柳田ら主力離脱も周東ら活躍、育成にも好素材… 19年ソフトバンク野手陣を振り返る

ソフトバンク・松田宣浩【写真:荒川祐史】

出場試合数上位2名はともに35歳超え、試合に出続けることの価値

 あと一歩のところでリーグ優勝は逃したものの、ポストシーズンを圧巻の強さで勝ち抜き、3年連続となる日本一に輝いたソフトバンク。今回は、特集動画「シーズンレビュー2019」で試合を振り返り選手にフォーカス。打者編、投手編に分けてソフトバンクの2019シーズンを振り返っていく。

 シーズン143試合全てに出場したのは、チームで松田宣浩内野手ただ1人だった。今季でプロ14年目の36歳。ベテランと呼べる年齢ながらも、2年連続3度目となる30本塁打に到達。今季も「熱男」のパフォーマンスで多くのファンを沸かせた。シーズン通算では打率.260だったものの、6月には同.313、7本塁打を記録。特にセ・リーグのチームに対しては、1試合2本塁打を2度記録(14日DeNA戦、18日ヤクルト戦)し、2年ぶりの交流戦優勝に大きく貢献した。

 今季で37歳、チーム最年長野手である内川聖一内野手は137試合に出場。100試合以上に出場したのは2016年以来だった。一昨年から2年連続でファーム降格を経験していたが、今季は一度も登録抹消されることなくシーズンを戦い抜いた。また、その一塁守備にはより磨きがかかり、守備機会1094で失策は「0」。一塁手としては自身初となるゴールデングラブ賞を受賞した。一方の打撃では、シーズン打率.256だったものの、持ち前のポストシーズンの強さは健在。CSファーストステージでは3試合で2本塁打、打率.364を記録し、ファイナルステージ進出の立役者となった。

チームに欠かせない助っ人大砲コンビ

 デスパイネ外野手とグラシアル内野手の活躍がなければ、今季のソフトバンクのシーズン成績は大きく変わっていたと言ってもいいだろう。まず、デスパイネは主に4番に座り、130試合に出場。自己最多の36本塁打(リーグ2位)を放った。持ち前のパワーを存分に発揮し、豪快に引っ張る本塁打が見られた一方で、今季は逆方向へのアーチにも注目が集まった。全36本のうち、18本が右方向への当たりであり、ライトスタンドのファンにも多くのホームランボールを届けた。

 グラシアルは7月に母国の代表参加のため一時離脱となった影響で、規定打席には届かなかったものの、昨季の54試合を大きく上回る103試合に出場した。打率.319のハイアベレージを残しながら、長打率.595とパワーも十分で、リーグ9位の28本塁打を記録した。また、月単位で見ても成績の上下が小さく、月間打率が3割を切ったのは6月の同.299のみだった。

 甲斐拓也捕手といえば、その驚異的な強肩を指す「甲斐キャノン」が代名詞になっていることは言うまでもない。ただ、今季の盗塁阻止率は.342と、昨季の同.447には届かず。一方で、打撃成績が大きく向上したといえるだろう。自身初の規定打席に到達し、打率.260、11本塁打といずれもキャリアハイだった。9月6日のロッテ戦では、同い年の千賀滉大投手が育成出身選手初となるノーヒットノーランを達成した。その陰で、同じ育成出身の甲斐が「女房役」として先制打を放っていたことを忘れてはいけない。

 今季のソフトバンクで、最も出場機会を伸ばしたのは周東佑京内野手と言っても過言ではないだろう。思い返せば、昨季のファームで、平凡なショート正面のゴロを「内野安打」にする驚異的な脚力を見せており、今季の活躍の予兆はすでに見られていた。

 開幕直前の3月26日に支配下登録されると、4月6日の1軍登録以降、一度もファーム降格を経験することなくシーズンを戦い抜いた。持ち味の走力では、リーグ5位の25盗塁を記録してその能力を証明。代走として出場機会が限られ、なおかつ相手バッテリーからの警戒もあることを考えれば、好成績である言えるだろう。守備では内野手登録でありながらも、両翼、そして三塁手、二塁手とさまざまな起用に応えた。ただ、打席に立つ機会は少なかったものの、打率は.196とまだまだ改善の余地が残る。来季も足のスペシャリストとして活躍する一方で、打撃面の成長にも期待したい。

故障に苦しんだ今季… 来季の完全復活を狙う3選手

 周東のような新戦力の台頭がある一方で、苦しいシーズンに終わった選手も少なくはない。ここでは、今季怪我や不調に苦しんだ選手を、来季への期待を込めて3人紹介する。

 まずは何と言っても柳田悠岐外野手だろう。開幕第2戦では逆転満塁弾を放つなど、今季も打線の中で絶対的な中心選手としての活躍が期待されていた。しかし、4月に左ひざ裏の肉離れを発症し、当初の見立てを大きく超える約4か月間の離脱となってしまった。この影響は大きく、今季は38試合出場止まりだった。その一方で、CSでは全7試合に出場し、打率.370、1本塁打の活躍で意地を見せ、シリーズ制覇に大きく貢献した。首位打者2回、最高出塁率4回を獲得するなど、その実力はもはや説明不要。長期離脱も来季への糧とし、より一層スケールアップした柳田に期待したい。

 中村晃外野手も同じく怪我に苦しんだ。3月に右脇腹痛を発症し開幕に出遅れると、同月に自律神経失調症を発症し、開幕に間に合わず。5月に1軍復帰したものの、腰の張りで再び登録抹消。本格的な戦列復帰は8月までずれ込んでしまった。出場試合数は昨季の約3分の1である44試合にとどまった。ただ、柳田同様にこのままでは終わらなかった。CSファイナルステージでは3試合に出場し、2本の先制打を含む5安打、打率.455で勝利に貢献した。

 最後は上林誠知外野手だ。24歳となった今季は開幕3連戦でいずれも安打を放ち、好スタートを切ったかに見えた。しかし、5月に薬指の剥離骨折が判明し、登録抹消となってしまう。再登録後も復調の兆しは見られず、99試合で打率.194、本塁打も昨季から半減の11本に終わった。柳田、中村晃がCSで結果を残す一方で、上林は9月20日の抹消以降、再登録とはならず、悔しいシーズンとなった。

 その打撃成績の内訳を見ると、シュート、スライダーに対しては打率.280を超えており、対応力を見せていたことが分かる。一方で、直球に対しては2割を下回った。ゾーン別に見ても、内角の打率は軒並み2割台前半から1割台だった。当然、この数字は上林も認知しているだろう。昨季は143試合に出場し打率.270、22本塁打を記録しており、若き主力としての期待値も高い。来季は修正能力が問われるシーズンとなりそうだ。

ソフトバンクはファームも日本一! 来季の注目株は…

 1軍が3年連続の日本一に輝く一方で、ファームも強さを見せた。ウエスタン・リーグを1位で終えると、10月5日に行われたファーム日本選手権ではイースタン・リーグ王者の楽天に勝利。4年ぶりとなるファーム日本一に輝いた。ここでも触れている甲斐、周東はいずれも育成選手出身であるだけに、来季は新たなスターの誕生に期待せずにはいられない。ここでは、ファームで結果を残し、来季の飛躍が期待される選手を取り上げたい。(成績はいずれもファーム公式戦における成績)

 その筆頭が田城飛翔(たしろ・つばさ)選手だ。背番号は「135」の育成登録であり、昨季はファームでも出場は1試合のみだったが、今季はチーム最多の112試合に出場した。開幕ダッシュに成功し、3、4月度のファーム月間MVPに輝いたが、特に圧巻だったのは7月だった。16試合に出場し、猛打賞3回を含む月間打率.407の好成績を残した。

 シーズン通算でも108安打(リーグ1位)、打率.307(同2位)を記録。ファームには最多安打のタイトルがなかったものの、ウエスタン・リーグの優秀選手賞に選出された。来季は背番号を2桁にすることが第一目標となるが、今季の周東のように開幕直前に支配下登録を勝ち取る例もある。来季で21歳を迎える若き才能が完全開花となるか、注目だ。

 同じく出場機会を増やしたのが増田珠内野手だ。昨季の5試合から111試合へと出場機会を増やすと、シーズン通算でも打率.278(リーグ3位)、7本塁打(同10タイ)を記録した。7月の打率.240、8月も同.222と暑さで疲れが目立つ時期もあったが、9月には月間打率.327を記録して盛り返した。

 9月末には1軍昇格を果たし、2試合に出場。プロ初安打はお預けとなったが、貴重な経験となっただろう。同年代には日本ハム・清宮幸太郎内野手、そしてセ・リーグ新人王に輝いたヤクルト・村上宗隆内野手がいる。成長速度は選手それぞれであることは言うまでもないが、来季は1軍で増田選手の打席を1つでも多く見たいところだ。

 3年連続の日本一に輝く一方で、リーグ制覇は2017年以来遠ざかっている。記事内でも触れたが、今季は主力に故障者が続出し、ベテランに頼る場面も多かった。最後の最後で逆転を許した西武野手陣は、中村剛也内野手などのベテランから森友哉捕手などの若手まで、幅広い世代の選手が活躍していた。143試合を終えて頂点に立つためには、ベテランと中堅、そして若手の力がバランスよく揃っていることが求められる。

 そして、その可能性を持つ選手がソフトバンクには十分に在籍している。実際のところ、故障者が完全復活したプレーオフでは無類の強さを誇った。パ・リーグ王座奪還に向けて、万全の状態で開幕を迎えてもらいたい。(「パ・リーグ インサイト」吉田貴)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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