頑張れ、箱根!

運転見合わせを告げる箱根湯本駅のホーム。車両も寂しそうだ

 【汐留鉄道倶楽部】年末に1年を振り返るとき、毎年「今年は自然災害が多かったな」と思うのはなぜだろう。地震、台風、豪雨、火山…。防災対策は年々進んでいるはずなのに、まるでそれを上回ろうとするかのように自然の猛威が日本列島を襲っている。

 10月12日に静岡県に上陸した台風19号は東日本を縦断、各地で河川が氾濫し90人以上の死者を出した。交通の被害も甚大で、道路や鉄道は各地で寸断された。長野・千曲川の氾濫で北陸新幹線の車両基地が浸水、多くの車両が廃車になった。

 天下の険を走る神奈川県の箱根登山鉄道も大きな被害を受けた鉄道の一つだ。斜面の崩落で橋が押し流されるなど線路がずたずたになり、今も箱根湯本―強羅(ごうら)間が運休している。同社によると再開は2020年秋ごろ。全面復旧まで道のりは長い。

 箱根は江戸時代は東海道の関所として、明治以降は避暑地として、そしてもちろん長い時代を通じて温泉地として栄えてきた。この地に鉄道が入ってきたのは明治時代、最初は馬車鉄道だった。馬に代わって電車が走るようになり、現在のような登山電車がお目見えしたのは1919年、ちょうど100年前。記念の年にこんな災難に見舞われるとは…。本来なら観光シーズンで大勢の客でにぎわっているはずの11月、その箱根を訪れた。

 箱根登山鉄道は小田原―強羅の電車区間と強羅―早雲山のケーブルカー(これも広い意味では鉄道だが)区間からなる。電車区間のうち小田原―箱根湯本間(約15分)は、実際は小田急の車両で運用されていて、箱根湯本まではすんなりたどり着いた。だが駅の構内にはあちこちに「運転見合わせ」の掲示が出ていて、ホームには回送状態になった登山電車が寂しそうに停車していた。

 一方、駅前のバス乗り場は、強羅行きの代行バスを待つ客であふれ、係員が何人も出て案内に当たっている。列が長いので「結構待ちますか?」と聞いたが「そんなに待たないです」との返答、本当にちょっと待っただけで路線バスが来て、無事に座席も確保できた。外国人観光客も多く、こうした細やかな案内のおかげで誘導もスムーズだった。

強羅駅も観光シーズンなのに出番がない車両たちがたたずむ

 バス路線となる国道、県道は鉄道線とほぼ並行していて、右へ左へと大きくカーブしながら標高が上がっていく。道路沿いの小川には土砂や流木がたくさん残っていて、路肩が崩れて片側通行になっている箇所も。道路に比べて鉄道は復旧に時間がかかることを思うと、1年で全面復旧というのもかなりタイトな作業を強いる計画なのかもしれない。

 強羅でケーブルカーに乗り継ぎ(12月から来年3月まで施設工事で運休中)、美しい紅葉の風景を臨むことができた。終点の早雲山からロープウエー、遊覧船、バスと乗り継ぐことで箱根を一回りできるのだが、時間の関係で今日はここまで。再びバスで箱根湯本に戻り、たいした応援にはならないけれど、お土産にわさびやかまぼこを買い込んで帰路に就いた。頑張れ、箱根、そして箱根登山鉄道!

 ☆八代 到(やしろ・いたる)1964年東京都生まれ。共同通信社勤務。帰りは2018年デビューの小田急ロマンスカーGSE(70000形)に初めて乗りました。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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