私立中学進学と1億円の住宅購入、高収入家庭の皮算用

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、夫が総合商社に勤める高収入世帯の20代夫婦。現在は海外に住んでいますが、帰国後は子どもを私立中学に通わせ、1億円近い住宅を購入したいといいますが……。FPの黒田尚子氏がお答えします。

住宅購入資金と十分な教育資金を確保したく、ご相談しました。

できればもう1人子どもが欲しいのですが、中学から私立に入れることを考えると金銭的に不安があります。3人目はあきらめるべきでしょうか。3人の子どもを中学から私立に通わせ、理想に近い住宅(1億~8000万円程度)を購入するためには、どのように計画を立てていけば実現できますか。

現在は夫が海外駐在中のため、日本で勤めていたときよりも給料が増え、年間500万円程度貯金ができていますが、数年後に帰国した際は給料が下がり貯金のペースが落ちることが予想されます。ただ今後も数回、海外駐在がある予定です。

第一子が3歳を過ぎたタイミングで、私も前職と同程度(手取り年350万円ほど)稼げる正社員として再就職をして家計を助けたいのですが、子ども2人を抱えて就職ができるか不安です。また保育園代が3歳未満は高い上、配偶者が再び海外転勤になった場合にまた退職をする可能性が高いことを考えると、私の再就職が適切かわかりません。

投資は企業型確定拠出年金とiDeCoのみですが、帰国後に貯金の3分の1程度を投資に充てようかと考えています。夫は仕事で交際費がかさむ傾向があり、ここは削れません。車が必須の環境のため、車両費も削れません。保険は貯蓄型で、生命保険料控除枠を考えて契約しています。

<相談者プロフィール>

・女性、28歳、既婚(夫:28歳、総合商社勤務)

・子供2人:1歳、0歳

・職業:専業主婦

・居住地:海外

・居住形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:60万円

・年間の手取りボーナス額:300万円

・毎月の世帯の支出目安:約40万円

【支出の内訳】

・住居費:0万円

・食費:3.5万円

・水道光熱費:2.5万円

・教育費:1.1万円

・保険料:1万円(貯蓄型)

・通信費:0.5万円

・車両費:5万円

・外食・娯楽費:5万円

・被服費:1.5万円

・飛行機代(積立):6万円

・お小遣い:12万円

(夫8万円、妻4万円)

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:20万円

・現在の貯蓄総額:1200万円

・現在の投資総額:100万円

・現在の負債総額:なし


黒田:ご相談者の貯蓄の目標は、「住宅購入資金」と「教育資金」の2つです。それぞれ予算や進学コースのイメージもあるようですから、それに沿って、どうすれば実現可能か考えてみましょう。

1億円~8000万円程度の「理想に近いマイホーム」を手に入れるには?

まず、住宅資金についてです。

住宅を購入するためには、原則、頭金として物件価格の2割、その上、税金やローン保証料、各種保険料などの諸費用もありますので、自己資金として物件価格の3割を準備しておきたいところです。ご相談者のご希望は、「1億円~8000万円程度」ということですから、2400~3000万円の住宅購入資金を購入時期までに準備しておく必要があります。

ただし、現在のところ年間500万円は貯蓄できているのであれば、すでに手持ちの預貯金1200万円と合わせ、前記の住宅購入資金を数年で準備するのも不可能ではないでしょう。問題は、購入時期です。数年後、日本に帰国した際なのか、その後も海外駐在が続くことを考えて、子どもが小学校や中学校に進学するタイミングなのかによって、上記の必要時期が変わってくるからです。

では、具体的に、どれだけ借りられるのかについて考えてみましょう。

海外駐在ファミリーの場合、子どもが小さい間は家族も同行し、子どもが成長すると進学に合わせて、日本でマイホームを購入。夫は単身で海外赴任するというケースが多いように感じます。

ご相談者の場合、子どもが中学から私立に進学となれば、小学校3~4年から帰国し、中学受験に備えることを想定し、例えば、今から10年後、ご相談者が38歳の時に、物件価格1億円、自己資金3000万円、住宅ローン7000万円で購入するとします。

住宅ローン7000万円を30年返済、金利1.21%、元利均等返済で借りた場合、毎月の返済額は23.2万円、総返済額8351万円になります。年間のローン返済額は278.4万円です。となると、手取り月収60万円に占める毎月の住宅ローンの返済負担率は約38.7%にものぼることに。

手取り年収ベースでは、約27.3%ですが、ボーナスは業績次第で変動する可能性があるので、長期の返済プランを立てる住宅ローンの場合、最初からアテにしない方が無難です(適正範囲は25%~30%。年収によって異なります)。

“無理なく払える借入額”から物件価格の目安を試算する

そこで、無理のない毎月返済額から借入額を試算してみる方法もあります。これは、現在の家賃や住宅購入のために積み立てしていた金額から、購入後の維持費(駐車場、管理費、修繕積立金など)を差し引いて求めます。

ご相談者の場合、家賃ゼロですので、毎月の貯蓄額20万円をベースに考えます。ここから購入後の維持費として8万円(物件価格が高いので、維持費も高めに設定してあります)を差し引くと、無理なく払える毎月返済額は12万円です。

先ほどと同じく、30年返済、金利1.21%、元利均等返済で借りた場合、借入可能額は3621万円となりました。これに用意できる自己資金を加えた額が、購入可能な物件価格の目安となります。1億円の物件であれば、6379万円の自己資金が必要であり、この資金が貯まったときが購入のタイミングとなるわけです。

なお、返済期間を最長35年までに延ばしたり、もっと低い金利で住宅ローンを組んだりすれば、借入可能額は増えます。大企業の会社員で年収も高いとなれば、銀行も喜んで融資してくれるでしょう。

しかし、高収入世帯が無理に多額の住宅ローンを組み、病気やリストラ、収入減などで、家計が破たんするケースは少なくありません。購入後、住まいが新しく大きくなれば、光熱費や交際費も増えますし、家具や調度品もそれ相応のものが欲しくなり、家計は膨らむばかりです。優先したいのが、希望の物件なのか、購入の時期なのか、よくご家族で話し合いましょう。

ちなみに、マイホームの購入年齢の平均は30代後半から40代前半です。購入時点で、すでに子どもが中学生、高校生の場合、大学や就職を機に独立してしまい、大きな住まいが必要な期間は意外に短いことも考えられます。ご相談者の夫が、海外駐在の可能性もあって、一緒に住まない期間があるのであればなおさらです。

現役時代は、賃貸でお金を貯め、リタイア直前に、キャッシュで終の棲家を購入するというのも一手ですよ。

私立に進学予定の子どもの教育資金の考え方は?

続いて、子どもの教育資金の考え方についてです。教育資金設計は、以下の3ステップで行います。

(1)希望(予定)の進学コースの確認
(2)これまでの準備状況を確認
(3)不足分を試算して準備方法を検討する

ご相談者は、「3人の子どもを中学から私立に通わせたい」というご希望ですので、それぞれ費用を見積もってみましょう。

子どもの教育費は、小学校が公立で、それ以外の幼稚園と中学校、高校、大学が私立の場合、一人当たり約1700万円かかります(※私立大学理系の場合は約138万円上乗せ)。一人当たり約1700万円となると、3人分で5100~5514万円となります。

もちろん、これが一度に必要になるわけではありません。

教育資金は、高校まで公立であれば、一人当たり300~500万円を目標にして貯めます。というのも、大学進学後の教育費負担が最も重くなるからです。私立であれば年間150~200万円かかりますので、ご相談者の場合、高校卒業までに3人分として1500万円(500万円×3人)を準備しておく必要があります。

しかも、中学から私立の場合、かかる教育費を家計の範囲内でやりくりしなければなりません。そうなると、第一子が中学に入って以降、住宅ローンの負担も抱えながら、夫一人の収入で子ども3人分の教育費や生活費をまかなうのは難しいと思います。

なお、大学などの高等教育の無償化制度が2020年4月1日からスタートします。これ以外にも、2010年から、公立高等学校などの授業料を無償化し、私立高等学校などに就学支援金を支給して授業料の負担を軽減させる「高校授業料無償化・就学支援金支給制度」が実施されています。ただし、これらの制度は親の所得の上限が定められているため、ご相談者のように、年収が高い世帯は対象外となります。

ただし、2019年10月からの、「幼児教育・保育無償化」(3~5歳を対象に幼稚園、保育所、認定こども園などの利用料を無償化)は年収等に関係ないので利用できるでしょう。

※出所:日本政策金融公庫「平成29年度教育費不安の実地調査結果」、文部科学省「平成28年度子供の学習教育費調査」「私立大学等の平成29年度入学者に係る学生納付金等調査結果」、日本学生支援機構「平成28年度 学生生活調査結果」(昼間部)

希望を叶えるための3つの方法は?

以上を踏まえて、「3人の子どもを中学から私立に通わせ、理想に近い住宅(1億~8000万円程度)を購入したい」という希望を実現させる方法としては、以下の3つをすべて実行することです。

【1】家計をスリム化して、海外駐在中かつ子どもが就学する前にもっとお金を貯めておく

【2】ご相談者の夫はできるだけ長く安定して働く

【3】ご相談者も早く社会復帰して働く(正社員でなくとも、在宅ワークなども視野に入れる)

要するに、収入を増やして、支出を減らすということ。

いずれにせよ、収入が高いご家庭に共通しているのが、収入の増加とともに、生活のレベルも上がって、家計全体が膨らんでいる、かつ、収入が減少しても、いったん緩んだ家計を元に戻すのは非常に難しいという点でしょうか。

逆に、貯めているご家庭は、収入が上がっても、生活レベルは上げない。支出に優先順位やメリハリをつけて、ストレスがたまらないように工夫されています。

ご相談者は、収入があるのに、「チマチマ節約するのはちょっと……」とお考えになるかもしれませんが、まだ20代と若い時期から備えておくと、40代後半から50代にかけて大きく差が開いてくるはずです。そのときに後悔しないように、早めの準備が肝心です。

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