累犯者、会えば普通の人 村木厚子元厚労省事務次官インタビュー 司法×福祉、次の10年へ(6)

 厚生労働省で官僚トップの事務次官を務めた村木厚子(むらき・あつこ)さん(64)は、郵便不正を巡る文書偽造事件で2009年に逮捕・起訴(後に無罪)され、拘置所で過ごした経験を持つ。障害者の雇用や福祉の担当課長を務めたこともあり、障害者問題への思い入れは強い。罪を犯した障害者を支援しようと、自身の不当逮捕への国家賠償金を寄付し、12年に基金も設立した。累犯障害者・高齢者への支援について話を聞いた。(共同通信=市川亨)

インタビューに答える村木厚子さん=2019年9月10日、大阪市内

 ▽再犯率低下に成果

 ―司法と福祉の機関が連携する国の制度ができて10年たった。

 「09年度に連携の仕組みが始まる前は、刑務所の中に福祉の対象者がいるという認識自体が非常に薄く、厚労省でも『法務省の管轄だ』という意識が強かった。

 『地域生活定着支援センター』ができたことで、刑務所出所者に居場所を見つけ、その後の暮らしもアフターケアするという流れができた。再犯率は下がり、一定の成果を上げている」

 ―センターは全てがうまく行っているわけではないようだ。

 「47都道府県の各センターを運営する法人の力量には差があるし、法人の性格も違う。しかし、そのこと自体は問題ではない。センターが自分でできないことは、他の機関にお願いすればいい。大事なのは、地域の医療や福祉、就労支援などの事業者とどれだけネットワークをつくれるかだ。

 09年から10年たち、当然、アフターケアの対象者は累積で増えている。センター自体の強化も必要ではあるが、センターが全てを引き受けることはできない。これからは地域全体で取り組む時代へ移っていくのが望ましい。市町村や地域コミュニティーの力が求められる」

 ▽「前科10犯」でも怖くない

 ―そうは言っても、一般の人は「関わりたくない」という感覚ではないか。

 「世の中の意識を変える必要がある。専門職が親身になって支援しても、近所や職場で孤立していたら、当事者の生きづらさは結局、変わらない。再犯を防ぐには、身近な人たちの意識や態度がとても大切だ。

 例えば『前科10犯』と聞くと『怖い』というイメージを持つ人がまだまだ多いが、実は軽い犯罪を繰り返しているだけだったりする。会ってみると、本当に普通の人なんだなと分かってもらえるはずだ。抽象的なイメージではなく、身近にいる具体的な人間を思い浮かべられるようになったら、社会の意識は変わっていくと思う。いかに当事者と実際に会う機会を持ってもらえるかが重要だ」

 ▽福祉で「自分らしい生き方」を

 ―拘置所に入った経験を踏まえ、思うことは。

 「拘置所にいたとき痛感したのは、『この環境では社会性も生活能力も体力も身に付かない』ということ。罪を犯さずに社会で暮らせるよう、刑務所や拘置所でトレーニングできる仕組みが必要だ。

 出所後、福祉サービスを利用するのを嫌がる人もいるが、『不自由な施設に入所させられる』という古いイメージがあるからではないか。今は地域で普通に暮らせるように変わってきている。ただ、福祉の専門職の中にも過保護な人や、偏見がある人がいるのも確か。『福祉サービスを利用して自分らしい生き方ができる』ということを伝え、福祉職もそれを実践する必要がある」(続く)

  ×  ×  ×

 村木厚子 1955年、高知県生まれ。旧労働省に入り、厚労省で障害者や子育て支援などの部門で幹部職を歴任。逮捕、無罪を経て2013~15年同省事務次官。17年から津田塾大客員教授。

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