばらだ。
 「アンニョンハセヨ! ようこそ対馬へ」。暗いムードを吹き飛ばすような元気な声と、歓迎の横断幕。地元でカフェを営む宮城佳奈さん(44)ら住民有志らが10月中旬に始めた出迎えだ。ネットには相手国を軽蔑するような報道や書き込みがあふれている。「島の入り口で先入観を取り払ってもらえれば相互理解にもつながる」と、宮城さんたちは考えたからだ。
 今月21日、厳原町に住み、韓国で対馬専門の旅行社を経営する夫英順(ブヨンスン)さん(50)が韓国の大学生7人を招いた。緊張した面持ちで下船してきた学生らも歓迎に笑顔。釜山外国語大1年の張泰源(チャンテウォン)さん(19)は、横断幕を見て「うれしい。日本の人との交流を楽しみたい」とほほ笑んだ。
 横断幕は出港時には、船からも見えるよう屋外で掲げ、見送る。宮城さんは言う。「国同士の関係に力は及ばないけれど、リピーターとなるきっかけにはなれるはず」
 ただ、現状は厳しい。昨年は過去最多41万人の韓国人観光客が来島。これを当て込み港周辺の商店街で開業した店も多かったが、開店休業状態が続いている。
 夫さんは今年、日韓市民による意見交換会を2回開いた。日韓政府間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が維持されることになった11月22日夜は日韓の15人が「観光活性化」をテーマに熱心に議論した。
 夫さんは「対馬藩は互いに欺かず、争わず、真実をもって交わるという『誠信交隣(せいしんこうりん)』を外交の基本理念としてきた。今こそ、両国ともにこの精神を大事にしたい」と声に力を込める。

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