21世紀のジャムバンドシーンを予言したジョン・スコフィールドの『ア・ゴー・ゴー』

『A GO GO』(’98)/John Scofield

ゴリゴリのジャズギタリストとして知られたジョン・スコフィールド(以下、ジョンスコ)が、ニューヨークの前衛ジャズファンクトリオのメデスキ、マーティン&ウッド(以下、MM&W;)と全面的にタッグを組み、その後のジャムバンドシーンのマイルストーンとなった記念すべきアルバムが本作『ア・ゴー・ゴー』だ。グレイトフル・デッドやサザンロックを始祖とするジャムバンド音楽は、元来ロックからのアプローチが中心であったが、ジョンスコとMM&W;はジャズファンクやヒップホップからジャムバンドへの道筋を導き出した。セッションを通して彼らが生み出したジャムバンド的サウンドスタイルは、21世紀に登場した多くのジャムバンドの手本となった。

フィッシュの音楽スタイル

ジャムバンドの代表的なグループと言えば、まずフィッシュが筆頭に挙げられる。彼らは、サザンロック、ラテン、ファンク、プログレ、ヘヴィメタルなど、さまざまなスタイルを変幻自在に繰り出しながら、連日6時間以上にも及ぶパフォーマンスを披露することで注目されたグループだ。80年代後半に登場したフィッシュは60年代から活動していたアメリカ・サンフランシスコを代表するグレイトフル・デッドの演奏スタイルを蘇らせただけでなく、その間の20年間に登場した新しい音楽も加味してその幅を広げた。92年にメジャーデビューすると、大きなフェスに参加した若者たちを熱狂させ、多数のリスナーを得ることに成功する。

徐々にフィッシュはブルーグラス音楽に接近、90年代中頃にはヒプノティック・クランベイク、ストリング・チーズ・インシデント、レフトオーヴァー・サーモンらのようにブルーグラスをバックボーンに持つアーティストたちがジャムバンドシーンに相次いで登場し、デレク・トラックス・バンド、ガバメント・ミュール、ワイドスプレッド・パニック、モーらのようなサザンロック・ベースのグループとサウンドを二分するようになる。

MM&W;の雑食性

91年にニューヨークで結成されたMM&W;(ジョン・メデスキ=キーボード、ビリー・マーティン=ドラム、クリス・ウッド=ベースの3人)はジャズをベースにジャズファンク、ソウルジャズ、ヒップホップ、前衛音楽などをミックスし、当時先鋭的な音楽ファンに人気のあったライヴハウス『ニッティング・ファクトリー』などで大きな注目を集め、先進的なアーティストを青田買いすることで知られたグラマヴィジョン・レコードと契約する。デビュー当時は前衛ジャズをメインにしながらもヒップホップや現代音楽を取り入れて、かなり実験的なサウンドを繰り広げていたのだが、90年代の中頃にフィッシュと共演する機会を得て、MM&W;の面々はジャムバンド的な表現方法を彼らの音楽の中心に据えるようになる。ソウルジャズやジャズファンクをヒップホップや前衛ジャズと組み合わせたり、打ち込みの機械的なサウンドを人力でそっくりに演奏したりするなど、その人並み外れたテクニックで表現の幅を広げ人気を集める。

ジョンスコのファンクフィーリング

一方、77年のソロデビュー以来、ジョンスコのギタープレイは粘液質でのたうち回るようなフレージングを特徴とし、時折ノイジーな不協和音を交えるといったスタイルが持ち味である。82年の末にはマイク・スターンの代わりにマイルス・デイビスのグループに参加、一気にその名が知られることになる。脱退後はマイルスのグループで磨いたジャズファンク的なサウンドを武器に、ニューオーリンズのセカンドラインなども取り入れ、新境地を築く。サックス奏者ベニー・ウォーレスの『トワイライト・タイム』('85)での演奏は出色の出来だし、リーダー作『ピック・ヒッツ・ライヴ』('87)は恐ろしいほどの完成度で、これまでの彼の集大成的なアルバムとなった。また、M-Base派のゲイリー・トーマスの『By Any Means Necessary』('89)では、短いながらもオールマン・ブラザーズのフレーズをソロに盛り込むなど、この頃すでに貫禄すら感じさせる演奏を聴かせている。

90年にはブルーノートと契約、基本に立ち返ったような模範的ジャズアルバムを数枚リリースした後、94年の『ハンドジャイブ』でオルガン入りのジャズファンク作品をリリースする。これで火が付いたのか、続く『グルーブ・イレイション』('95)もソウルジャズのテイストが感じられる作品となった。

本作『ア・ゴー・ゴー』について

『グルーブ・イレイション』は95年のリリースで、ちょうどその頃MM&W;はフィッシュと出会い、グループをジャムバンドへとシフトしている時期である。ジャズの枠にとらわれないジャズファンク的サウンドを模索していたジョンスコと、ジャムバンドに不可欠なジェリー・ガルシア的なギタリストを探していたMM&W;、彼らは出会うべくして出会ったのである。ジョンスコとMM&W;はセッションを繰り返し、ひと味違うジャムバンド・サウンドを生み出すことになるのである。

本作『ア・ゴー・ゴー』は98年にリリースされた。これ以降、ジョンスコとMM&W;のコラボレーションは何度も行なわれるが、本作がその第一弾となる(のちにメデスキ・スコフィールド・マーティン・アンド・ウッド(MSM&W;)となる)。ジャズ、ジャズファンク、ソウルジャズ、ヒップホップなどの要素を持ったそのサウンドはジャムバンド界のマイルストーンとなり、多くのジャムバンドグループに影響を与えた。本作の名義はジョン・スコフィールドとなっているものの、実際はグループとして考えるべきである。

収録曲は10曲、当然だが全てインストで何度も再演される名曲が詰まっている。タイトルトラックの「ア・ゴー・ゴー」は、このアルバムの特徴が表現された自己紹介的な意味を持つナンバーで、ライヴでは延々と演奏されることも少なくない。「チャンク」「グリーン・ティー」「ホッテントット」「デッジー」も未だにライヴで演奏される名曲群だ。

アルバム全編を通してジョンスコのギターはシンプルで、メデスキのキーボードとのアンサンブルを重視している。これまでの粘液質でのたうち回るようなプレイは弾いているものの、簡潔にフレーズをまとめブルージーな演奏でメリハリを効かせている。マーティンとウッドのリズムセクションは、ある時はかつてのソウルジャズグループのようでもあるし、またある時はヒップホップの打ち込みのようなサウンドのようでもある。基本的にはジャムバンドの特徴であるグルーブ感にあふれたリズムで、聴いている者をナチュラルハイ状態にさせる。中でも「ホッテントット」は名演だ。たった4人だけの演奏なのに、ヒップホップとタワー・オブ・パワーとグラント・グリーンが合体したような印象すら受ける。

本作の後、MSM&W;名義で2006年に『アウトラウダー』、2011年にライヴ盤『Live:In Case the World Changes Its Mind』、2014年に『ジュース』がリリースされている。なお『ジュース』には、ドアーズの「ハートに火をつけて」、クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラブ」、ボブ・ディラン「時代は変わる」のカバーも収められている。

TEXT:河崎直人

アルバム『A GO GO』

1998年発表作品

<収録曲>
1. ア・ゴー・ゴー/A GO GO
2. チャンク/CHANK
3. ブーザー/BOOZER
4. サザン・パシフィック/SOUTHERN PACIFIC
5. ジープ・オン35/JEEP ON 35
6. カブリック/KUBRICK
7. グリーン・ティー/GREEN TEA
8. ホッテントット/HOTTENTOT
9. チキン・ドッグ/CHICKEN DOG
10. デッジー/DEADZY
〜ボーナス・トラック〜
11. ライク・イット・オア・ノット/LIKE IT OR NOT
12. ホープ・スプリングズ・イターナル/HOPE SPRINGS ETERNAL

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