立憲民主・共産党政権は誕生するのか 20年は政局、安倍4選に道筋? 石破総裁も?

By 内田恭司

会食後、取材に応じる立憲民主党の枝野代表(中央左)と共産党の志位委員長(同右)ら=2019年12月15日夜、東京都内

 2020年、日本の政治は大きく動きそうだ。安倍晋三首相が憲法改正を実現させるため衆院解散・総選挙に踏み切り、自民党総裁「連続4選」を引き寄せるのか。追い込まれて退陣し、代わりに石破茂元幹事長が新総裁のイスに座るのか。立憲民主党と共産党による「野党連合政権」誕生の可能性を指摘する声もある。夏に東京五輪を控えるこの年は、日本の今後10年の行方を決める重要な年となるのは間違いない。 (共同通信=内田恭司)

 ▽安全保障関連法は廃止

 「日本の左派リベラルとコミュニスト(共産主義者)が政権を取る可能性があるのか。安全保障関連法や日米同盟に影響は出ないのか」。19年12月中旬、筆者は知り合いの在京米国大使館関係者から電話で矢継ぎ早に質問を受けた。

 同15日夜に立憲民主党の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長ら、両党の幹部が会談した内容を聞き「政権交代の可能性はゼロではないと思った」のだという。

 会談では①「桜を見る会」問題を結束して追及する、②安倍内閣を総辞職に追い込む、③早期の衆院解散へ準備を加速する、④安倍政権を倒し政権を代え、立憲主義を取り戻す―の4点で合意した。

 最も重要なのは4番目だ。立共両党で政権を奪取する意思を明確にしたのだ。「立憲主義を取り戻す」は、米大使館関係者が懸念する通り、安倍政権下の15年9月に成立した安全保障関連法を廃止することに他ならない。集団的自衛権の行使を初めて容認し、同法の土台となった閣議決定の無効化も目指すという。

 関係者によると、4番目の項目は共産党が主導して合意に盛り込まれた。会談で志位氏が枝野氏に「これは絶対に入れて欲しい」と強く主張したのだという。

 枝野氏が国民民主党と社民党に呼び掛けた野党合流が実現すれば、野党は立憲民主党と共産党の2党が主軸となる。安倍政権は通常国会で、「桜を見る会」問題に加え、総務事務次官の情報漏えい問題、統合型リゾート(IR)に絡む秋元司衆院議員らの贈収賄事件の「3点セット」で徹底追及を受けるのは必至だ。

 関係者は「安倍政権は早晩追い込まれ、首相は総辞職を迫られるか、解散するしかない。野党政権樹立は現実味のない話ではない」と意気込む。共産党はいち早く「野党連合政権」構想を打ち上げ、安倍政権打倒を掲げてきた。志位氏は、閣僚を出して連立政権入りすることも選択肢として「本気で政権交代を目指している」と言っていい。

 確かに、枝野氏が呼び掛ける国民民主党や社民党との野党合流が進めば、10人前後が離脱する可能性はあるものの、衆院で120人、参院で60人規模の野党第1党が誕生し「政権交代の挑戦権」(立民幹部)は得られる。過去の国政選挙では、候補者を一本化できた選挙区は好成績を残しており、全国で共闘態勢が整えば、過半数獲得は決して夢ではない。

 ▽野党5党の支持率は20%超え

 だが、懸案はある。選挙で掲げる統一政策はどうするのか。共産党は立憲民主党に協議を呼び掛けているが、先の会談では議題にならなかった。立憲民主党は、安保政策や原発政策、改憲への姿勢で距離のある国民民主党との合流協議の最中だという事情はあるが、そもそも共産党との連立政権樹立を党の方針として確立していない。

街頭演説するれいわ新選組の山本代表=2019年12月18日夜、東京・新宿

 安倍政権打倒と選挙協力では合意しても、いざ共産党と連立を組むとなると二の足を踏まざるを得ない。「国民民主党との合流だけでも『野合だ』『数合わせだ』と批判されるのに、共産党と連立するとなると、基本政策の矛盾を徹底的に突かれるのは目に見えている」(立民中堅)というのが、偽らざる本音なのだ。

 共産党は、「日米安保条約の廃棄」などを掲げた党綱領は堅持するものの、当面の現実的な対応として安保条約は継続し、自衛隊の存在も否定せず、防衛予算を編成するとしている。天皇制については「象徴制であれば問題ない」との立場を打ち出している。

 立民関係者は「共産党はここまで降りた。後はうちがどうするかだ」と、今後の展開は枝野氏次第だとの見方を示す。共産党に有利なカードもある。先の参院選で旋風を巻き起こした、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」との良好な関係だ。

 野党で最左派のれいわと共産党は政策的に近く、野党連合政権構想の呼び掛けに、山本氏は代表として応じている。20年2月2日投開票の京都市長選では共闘しており、両党が推す共産党系の新人候補が勝てば、「共産・れいわ」ラインの存在感はさらに増す。

 枝野氏が真剣に政権を目指すのであれば、国民民主党との合流後に課題となるのは、れいわとの共闘をどうするかだ。共産党を含めた「リベラル・最左派」勢力で政権を取りにいくのか、判断しなければならない時期がやってくる。

 山本氏は共闘には前向きで、3党態勢構築のハードルはそれほど高くない。ただ、共闘の条件として消費税率5%への引き下げへの賛同を訴えており、立憲民主党が応じなければ、衆院選で100人以上の候補者を擁立する構えを見せている。

 立憲民主党は、民主党政権で消費税10%への引き上げを進めた野田佳彦前首相らのグループとの合流も目指しており、政策面での調整が必要だ。5%に引き下げた場合に減収となる10兆円前後の財源確保策も示す必要がある。「富裕税」が取り沙汰されるが、「ポピュリズム的な政策」(自民党関係者)との批判は根強いだろう。

 とはいえ、19年12月の共同通信の電話世論調査で、合流協議中の立憲民主、国民民主、社民の3党と、共産、れいわ両党の政党支持率の合計は、前月より4ポイント増えて20%を超えた。自民党の36・0%とはまだ開きがあるものの、相次ぐスキャンダルで失速傾向が強まった政権与党としては、気になる数字であるのは間違いない。

 ▽「菅・二階」ラインは石破氏に秋波?

 では、安倍首相はどう出るのか。根強いのは、野党の態勢が整わないうちに衆院解散・総選挙に踏み切るとの見方だ。ただ秋篠宮さまの「立皇嗣の礼」が20年4月にあり、7月には東京五輪が控える。このため永田町では「秋以降」の解散が半ばコンセンサスになっている。

閣議に臨む安倍首相(中央)と麻生副総理(右)ら=2019年12月23日、首相官邸

 首相が何としても実現させたいのは改憲だ。だが、21年9月までの自民党総裁任期までの改憲はもはや絶望的で、自ら実現させようとするなら「総裁4選」を視野に入れるしかない。首相は4選を否定するが、盟友の麻生太郎副総理は月刊誌「文芸春秋」1月号で「本気で改憲をやるなら、4選を辞さない覚悟が求められる」とハッパを掛けた。

 首相が「改憲解散」と総裁4選をにらむのなら、年頭記者会見や通常国会の施政方針演説、3月の自民党大会で改憲への意欲を今まで以上に強めてくるのではないか。自民党関係者は「野党が反発するほど対立軸が鮮明になり、解散への環境整備が進む」と話す。

 もちろん別の展開もありうる。「桜を見る会」問題やIR事件などで世論の批判が高まり、内閣支持率が低迷すれば、解散のタイミングを見つけるのは困難になる。野党に勢いを付ける「追い込まれ解散」を避けるため、首相が電撃的に辞任し、改憲を後任に託す可能性もゼロではない。この場合、名前が挙がるのは自民党の岸田文雄政調会長だ。

 首相による事実上の「禅譲」で、首相の出身派閥の細田派と麻生派、岸田派の3派を中心に岸田氏を押し立て、新総裁に選出するシナリオだ。

憲法討論会で発言する自民党の石破茂元幹事長(中央)。右は国民民主党の玉木代表、左は立憲民主党の山尾志桜里氏=2019年11月2日、東京都渋谷区

 だがこのシナリオも、菅義偉官房長官や自民党の二階俊博幹事長、石破茂元幹事長らの動き次第では全く見通せなくなる。任期途中の辞任に伴う党総裁選は国会議員による投票だけでいいため、岸田氏に有利とされるが、「国民の声を聞く必要がある」として党員投票も実施することになれば、流れは変わりうる。

 仮に岸田、菅、石破3氏が立候補し、党員票で1位となった石破氏と、議員票を多く集めた岸田氏の決選投票となった場合、菅氏陣営がどちらに乗るかで、誰が新総裁になるかが決まるというわけだ。

 二階氏は19年10月初旬に石破氏と会食し、石破派幹部の鴨下一郎・自民党東京都連会長とも、都知事選に向けた協力を確認した。菅氏は石破氏側近の平将明衆院議員を内閣府副大臣として重用している。こうした動きは石破氏に秋波を送っているようにも見える。二階氏と菅氏は連携を強めてきていると、党内では指摘されている。

 立憲民主、共産両党にとって衆院選で戦いやすいのは岸田氏の方だろう。立民関係者は「国民的人気の高い石破氏が首相になれば苦戦する展開も予想される。安倍政権から石破政権への疑似政権交代で、野党の存在感はかすみかねない」と警戒する。

 安倍首相が「自身の手による改憲」を掲げて4選を目指すのか。岸田氏が政権を「禅譲」されて首相の意思を引き継ぐのか、それとも石破氏が政策を大きく「スイング」させて総理・総裁の座を射止めるのか。年明け以降、水面下の攻防と駆け引きは激しさを増しそうだ。

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