年末年始は特に注意 答えてはいけない「アポ電」の巧妙なテクニック

12月23日の深夜、再びアポ電強盗が発生しました。2月には、詐欺の事前電話をかけた後に家に押し入り、高齢女性が縛られて、亡くなるという痛ましい事件も起きています。なぜ、師走の時期にこの手口が発生したのでしょうか? また、私たちがアポ電からの被害に遭わないための対策についても、警察が公開した音声をもとに考えます。


アポ電強盗とは?

12月は特殊詐欺の被害が多くなる時期です。その理由のひとつに、年末年始に向けてモノを買うなど、お金が必要となって家に現金を置く人が多くなることがあるでしょう。犯罪者たちは、そのお金を狙ってきます。そうしたなかで、再び、アポ電強盗が発生しました。

東村山市に住む80代高齢夫婦が、窓ガラスを割り、押し入ってきた犯人らに縛られて、460万円を強奪されたのです。実は、その事件の一週間前に警察署員を騙り電話がかかってきており、その時に、商売をしていて自宅にたくさんのお金を置いていることを話してしまい、狙われたと思われます。

アポ電とは、詐欺などの犯罪を行う前に、相手の状況を探るためにかける電話のことで、警察官や市役所職員を騙り、巧みに私たちの個人状況を聞き出します。以前には、消防署の職員を名乗り「災害時にすぐに救助できるよう、一人暮らしかどうか確認をしている」と言ってきた事例もあります。アポ電の後には、たいがいは詐欺を行いますが、今回のような強盗もあります。

そこで被害に遭わないために、どういう形でアポ電がかかってくるのかを知ってもらえればと思います。

80代高齢女性宅に、夜19時過ぎ、孫を騙る男から電話がかかってきました。

「実家から携帯に電話した?」

しかしその時、電話に出たのは、家を訪れていた高齢女性の娘さんでした。そこで男はとっさに「あれっ、お母さんでしょ」と切り返します。しかし、女性は息子の声との違和感を覚えて、詐欺の電話だと見抜いた対応をしました。男も、それを察知したのでしょう、早々に電話を切りました。そこで、女性は母親である高齢女性に。詐欺の電話であったことを伝えます。

翌日の朝9時過ぎに、再び電話が鳴ります。

「もしもし、〇〇」と、男は孫の名を騙ります。それを受けた高齢女性は「なに?」と疑うことなく、孫からだと信じてしまいました。そして、話が進みます。

「携帯を落としちゃって」

そして、男は警察や落とし物センターから連絡があるかもしれないと伝えます。

2度目の電話からわかることは、アポ電は一回かかってきて、終わりではないということです。名簿を手に入れている詐欺犯は繰り返し、電話をかけきますので、私たちは、詐欺の電話を撃退したからと、安心してはいけません。再び、詐欺の電話があることも、心しておかなければなりません。

アポ電の大きな狙いのひとつに、相手が騙しやすい人物かどうかを探るということがあります。この電話では、高齢女性は名前を言われて、すぐに孫だと信じて応対したので、詐欺犯は次の話を仕掛けてきます。

行動を漏らしてしまう

「携帯の他に、財布、書類もなくしちゃった」

実は、この3点を出すのがミソなのですが、のちにわかります。

「今日、家にいる?」と高齢女性に尋ねます。
「うちにいるよ」
「ほんとに、ずっといるの、1人で」
「そうだよ」

そして「連絡があったら、対応をよろしくね」の言葉を残して、電話を切りました。

ここで、高齢女性は「家1人でいる」ことを教えてしまいました。今日一日の行動を知られてしまうことは、とても危険なことなのです。

30分ほどして、落とし物センターを名乗る男から、詐欺の本電話がかかります。

「今回、落とされたものは、3点ありまして、携帯電話と、お財布と、書類になっております」
「ああ、そうですか」
「まだ、見つかっていないが、携帯と書類になります」と言います。

「そうですか」と答える高齢女性に、男は「携帯に電話してしまうと、悪用される恐れが大変多くなってしまうんですね」と、孫の携帯電話には連絡しないように、釘を刺します。被害者が、なぜ本当の息子や孫になぜ電話をしないのか?と思う人もいるでしょうが、実は、詐欺犯は巧みに本当の孫や息子に電話をさせないように仕向けているからなのです。

電話を切ると、間髪入れずに、孫を騙る男から電話があります。

「電話あった?」
「今、電話があったよ。落としたの見つかったってよ」
「何が見つかったって?」
「財布と、携帯とねぇ、書類が見つかったって」
「全部見つかったって」
「うん」

しかし、高齢女性は聞き間違いをしてました。これは詐欺犯にとって、都合の悪い事態です。そこで、男は「確認する」と言って、一端、電話を切ります。

本題を切り出す

再び、孫から電話があります。

「携帯と書類は見つかってないって。財布だけだって言ってた」
「そう」

そして、詐欺の本題に入ります。

「ちょっと、その書類がさぁ、仮想通貨ってわかるかなあ」
「わかんないよ」

男は皆の金を集めて、仮想通貨を買っていたと説明します。

「で、それの換金、今日で、それの書類をなくしちゃったのよ」
「今回、僕がお金預かっていて、その書類をなくしちゃって、今、確認したら金曜日に再発行ができるって言ってて、ただ金曜日に再発行されて換金できたとしても、お金を払わないといけないのは今日なんだよね。ちょっと今、困ってて」

電話をかけているのは、日曜日です。すぐにお金を準備しないといけない、というのです。

「いくら?」
「かなりでかい額になっちゃうから、急いで埋められるような額ではないんだけど。だから、ちょっとお金借りたりもしなきゃいけないかなと思ってて」「結構な額」
「100万くらいかかる?」と高齢女性は聞きます。
詐欺犯は「いや、もっともっともっと」と言います。

ごく自然な形でお金の話を振っていきます。多くの人は詐欺の電話というと、「○○万円を貸して!」と一方的に言ってくると思いがちですが、相手に金額を言わせるように誘導することも多いのです。

しかし、高齢女性は「私なんかとてもじゃないけど、立て替えできねぇや」と言います。すると、詐欺犯は、「だから、全部じゃなくて、ちょっと貸せないかなあと思って」と、お金を釣り上げるのをやめました。

「私は年金暮らしだもんよ」
「いやぁ、わかるよ、100万とかでも借りれないかな?」
「貸してやっても10万位くれぇだなぁ」
さらに、男は高齢女性を銀行に行かせようとしますが、それも難しいとわかると、
「そうだよね、わかった、じゃあ他も当たってみるね。」と、電話は切れました。

今回、1時間のうちに5回電話があったように、詐欺ができると思えば、一気にしかけてくるのです。高齢女性が「10万円ほどしか渡せない」と答えたので、事なきをえましたが、もしこれが100万円以上でしたら、間違いなく詐欺犯は家にやってきて、お金をだまし取ったことでしょう。

個人情報を相手に教えない

それにしても、アポ電強盗は、2、3月以来、久しぶりの手口ですが、なぜ、この時期に、起きたのでしょうか?

その背景には、詐欺に対する警察の取り締まりの強化があると思われます。そして、多くの高齢者も振り込め詐欺を警戒し、お金を騙し取られまいとしています。もし息子や公的機関に成りすまして電話をかけ、いったんは話を信じても、お金の話を出すと、詐欺だとバレてしまい、騙しとれないケースが出てきているからです。目の前に多額のお金があるのに取れない。特に12月はより詐欺への警戒が叫ばれていて、こうした状況に拍車がかかってきているために、強奪という荒っぽい手段に出たのではないかと考えています。

これまで詐欺などの被害に遭わないためには、「お金を渡さないことが大事」と言われてきましたが、今や、お金などの個人情報を相手に教えてしまうことも、危険だということを心に留めておく必要があるでしょう。

© 株式会社マネーフォワード