退職金の受け取りは「iDeCo・DCファースト」がお得!

退職金制度のある都内の中小企業は71.3%という調査結果があります。

つまり、約4人に3人の会社員は退職金を受け取ることになりますが、その際、受け取る方法や順番について知っておくことで税金がお得になることはご存じでしょうか?

今回は、知っておきたい退職金の受け取り方についてお話しします。


退職金の課税は負担が軽くなっている

まずは退職金にかかる税金についてお話ししたいと思います。勤務先から受け取る退職金や確定拠出年金、あるいは個人で拠出したiDeCo(個人型確定拠出年金)を受け取る時には税金がかかります。税金の計算については、他の所得とは合算せずに分けて行う「分離課税」になります。

そもそも退職金は給与の後払いとしてまとめて支払われるものであったことから、税負担が軽くなるようにされています。税額を計算する上で必要となる「退職所得」は以下の計算式で出します。

(退職金—退職所得控除額※)×1/2
※退職所得控除額
・勤続年数20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数20年超の場合: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

たとえば、勤続年数30年の場合、退職所得控除額は1,500万円(800万円+70万円×10年)になります。勤続年数が1年未満の場合には、端数を切り上げ1年として計算します。なお、確定拠出年金の場合、積立期間を退職所得控除の勤続年数として計算を行います。

上記は退職金を一時金で受け取るケースについてですが、年金方式で受け取る人もいるかと思います。

たとえば、企業年金や確定拠出年金など5年、10年、15年などと分割して受け取る場合、課税方法が異なることを付け加えておきます。その際には、公的年金や民間の個人年金と同様に「雑所得」となり公的年金等控除を差し引いて税額を計算します。

公的年金等控除額は年齢や収入金額によって異なり、2020年度から改正される予定で、高所得者は税負担が増えることになります。

数種類の退職金がある場合、「iDeCoファースト」を覚えておこう

前置きが長くなってしまいましたが、複数の退職金を受け取る場合に受け取る順番と受け取る年数で税金のかかり方が異なることをご存じでしょうか?

たとえば40歳から65歳まで働き退職するケースを見てみましょう。勤務先の退職金は一時金1,200万円のみ、iDeCoには50歳から60歳まで10年間加入して300万円の資産になる予定です。

退職一時金1,200万円の退職所得控除は1,150万円(800万円+70万円×5年)です。iDeCoは一括受取するので退職所得控除400万円(40万円×10年)を使えます。

60歳でiDeCo、65歳で退職一時金を受け取ると税額は1万2,500円

60歳でiDeCoを受け取る時に税金はかかりません。iDeCoの受取額300万円に対して退職所得控除400万円ですから、引ききれないため税金はゼロになります。その後、65歳で退職一時金を受け取る場合には「退職金の5年ルール」を利用することができます。

退職金の5年ルールとは“過去4年以内に「他の退職金」がある場合は、退職所得控除の計算に一定の調整が入る”ということです。つまり5年以上あけて、受け取るタイミングをずらすと退職所得控除に調整が入らず税制上有利に退職金を受け取ることができます。

このルールに基づくと退職一時金1,200万円にかかる税金は以下の計算より1万2,500円となります。

退職所得(1,200万円-1,150万円)×1/2=25万円
25万円×5%(所得税の税率)=1万2,500円

65歳に退職一時金、70歳でiDeCoを受け取ると税額は9万円

iDeCoの受け取りは60歳から70歳まで任意に決めることができます。では、iDeCoの受け取りを後にずらすとどうなるのでしょうか?

実はiDeCoの受け取りには「退職金の5年ルール」は利用できず、前年以前14年内に他の退職金がある場合、退職所得控除の重複分が減額されてしまいます。

つまり 65歳に退職一時金を受け取り5年後の70歳にiDeCoを受け取ると、iDeCoに加入していた10年は勤務期間に重複するのでiDeCoの退職所得控除は無くなります。

なお、70歳までiDeCoを続けた場合、拠出期間10年と運用期間10年を合わせて20年となりますが、退職所得控除の計算上利用できる勤続年数は10年(拠出期間のみ)となるので注意が必要です。

65歳の退職一時金1,200万円の税額は1万2,500円と変わらずですが、iDeCo受け取り時に税金がかかることになります。60歳時点で300万円のiDeCo資産を70歳まで10年間運用することになりますが、ここでは元本確保型の商品で運用し手数料分を考慮して300万円のままと仮定します。

課税所得は150万円「(300万円-0円)×1/2」となり所得税の税率5%を掛けると7万5,000円です。退職一時金と合わせて9万円の税金がかかります。

少しわかりにくいと感じられるかもしれませんが、iDeCo(個人型)やDC(企業型)も含めて確定拠出年金を利用している人に知っておいていただきたいことは「確定拠出年金を5年以上先に受け取ることで退職金をお得に受け取れる」ことです。

なお、自営業の場合、小規模企業共済などを利用している人もいるかと思いますが、この場合もiDeCoファーストと覚えておきましょう。

最後になりますが、今回は退職金を一括で受け取る時の税制をメインにお話しましたが、受け取る方法や時期については税金だけではなくライフプラン全体を考えて決めることが重要であることを付け加えておきます。

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