社説(12/29):WTO機能不全/日本は回復と改革主導せよ

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 国や地域同士の貿易紛争を解決するための世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥った。裁判の「最終審」に当たる上級委員会で定員7人の委員が1人だけになり、案件の審理に必要な合議体を組めなくなった。新たな案件は放置される。WTOに不満を抱く米国の反対で、任期切れ委員の補充ができなかったのが原因だ。

 「自由貿易の番人」と称されるWTOのまひは、トランプ米政権の保護主義的な通商政策が世界にまん延することにつながりかねない。

 WTOの改革は必要だろうが、法に基づき平和的に紛争を解決するメカニズムを世界は失ってはいけない。「自由貿易の旗手」を掲げる日本は、事態打開へ国際社会への働き掛けを強めるべきだ。

 WTO設立の背景には、かつて保護主義が世界にはびこり、貿易を巡る各国の摩擦が第2次世界大戦の一因になったとの反省がある。このためWTOは準司法的な強い制度を持つ。

 当事国が協議しても解決しない場合、通商法に詳しい専門家らが紛争処理小委員会(パネル)で審査する。当事国はパネルの判断に異議があれば、上級委に上訴できる。パネルや上級委にWTO協定違反を認定されると、是正勧告を受ける。

 米国の不満は審理の長期化に加え、WTO協定を解釈し新たなルールを作るなど「越権行為」をしているとの現状認識にあるようだ。中国の産業補助金への対応も問題視する。ただ改革への対案を示さないまま2年以上も委員補充に反対し続けており、意に沿わないWTOを有名無実化する意図も垣間見える。

 WTOの在り方に、日本も問題意識を持つ。今年4月には韓国による日本産水産物の輸入禁止措置を巡る日韓の紛争で、上級委がパネル判断を取り消し日本の「逆転敗訴」とする最終判断を下し、日本に衝撃が走った。以降、政府は制度の不備を訴える。とはいえWTO体制による自由貿易の促進で恩恵を受けてきたのもまた日本である。

 WTOは意思決定に当たり164に上る加盟国・地域の全会一致を原則にする。米国が反対し続ければ委員の補充もできない。「たった1カ国の行動が、他の加盟国の権利を奪っている」(欧州連合=EU=のアギアルマシャド大使)状態にあり、現状のままでは改革の進展は望めまい。

 機能停止の対処策として臨時の上級委を設ける案もある。より本質的な改革として多数決を採用する手もあろう。ただ米国外しの形で議論を進めれば、米国が脱退する懸念も指摘されている。

 実効性のある貿易の秩序づくりに経済大国、米国を巻き込むことは必要だろう。日本はEUとも連携し米国を粘り強く説得し、WTOの機能回復と改革を主導するべき立場にある。