年末年始のフランス旅行は要注意、「史上最長スト」が今起きている根本事情

日本の株式市場は閑散相場の様相を呈しています。12月25日の東京証券取引所1部市場の売買代金は1兆0,992億円と、7年ぶりの低水準にとどまりました。

主因は、日本市場のメインプレーヤーである海外投資家の多くがクリスマス休暇入りしていることです。欧米では新年を迎えるよりもむしろ、クリスマスのほうが重要なイベント。友人や家族らと冬のバカンスを楽しみます。

カトリック信者の多いフランスでも、クリスマスは大切な日。フランス語で「レベイヨン」と呼ばれる夜食をテーブルに並べて、イブのお祝いをする家庭もあります。

ところが、今年はクリスマスシーズンの盛り上がりに水を差すような出来事がありました。交通機関による大規模なストライキです。


ストが長期化している理由

ストは12月5日から始まり、26日で4週目に突入しました。エマニュエル・マクロン大統領の掲げる年金制度改革に反対するもので、フランス国鉄(SNCF)やパリ交通公団(RATP)の労働者らが参加しています。

年金改革は業種によって異なる複雑な42の年金制度の一元化が骨子です。公務員や公営企業には特別に優遇された仕組みがあり、労働者は年金制度が一本化されると受け取る額が少なくなってしまうおそれがあることなどに強く反発しています。

SNCFの発表によると、クリスマスイブの24日には9.8%の労働者がストに参加。このうち、運転士の参加率は49.3%と半数近くに達しました。その影響で、高速列車のTGVと在来線のTERの運行本数は通常の4割にとどまりました。

ジャン・ピエール=ファランドゥSCNF総裁はフランスの新聞「ル・モンド」のインタビューに対し、「5日からの20日間で、ストによる売り上げの減少は4億ユーロ(約480億円)に達した」などと説明しました。

ツイッターには恨み節も

SNCFは労働組合にクリスマス休暇の期間中はストを休止するよう呼びかけましたが、労組はこれを拒否。同総裁は「抗議行動が長引いて強固なものになれば、止めるのは難しくなるだろう」などと警戒しています。

パリの地下鉄もクリスマスイブは6路線で全面運休。正常に運行されたのは、自動運転の路線のみでした。

フランスのテレビ各局のニュースはイブの当日、長距離鉄道のターミナル駅の様子などを放映。間引き運転されている列車は空席が多く、帰省などを他の交通手段に切り替えていることを伝えていました。

「クリスマスはパリでひとりぼっち。ありがとうSNCF」「クルマの相乗りもできず、電車もなく、クリスマスもない。自分の人生で味わう最もつらい体験だ」……。ツイッターには恨みまじりのつぶやきが目立ちました。それでも、駅で怒り出す人はいないようです。

<写真:ロイター/アフロ>

ストやデモは日常茶飯事

ストに合わせて大規模なデモも行われています。仏最大の労働組合であるフランス労働総同盟(CGT)によると、12月17日のデモには全国で約180万人が参加したということです。

フランスのストやデモは日常茶飯事。筆者はビジネスフランス語の教師から「早く覚えたい大事な言葉は(フランス語でストライキを意味する)グレーヴ」と教わったことがあります。

抗議行動を通じて自らの意思を表現するのは1789年の革命以来、脈々と受け継がれるフランス人のDNAともいえるでしょう。「初めてデモに参加したのは高校生のとき」。こうした経験が当たり前ともいえる多くのフランス人の眼には、日本の若者がとてもおとなしく映っているようです。

実際、今回のストやデモにも理解を示すフランス人が少なくありません。仏週刊紙「ジュルナル・ドゥ・ディマンシュ」の依頼で同国調査会社のIfopが12月19・20両日に実施した世論調査では、69%がマクロン政権の年金改革に賛成する一方で、51%が一連の抗議行動も支持しています。

対立は年明け以降も長期化

交通機関運休の混乱がいつまで続くのか、見通しは立っていません。政府は年明け1月7日に年金改革をめぐって、労使双方との協議を行う方針を明らかにしました。これに対して、CGTのフィリップ・マルティネス書記長は「協議に招待を受けていない」などと仏メディアに語っています。

政府側にも改革で譲歩する考えはなさそうで、年明け後も両者の対立は長期化する可能性があります。そうなれば、同国経済に悪影響が及ぶのも避けられないかもしれません。

フランスでは昨年11月、燃料税の引き上げに端を発した大規模なデモが全土で勃発。「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」を身にまとった人たちが中心となった抗議行動は毎週土曜日の恒例行事となり、今年に入ってもしばらく続きました。暴徒と化した一部の参加者は商店などを襲撃し、警察と衝突する騒ぎにも発展しました。

「ジレ・ジョーヌの危機」の記憶が鮮明に残る中で起きた、今回のゼネスト。フランスの2019年は、皮肉にも「デモで始まりストに終わる」という同国らしい年になってしまった感もあります。

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