五島「つくしんぼ」支援メンバー・花浦紀章さん 引きこもり9年間 「苦しむ誰か 支える番」

11月に五島サポステで開催されたミニ演奏会でギターを披露した花浦さん=五島市三尾野1丁目

 長崎県五島市に今月、不登校や引きこもり、いじめなどに悩む子どもたちを受け入れる「フリースペースつくしんぼ」が開設された。かつての当事者やその親、相談支援に詳しいメンバーらがボランティアで運営し、電話や面会で相談に応じる。
 支援メンバーの花浦紀章さん(31)=五島市大荒町=は、小中学校でいじめを受け不登校を繰り返し、高校1年の夏から9年間自宅に引きこもった。それでも趣味のギターや理解者との出会いを通じ、社会との関わりを取り戻した。「ちょっとしたきっかけで将来は変わる。次は自分が苦しむ誰かを支える番」との思いを強くしている。
 生まれ育ったのは二次離島の奈留島。保育園から高校まで同級生がほぼ固定され、いじめの対象になると逃げ場はなかった。小学校低学年の頃から悪口を言われたり、教科書に落書きをされたり、物を隠されたり。4年生の頃は担任教諭にも守ってもらえず、学校に行けなくなった。
 5、6年ではいじめグループとクラスが離れて平穏な学校生活を送ったが、中学で再び同じになり、不登校気味に。高校進学後もグループが同じ教室にいた。高校1年の1学期、部活動中に足を骨折して数日間学校を休み、あらためて感じた。「休めば嫌な人と会わなくて済む」。2学期から全く通えなくなった。
 ゲームが唯一の楽しみであり、“救い”だった。オンラインゲームにのめり込み昼夜が逆転。時折、福江地区でゲームを買うため外出したが、「船で会うのは知り合いばかり。人の目が怖かった」。そんな生活が9年間続いた。
 転機は25歳の時。「働かないとやばい」。誰に言われるでもなく、そう感じ始めた。インターネットで「五島サポステ」の存在を知り、奈留島での出張相談会に参加。それから月1回サポステ事務所に通い、業務を手伝った。2年ほどして、福江地区で1人暮らしを始めた。プール監視のアルバイトやパソコンスクールの受講などを経て、2017年秋から市内の福祉施設で調理の仕事に就いている。
 ギターは、サポステに通っていた頃に始めた。1、2年前から市内の喫茶店でサロンコンサートを開いたり、合唱祭や演奏会に出演したりと活動の幅を広げている。「もともと人前に出るのは嫌いじゃない」と花浦さん。充実した日々を送る今、つらい過去はあまり思い出さなくなっている。
 市内では、小中学生の少なくとも1%前後、数十人が不登校の状態にあるとされる。「周りが強制しても、最後は自分で行動しようと思えないと何も変わらない。一緒に話すことくらいしかできないけれど、必要とされればいつでも協力したい」。花浦さんは、静かにそう決意している。

 


© 株式会社長崎新聞社