5年連続Bクラスも若手台頭、山岡&山本に続く投手は? 19年のオリ投手陣を振り返る

オリックス・山本由伸(左)と山岡泰輔【写真:荒川祐史、岩国誠】

負けないことが「エース」の証明、最高勝率に輝いた山岡泰輔

 2019年シーズンを6位で終え、5年連続のBクラスとなったオリックス。チームとしては悔しい結果に終わったが、選手個人の成績に注目すると、それぞれの「2019年」が見えてくる。特集動画「シーズンレビュー2019」では試合を振り返り選手にフォーカス。前編は投手を中心に、後編は野手を中心にオリックスの2019シーズンを振り返っていく。

 昨季オフに通算120勝(開幕前)を誇るエース・金子弌大投手が日本ハムへ、同じく74勝の西勇輝投手が阪神へそれぞれ移籍。昨季はチーム防御率リーグ1位(3.69)の投手陣を擁したオリックスだったが、今季は一転して先発陣の再建が求められるシーズンとなった。

 始めにフォーカスするのは山岡泰輔投手。開幕前の時点で、プロ入りから2年連続で規定投球回に到達しており、その能力の高さは証明済み。ただ、2017年は8勝11敗、2018年は7勝12敗と野手陣に左右される数字ではあるものの、完全に信頼感を得ているとは言い難かった。昨季のオリックスで規定投球回に到達したのは西と山岡の2人のみ。西投手が阪神へ移籍した以上、名実ともに「独り立ち」が求められるシーズンとなった。

 山岡といえば、画面上でもわかるほどの驚異的な変化量の縦スライダーが注目され、今季もその切れ味は抜群だった。併せて、今季は新球「カットボール」が光った。縦スライダーよりも落差は小さいが、球速はより直球に近い。同系統の球種を二つ組み合わせたことで投球の幅を広げることに成功。自身初の開幕投手を務めると、1年間を通してローテーションを守り、0勝0敗だった3月を除いて月間成績で負け越すことはなかった。終わってみれば13勝4敗で自身初タイトルとなる最高勝率(.765)を獲得するなど、最も白星が計算できる「エース」となった。

先発挑戦初年度で初タイトル、山本由伸は世代代表投手へ

 同様に自身初のタイトルである最優秀防御率(1.95)を獲得したのがプロ3年目、21歳の山本由伸投手だ。昨季は高卒2年目ながらもセットアッパーに定着し、平均150キロを超える力強い直球と、それに全く球速差がない140キロ台後半のカットボールで打者を圧倒。54試合に登板し、防御率2.89の好成績を残した。ただ、今季はかねてから自身が熱望していた「先発」に戦いの場を移した。

 先発と中継ぎでは求められてくるものが大きく異なり、スタミナ面での不安も考えられたが、山本には無関係だった。直球、カットボールに加えてフォーク、カーブなどの精度も向上し、昨季(53イニング)を大きく上回る143イニングを投げ抜きながら、1イニングあたりに出した走者がたったの0.96人。先発転向した後に、支配力が増したと言えよう。今季は3度の登録抹消もあり白星には恵まれなかったが(8勝6敗)、先発で20試合に登板した事実は、来季のさらなる飛躍につながるはずだ。

 山本と同い年であり、ともに先発陣で輝いたのが榊原翼投手。150キロを超える速球に加え、カーブ、スライダー、フォークを組み合わせた本格派で、高卒3年目とは思えない気迫あふれる投球が持ち味だ。今季は、育成出身の投手としては球団初となるプロ初勝利を4月に挙げるなど、昨季を大きく上回る13試合に登板した。特筆すべきはそのゲームメイク能力。先発で6イニング以上を投げ、かつ自責点3以内で抑えた「クオリティスタート(QS)」の回数は実に10回。割合で言えば26試合で20回(リーグ1位)のQSを記録したソフトバンク・千賀滉大投手に並ぶ数字だ。

 勝敗は付かなかったものの、取り上げたい試合がある。6月19日の巨人戦、6回まで1失点とほぼ完璧な投球を見せて迎えた7回裏。憧れであり、対戦を夢見た阿部慎之助選手が代打でコールされた。阿部選手は右飛に抑えたものの、続く中島宏之内野手にまさかの同点弾を浴びてしまう。一つの夢をかなえると同時に、手厳しい「プロの洗礼」を浴びる結果になった。ただ、マウンド上で悔しさをにじませたその表情には高卒3年目の21歳の初々しさはなく、同点を許したプロとしての責任感が見られた。今季で阿部は現役を退いたが、榊原のプロ野球人生は始まったばかり。来季の活躍に期待せずにはいられない。

海田智行が復活の55試合登板、ブルペンを支えた左の中継ぎ2投手

 救援陣では海田智行投手から取り上げたい。2016年に50試合に登板したが、以降2年間は故障もあって計16試合登板にとどまっていた。ただ、今季は開幕から一度も登録を抹消されることなく、自己最多の55試合に登板、防御率1.84といずれもキャリアハイの成績を残した。特に左打者との対戦成績は被打率.216と左キラーぶりを発揮。中継ぎ陣にも疲労が目立ち始める7月には11試合に登板し、うち8試合でホールドを挙げる活躍をみせた。

 その海田とともにブルペンを支えたのが、同じ左腕の山田修義投手だ。7月は海田投手とほぼ同じ12試合に登板し、防御率1.98。シーズンを通して回またぎから左のワンポイントまで多岐にわたる起用に応え、自己最多の40試合に登板し、終盤の9月には先発のマウンドにも立った。

 右腕では近藤大亮投手と比嘉幹貴投手の活躍が目立った。近藤は3年連続の50試合超えとなる52試合に登板した。4月に打者5人に対して4つの四球を出して登録抹消されたが、翌5月はファームで5試合に登板し、打者19人に対して10奪三振、防御率0.00の好投を見せ、同15日にすぐさま1軍に復帰した。昇格後は、勢い十分の直球を生かした本来の投球スタイルを取り戻し、8月は月間防御率1.59の好成績を残した。

 一方の比嘉は今季で37歳。本格的に「ベテラン」の領域に突入したとも言えるが、チーム4位の45試合に登板した。球速差の大きなカーブを織り交ぜる変幻自在の投球スタイルは健在だった。シーズン通算で見れば防御率は4.59ではあったものの、注目すべきは交流戦の成績。交流戦の全18試合中12試合に登板(うち2連投4回、3連投1回)を見せるなどフル回転を見せる一方で、6月の防御率は1.08と抜群の安定感だった。チームはペナントレースでは6位だったものの、交流戦では首位と0.5ゲーム差の2位。この陰には比嘉の活躍があったと言ってもいいだろう。

新守護神・ディクソン誕生 増井浩俊は150セーブ&150ホールドも…

 抑えでは増井浩俊投手とディクソン投手の2人を取り上げたい。本来、守護神は1人に固定されるべきではあったものの、昨季35セーブを挙げた増井が6月に大きく調子を落とし、登録抹消。代わって6月後半から9回のマウンドを任されたのが、通算138試合に先発した実績がある日本球界7年目のディクソン。今季は開幕前の故障で出遅れ、6月の今季初登板から救援に回っていた。1イニング限定の投球に絞ったことで、球速も150キロを超える回数が増え、代名詞のナックルカーブがより効果的に。6月に「来日初セーブ」を含む3セーブを挙げると、残りの3カ月間で一気に15セーブを加えた。

 増井も復帰後は本来の守護神としての意地を見せた。8月は10試合に登板し、5試合連続を含む8ホールド、防御率も0.82と安定していた。続く9月は防御率5.00と再び苦しんだが、同2日のロッテ戦で通算150ホールドを達成。阪神の藤川球児投手以来、史上2人目となる150セーブ&150ホールドの快挙を達成した。今季は不本意なシーズンであったかもしれないが、登板数は通算518試合に到達。来季で36歳のベテランとなるだけに、プロ11年目のシーズンはその修正能力が問われるものになりそうだ。

 投手陣では、山岡と山本という先発の柱が確率できたことは大きい。一方で、2014年以来となるAクラス復帰のためには、ここでは挙げきれなかった投手を含めた投手全体の底上げが不可欠だ。今季自己最多の19試合に登板したプロ2年目のK-鈴木投手は、102.1回を投げ、4勝6敗、防御率4.31の成績。大卒社会人出身であるため来季は26歳を迎えるだけに、2桁勝利などの高い目標も当然ながら射程圏内に入れてもらいたいところだ。今季、阪神から西投手の人的補償として移籍し、プロ初完封を記録した竹安大知投手や、来季でプロ3年目の24歳を迎える2017年ドラ1・田嶋大樹投手など、来季も数多くの投手に期待が寄せられるシーズンになりそうだ。

 今季のチーム防御率はリーグ5位の4.05に低迷してしまったが、一人ひとりの投手にスポットライトを当てると、救援陣を中心に月間成績などで見れば好調時は高いパフォーマンスだったことが見えてくる。一方で、これは裏を返せば個々の投手の調子の波が激しかったともいえる。オフを充実させ、来季の安定感につなげたいところだ。(「パ・リーグ インサイト」吉田貴)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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