不寛容さが増す現代に差別の刃をどう扱うか…受賞多数のラジオ番組を基にしたRKBのドキュメンタリー

RKB毎日放送は12月26日に「イントレランスの時代」(午後2:50)を放送する。3月に放送されたラジオ報道ドキュメンタリー「SCRATCH 差別と平成」をベースにしたテレビドキュメンタリーだ。

「SCRATCH~」は2016年、神奈川県相模原市の障害者施設で46人を殺傷した植松聖被告に、RKB東京報道制作部の神戸金史(かんべ・かねぶみ)記者が6回接見取材し、その内容を実際に近い形で再現されている。重度障害のある子を持つ神戸記者へ向けた植松被告の言葉には、憤りともどかしさを感じてしまう。RKBとTBSラジオが共同制作したこの番組は、2019年の放送文化基金賞最優秀賞をはじめ、日本民間放送連盟賞優秀賞や石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞などを受賞。今回、「SCRATCH~」の取材を基に全面改稿してテレビドキュメンタリーとして制作されたのが「イントレランスの時代」だ。

「イントレランス」とは、事件からちょうど100年前の1916年に公開されたアメリカ映画の題名で「不寛容」という意味。古代バビロンから現代のアメリカまで四つの時代の物語が描かれ、「世の中から寛容さが失われた時、悲劇は起こる。いつの時代も、どの国でも、それは変わらない」がテーマとなっている。寛容さが失われてきているように見える現代。誰もが心の中に潜ませている差別の刃は、表に出ると攻撃される人々にはとてつもない苦しみを与えてしまう。心の中のナイフをどう扱うべきか。番組では、さまざまなイントレランスが生み出されている現代社会の姿を描く。

初接見を終えた神戸記者(左、2017年)

神戸金史記者
「ラジオ番組は音声だけで制作しますが、今までのテレビドキュメンタリーのセオリーと違う点が多々あり、とても新鮮でした。一例を挙げれば、テレビではフィクス(固定)カメラの“座りインタビュー”は30秒が一定の限界ですが、ラジオでは面白ければ3分はいける、という点です。制作中にとても面白くなり、ラジオとしての最適解を目指しました。と言っても、最初からラジオを念頭に置いていたわけではなく、ムービー撮影の音声を使って制作したものも」

「ラジオが望外の高い評価をいただいたからと言って、そのまま映像化したのでは間違いなくラジオ番組が到達したレベルを下回ります。素材の映像に戻って新作を作り直すこと、テレビとしての最適解を模索することを目指しました。こうした考えから、今年前半にも制作するつもりが、構想が煮詰まらずに遅れました。事件は2016年7月に起きました。記者なら本来、すぐに取材に取りかかるべきだったのでしょうが、植松被告の憎悪を直視するのに必要な心の体力が私になく、すごく時間がかかってしまいました。今回は、その過程で起きたこと、取り組んだことを素材としましたので、結果的にはよかったです」

「私が制作してきた1時間以上の番組は8本。うち6本は、取材対象が家族だったり、親友であったり、自分が住む小さなコミュニティーであったりしています。うち5本は、私自身の立ち位置を番組内で明らかにした1人称表現です。これは客観報道の世界ではかなり異質。特にテレビでの1人称表現は、筑紫哲也さんの『多事争論』など極めて限られています。しかし、1人称で描くことに必然性があれば、客観の立場に逃げずに表現することを心掛けてきました。知人から『半径1メートルしか描いていないな』と笑われたことがあります。今回の『イントレランスの時代』もまた1人称表現で、私が感じたことをそのまま表現していますが、今の時代がどういうものなのか、歴史の立場からはどう見えるのか、という視点を加えています。『半径1メートルのドキュメンタリー』を制作し続けてきた私の、これが今の到達点だろうと思っています」

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