刑務所に12回入った73歳が語ったこと

累犯障害者が立ち直る先進地 司法×福祉、次の10年へ(1)

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 刑務所に入っている人たちの中に、知的障害や精神障害のある人たちがたくさんいる―。そんな事実が明るみに出たのは十数年前のことだ。出所しても行き場がなく、刑務所に戻りたくて罪を犯す高齢者もいる。福祉の網から漏れ、不遇ゆえに犯罪を繰り返してしまう人たち。そんな悪循環をなくそうと、国は2009年、司法と福祉が連携する仕組みをつくった。それから10年。私たちは累犯の障害者や高齢者を救えているだろうか。(7回続き、共同通信=市川亨)

更生保護施設「雲仙・虹」で施設長(右)と話す高齢の入所者=2019年10月、長崎県雲仙市

 ▽穏やかに語る普通の高齢者

 長崎県の島原半島。雲仙・普賢岳の麓に、罪を犯した障害者や高齢者支援の先進地がある。社会福祉法人「南高愛隣会」。刑務所出所者らを福祉につなぐ仕組みを全国で最初に始めた法人だ。

 「満期出所で社会に直接出ると、また安易な道に走っちゃうから、ここに来てよかった」。同法人が運営する更生保護施設「雲仙・虹」で暮らす男性(73)は、苦笑いしながら話した。

 山あいの緑に囲まれた環境で20~80代の約20人と共に生活指導を受けながら過ごす。「詐欺や窃盗、業務上横領罪などで刑務所に12回入った」と聞いたら、「極悪人」のイメージが浮かぶかも知れない。だが、穏やかに話す姿は、どこにでもいる高齢者と変わらない。

 若い頃は農業関係の会社で営業所長まで務めたが、ギャンブルにのめり込み、着服や盗みを繰り返した。19年9月、刑務所を仮出所したものの、行き場はなかった。そんな男性を「雲仙・虹」へつないだのが「地域生活定着支援センター」という組織だ。南高愛隣会が長崎県から運営を委託されており、雲仙市の隣の諫早市にある。

 「雲仙・虹」の入所者は平均半年ほどでアパートやグループホームなどに移っていく。「ここを出たら、自立した生活がしたい」と言う男性。「でも、自分ではお金の使い方をセーブできないから、お金の管理は支援センターの職員に任せたい。話し相手がいると、ギャンブルしたい気持ちも抑えられるんだけど、これまでそういう支援は受けたことがなかった」

南高愛隣会が運営する更生保護施設「雲仙・虹」=長崎県雲仙市

 ▽「裏切って申し訳ありません」

 南高愛隣会は長崎県内で障害者の通所・入所施設を幅広く運営する。地域生活定着支援センターは、厚生労働省と法務省が連携して09年度から全国に設置を始めた機関。現在は全国47都道府県全てにあるが、長崎が第1号だった。

 センターができたことによる効果は目に見えて表れている。刑務所を出所した人は全体で平均20%弱が2年以内に再犯してまた刑務所に戻る。だが、長崎県のセンターが支援して県内に帰住した出所者で再入所した人は10%。殺人など重大な再犯をした人は1人もいない。全国的なデータで見ても、刑務所を出た障害者、高齢者のうちセンターの支援を受けた人の再犯率は、受けなかった人の4分の1以下に抑えられている。地域の安全に寄与している形だ。

 南高愛隣会は刑務所や県弁護士会とも連携。近年は「専門職に就く前に、累犯者への『怖い』という偏見をなくしてもらおう」と、長崎大などの学生と勉強会を開き、司法と医学、福祉の垣根を越えて人材を育てる試みにも力を注ぐ。

 それでも再犯を完全になくせるわけではない。

 「皆様方を裏切って本当に申し訳ありません」。センターの伊豆丸剛史(いずまる・たかし)所長(43)が16年、拘置所にいる軽度知的障害の40代男性から受け取った手紙にはそう書いてあった。

 男性は10代から住居侵入と窃盗を繰り返し、前回刑務所を出所した15年、伊豆丸所長が住居や福祉サービスを調整。そのさなか、わずか約4カ月で再犯してしまった。

住居侵入と窃盗の再犯をした知的障害のある男性受刑者から届いた手紙

 「なぜなんだ」。手紙のやりとりの中で男性は「いつからか、侵入した先々の家の幸せをぶっ壊すことが目的になっていた」と吐露した。男性は子どもの頃から施設育ち。親の愛に飢えていたことが犯行の背景にあるとみられる。

 19年7月の京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司(あおば・しんじ)容疑者(41)も以前の罪で服役後、精神障害があったことから関東の定着支援センターが関わったが、再犯を防げなかった。

 「生きづらさを抱える人を短期間で完全に立ち直らせるなんてできない。大切なのは、何度つまずいてもそばに誰かが居続けること。それができる態勢をつくることだ」と伊豆丸所長。手紙の男性が出所するときには、また迎えに行こう。そう思っている。

  ×  ×  ×

インタビューに応じる田島良昭最高検参与

 司法と福祉が連携する国の制度導入に大きな役割を果たしたのが、南高愛隣会の田島良昭(たしま・よしあき)前理事長(74)だ。政府にも発言力を持つ第一人者に、京アニ事件の容疑者のことから刑罰の在り方まで話を聞いた。

 ▽認知症で万引、途方に暮れる家族

 ―地域生活定着支援センターができて10年たったが、現状をどう見ているか。

 「都道府県によって取り組みの差が大きい。難しいケースを扱いたがらず、司法サイドの信頼を失っているセンターも見られる。人口規模に応じた財源配分がされていないため、東京などではニーズに応え切れていないという問題もある。

 センターは現在、刑務所を出所した人への『出口支援』が主な業務になっているが、今後は逮捕・起訴段階で福祉につなげる『入口支援』にもっと取り組む必要がある。

 理由の一つには、高齢化に伴い認知症で万引などをしてしまう人が増えていることがある。身体的に元気な場合、要介護度は低く判定される。その結果、介護報酬は低いのに手間がかかるため、老人ホームなどの施設は受け入れたがらず、家族が途方に暮れている。行き先がないため、困った家族を見かねて検察官があえて起訴し、刑務所に入れるといった例もある」

 ▽法務省と自治体が連携を

 ―どうすればいいか。

 「今後に期待しているのが、16年に施行された再犯防止推進法だ。再犯防止推進計画を定めるよう地方自治体に努力義務が課せられた。

 『入口支援』の対象者は『出口』の何十倍もいるが、普段、自分たちの近くにいる認知症高齢者や障害者なので、自治体の支援になじみやすい。住民を含めた地域全体での関わりも必要になってくる。法務省と自治体はこれまで関わりが薄かったが、再犯防止推進法をてこに今後は連携を強めていってほしい。

 その際、検察事務官が鍵になる存在だと思っている。全国採用で数年ごとに異動していく検事と違って、事務官は地元採用が多い。地域の事情をよく知っていて、人間関係のネットワークもある。検察と自治体行政のつなぎ役になれるはずだ」

京アニ事件の青葉容疑者

 ▽青葉容疑者、支援断ったか

 ―京アニ事件の青葉容疑者は、センターが支援に入っていたが、衝撃的な事件を防げなかった。

 「いろいろ福祉サービスを紹介したが、青葉容疑者が断ったと聞いている。福祉になじまない人間は一定数いるし、本人に拒否されたら、手は出せない。緩やかな形でも支援を受けるよう義務付けるといったことを考えてもいいのではないか」

 ―刑務所の在り方についてはどう考えるか。

 「刑罰そのものや、受刑者への処遇を見直すべきだ。日本では『懲らしめる』という考え方が強く、わざわざ税金を投じて受刑者の更生への意欲を打ち砕いている。その結果、出所しても社会生活が営めず、再犯してしまう悪循環になっている。

 刑務所も高齢化が進み、80代や90代の受刑者に労役を課す形が合っているのか、現場の刑務官も悩んでいる。社会復帰のためのプログラムを実施するようになっているが、まだまだ不十分。罪を償うことは必要だが、刑法を改正し、生活能力が低い人がスムーズに社会復帰できるよう教育する仕組みに大きく変えていくべきだ」(続く)

  ×  ×  ×

 田島良昭 1945年、長崎県生まれ。社会福祉法人「南高愛隣会」理事長や、全国地域生活定着支援センター協議会会長などを歴任。2011年から最高検察庁参与を務める。

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