どうなる? 2020年の日本ラグビー

23年W杯フランス大会への課題

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ラグビーW杯1次リーグ最終戦でスコットランドを破って8強入りを果たした日本代表(下)に声援を送るファン=10月13日、横浜市の日産スタジアム

 2019年は日本ラグビー界にとって文字通り「歴史的な1年」となった。ワールドカップ(W杯)日本大会では、日本代表が初の8強入りを果たし、国民を熱狂させた。その「熱」は衰える様子がない。12月11日に東京・丸の内で行われたパレードには、登録された代表メンバー31人のうち28人が参加。平日にもかかわらず約5万人のファンが詰めかける盛況ぶりだった。

 とはいえ、俗にいうブームの「熱量」はここから徐々に、そして確実に縮小していくはず。人気の火付け役となった日本代表にとって23年開催のW杯フランス大会に向け「リスタート」を切る20年は同時に日本ラグビーが正念場を迎える年でもある。(スポーツライター=向風見也)

 ▽ジョセフ続投を即決

  「(代表の)選手たちは各クラブに帰っても、自分のスキル、今のスタンダード(代表選手として保つべきプレー面での基準)を落とさずに、しっかり練習からはげんでいきたい」。W杯で5トライを挙げたウイング(WTB)の松島幸太朗は、今後についてこう展望した。ここからが正念場であることを選手は理解している。

 結果を残したジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)が就任したのは16年9月。南アフリカを破る「世紀の番狂わせ」を演じた15年イングランド大会でHCを務めたエディー・ジョーンズは同大会直後に退任していたので、日本ラグビー協会が新指揮官を迎えるまで1年近くかかっていたことになる。

 今回、日本ラグビー協会の動きは素早かった。ジョセフHCと親交の深い藤井雄一郎・強化委員長が先頭に立って慰留。W杯決勝から2週間あまりの11月18日に23年フランス大会まで続投することを発表した。また、アタックコーチとしてチームを支え続けたトニー・ブラウンを始めとする名参謀たちとの契約延長にも動いている。

 無作為にリセットボタンが押されたようにも映った前回大会終了後とは様子がまるで違う。ニュージーランドの強豪「ハイランダーズ」時代からジョセフとともに戦ってきた日本代表のスクラムハーフ(SH)田中史朗も喜びを隠さない。

 「(20年以降は)彼の考えを知っている選手が選ばれると思うので、いままで以上に『ONE TEAM(ワンチーム)』となるのは早いと思う。とてもありがたいです」

 ▽どうする、新チーム強化

 もっとも、今度のジョセフ体制はこれまでの3年間とは全く違う青写真を描かなくてはならない。

 これまでの日本代表は、世界の強豪クラブが集まる国際リーグ「スーパーラグビー(SR)」に参戦する「サンウルブズ」を修業の場に設定。18年にはジョセフ自身が同チームを率いるなど両チームの選手やコーチ陣を共有することで、外国人とのバトルに慣れるとともにプレースタイルの涵養(かんよう)を図れた。

サンウルブズの合宿で練習を見つめるジョセフ・ヘッドコーチ(左端)=18年1月、大分県別府市

 20年シーズンからは、同じ形で強化することが難しくなる。企業チームが日本一を争う国内の「トップリーグ(TL)」の開幕をこれまでの8月から1月に繰り上げたため、2月に始まるSRと日程が重なってしまうのだ。

 加えて、代表クラスの選手がサンウルブズと掛け持ちするのをTLの所属チームが渋ることが予想される。日本代表は19年のW杯イヤーに長期合宿を何度も実施。多くの選手のスケジュールを日本ラグビー協会の強化委員会が主導する形で管理していた。だからこそ、20年シーズンは「選手は(TLの)各チームで…となるのが自然」と協会関係者は話す。

 もちろん、TLに加盟する全てのチームが非協力的というわけではない。例えば、パナソニックは代表経験者の布巻峻介を始めとする選手たちをサンウルブズに派遣することを決めている。

 サンウルブズを運営する「ジャパンエスアール」の渡瀬裕司・最高経営責任者(CEO)は取材に対し、「明確な回答があるとは思っていない。状況を見ながらどうコミュニケーションを取って解決するかということ」と苦しい胸の内を明かした。渡瀬CEOは日本ラグビー協会の理事も兼務している。ならば、一定の権限を行使してもおかしくないところだが、TLのチームとの連携具合や日本協会内における立場は未知数だ。

 ▽SR参戦も消滅? 頼みは新リーグか

 サンウルブズの存続自体も懸念される。同クラブのSR参戦は今のところ20年まで。19年6月に就任した日本ラグビー協会の森重隆会長は「サンウルブズの応援って、すごいじゃないですか。外国人ばかりのチームを一生懸命に応援してね。早稲田とか明治とか、学校を抜きにラグビーを応援するファンをなくすというのは、何か寂しい」と話したが、一度決まったことを覆すのはそう簡単ではない。

ラグビーW杯1次リーグで強豪のアイルランドを下した日本代表に歓喜する人たち=9月28日

 撤退の理由としては、年間約10億円とされる参加費を巡り折り合いが付かなかったことが挙げられている。だが、その背景には日本ラグビー協会の前執行部によるSRを軽視したような意思決定があったことを忘れてはいけない。日本ラグビー界に多大な影響を及ぼしてきた森喜朗名誉会長(当時)は、かねてよりサンウルブズの存在を快く思っていなかった。

 この経緯から導きだせるのは、権力の使い方、そして権力の担い手の選択を誤ってはならない、ということだ。

 日本ラグビー協会は今、新たな動きを見せている。清宮克幸副会長が就任直後の19年7月に提唱したプロリーグ構想だ。放映権料や入場料の収益拡大を通じて、代表の強化費を生み出すことが狙いだった。しかし、現在は作業スピードがやや変化。同12月には、プロ化は前提にしない形で21年秋にTLに代わる新リーグの設立を目指す方向に傾いた。「プロ化ありき」での議論にTLの一部チーム側が反発した結果、TLを刷新することになった。詳細については、20年に設ける小委員会で詰めることになる。

 先行きが不透明な新リーグのレベルがSRに相当するかは、今のところ全く分かっていない。外国人枠を無制限にすれば近づけそうだが、そうなれば国内ラグビー界の大半を占める日本人選手が活躍する場を奪ってしまう可能性がある。「(新リーグの外国人枠が広がるのなら)もう、引退しようかな」と思っている選手も少なくないという。

 ▽ラグビー人気定着は代表の活躍次第

 日本代表は20年7月にイングランド代表、11月にスコットランド、アイルランド両代表とテストマッチを組む予定。いずれも強豪10カ国・地域を意味する「ティア1」に属している。テストマッチは世界ランクを左右するだけに、経験を積むだけでなく勝利を目指したい。テストマッチの勝敗は、人気定着のためにも重要だ。サッカーや五輪競技の例を考えると、この国では競技人気と代表チームの活躍は密接な関係にある。

ワールドラグビーの年間表彰式を前に、日本ラグビー協会の森重隆会長(右)と言葉を交わす日本代表のジョセフ・ヘッドコーチ=11月3日、東京都内

 ここで次のことが問題になる。

 これらのテストマッチで勝つためには日常的にハイレベルな試合をしたいところ。だが、その場を確保する道筋が見えないのだ。

 しばらくは、日本大会を経験した選手がジョセフHCと過ごした3年間で得たスキルや経験といった「文化」を伝えてゆける。そもそも現在のTLチームには世界各国のスター選手が多く在籍しているため、世界レベルとの距離を体感する「パスウェイ」が遮断されているわけでもない。

  とはいえ、代表の主軸候補がテストマッチと同等の厳しさを味わうには海外チームに移籍せざるを得なくなる可能性がある。国内リーグの所属選手と海外組で構成していた15年イングランド大会の日本代表は、1次リーグの4戦で3勝を挙げるも決勝トーナメント進出は果たせなかった。そこで、当時指揮していたエディー・ジョーンズHC(現イングランド代表監督)が中心となって、サンウルブズ結成とSR参戦を推し進めたのだ。日本ラグビーに関わる人々はこのことを忘れてはいけないのではないだろうか。

 TLのサントリーやNTTコムを指導したサンウルブズの大久保直弥HCは言葉を選びながら、次のように語った。

 「私もTLで長く仕事をしていた人間なので、両方の立場の違いがあることは理解しています。企業側も選手も言っていることは間違っていない。ただ、ラグビー界全体で変えるべきものは変えて、選手の向上心をそぐようなことはやってはいけない。それだけを願っています」

 イングランド大会後から日本大会までの4年間、日本代表はティア1の全チームと対戦し1勝1分け11敗と大きく負け越している。さらなる躍進のために日本ラグビー協会がどう後押しするか。注目だ。

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 向風見也(むかい・ふみや) 1982年、富山県生まれ。「ラグビーマガジン」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に「ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像」(論創社)。「サンウルブズの挑戦」(双葉社)など。また、Yahoo!ニュースの個人ページhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/mukaifumiya/にも記事を掲載している。