『2019年の卓球』を専門メディアが振り返る。多くの快挙達成から、衝撃の告白も…(前編)

写真:世界卓球2019表彰式での早田ひな(写真左)、伊藤美誠(写真右)/撮影:なかしまだいすけ/アフロ

いよいよ、『平成』から『令和』に元号が変わった2019年も大詰め。年が明ければ2020年“オリンピックイヤー”を迎える。

今年のスポーツ界を見てみると、ゴルフ界では一躍脚光を浴び、“しぶこフィーバー”を巻き起こした渋野日向子、バスケ界では日本人初のNBAドラフト一巡目指名を受け、先日は渡邊雄太と史上初の“日本人NBAプレイヤー対決”を実現させた八村塁など、各競技で若きスターが誕生した。

そして、日本を最も熱狂させたイベントといえば、なんといっても『ラグビーワールドカップ』だろう。日本代表の躍進を支えた言葉「ONE TEAM(ワンチーム)」は、今年の象徴として2019年の流行語大賞にも選ばれた。

ニュースを挙げればキリがないが、卓球界にとっても東京五輪の代表選考レースを兼ねていたため、数々のドラマや名シーンが生まれた1年となった。今回は、そんな『2019年の卓球』を振り返る。

全日本で見る“3つの快挙”と“世代交代の予兆”

写真:水谷隼(左)、伊藤美誠/提供:西村尚己・アフロスポーツ

2019年の卓球界は、1月の全日本卓球選手権大会での“3つの快挙”から始まった。

女子は伊藤美誠が女子シングルス、ダブルス、混合ダブルスでいずれも優勝し、女子初の2年連続での3冠の快挙を達成。昨年に比べてさらに強さが増した印象を残し、東京五輪への選考レースが本格化するシーズンに向けて弾みをつけた。

この時からすでに「頭ひとつ抜きん出た存在」であったことは間違いないだろう。

写真:全日本2019での木原美悠/撮影:ラリーズ編集部

だが一方で、その伊藤と女子シングルス決勝で相対した木原美悠の快進撃も見逃してはならない。当時14歳で、同大会で史上最年少での準優勝。日本卓球界のニューヒロインとして一気に注目を集める選手となった。“令和の星”の誕生の瞬間に誰もが心踊ったことだろう。

そして男子は水谷隼がシングルス決勝で、Tリーグ木下マイスター東京(以下、KM東京)でチームメイトの大島祐哉を破り、2年ぶり10回目の優勝。“前人未到の偉業”を成し遂げた。

これは水谷が、長年、日本の男子卓球界を牽引し続けてきた何よりの「証」でもある。若手が続々と台頭する卓球競技で、今年で30歳を迎えてもなお頂点に立つその強さは、まさに“レジェンド級”だ。

水谷は試合後に「若手も成長してきているが『張本だけじゃなくて水谷も倒そう』となると思うので、壁でいられるようにしたい」とコメントしたが、同時に来年以降の全日本選手権の不出場と、東京五輪を最後に日本代表からも退くことも明言。日本卓球界の世代交代を予感させる大会となった。

男子はKM東京、女子は日本生命が初代王者に【Tリーグ1stシーズン】

3月17日には、昨年10月に開幕したTリーグ1stシーズンの年間王者決定戦「プレーオフファイナル」が開催。女子は日本生命レッドエルフ(以下、日本生命)が3-2で木下アビエル神奈川(以下、KA神奈川)を破って初代女王に。男子はKM東京が岡山リベッツ(以下、岡山)を3-1で下し、初代王者の栄冠を手にした。

試合が開催されたのは、開幕戦と同じ東京・両国国技館。会場内は、普段は土俵がある位置に卓球台を1台設置しており、“大相撲の聖地”から、“卓球の聖地”へと変貌を遂げていた

試合前にはCHEMISTRYの堂珍嘉邦がサプライズ登場。迫力あるライブパフォーマンスを披露するなど、開幕時にはなかったエンターテインメント要素がふんだんに盛り込まれており、「試合以外でも魅せる」という卓球界に新たな文化の誕生を予感させた

写真:優勝トロフィーを掲げる日本生命レッドエルフメンバー/撮影:ラリーズ編集部

女子は両チームともに石川佳純(KA神奈川)や平野美宇、早田ひな(ともに日本生命)といった日本のスター選手がずらりと並ぶなか、マッチカウント2-2になった際に行われる1ゲーム限りの延長戦(ヴィクトリーマッチ)にまでもつれ込む。

勝敗を決める一戦に抜擢された早田が、Tリーグシングルスの個人成績で2位の袁雪嬌に勝利し、日本生命が3-2でKA神奈川を破りTリーグ女子初代女王に輝いた。それと同時に、早田は13戦13勝のシングルス無敗でシーズンを終えるという快挙を達成。1stシーズンを通じて早田の“半端ない”成長ぶりを感じさせた。

写真:木下マイスター東京の選手・監督・スタッフ/提供:©T.LEAGUE

男子はKM東京が、第1マッチで勝率8割超えの岡山のエースペア・上田仁/森薗政崇に敗れて先手を取られたものの、その後のベテランカットマン侯英超、後期MVPの水谷、前期MVPのエース張本智和(KM東京)がいずれも勝利し、初代王者の栄冠を手にした。

Tリーグ開幕当初は、誰もが「KM東京の圧勝で終わる」と予想したことだろう。結果的に水谷や張本といった“個の力”でシングルスをものにしてきたKM東京が制したが、岡山はつねにダブルスで主導権を握るスタイルで勝ち上がり、この団体戦の戦い方のあり方を示して見せた。この対照的なチームがぶつかり合ったからこそ、白熱した最終戦になったことは間違いない。

衝撃的な水谷の「球が“見えにくい”状態」の告白

写真:水谷隼(木下グループ)/撮影:伊藤圭

2019年前半から活躍してきた水谷。だがたまに、サングラスをかけてプレーする姿が見られ、違和感を覚えた人も少なくないだろう。

それについて水谷は、ここ1年「ボールが“見えにくい”という目の状態」であったことを告白した。

これまで国内外で数々の成績を残し、日本男子卓球界を牽引し続けてきた、あの水谷が…。卓球ファンにとっては、衝撃のニュースだったのではないだろうか。

水谷本人は「日常生活に支障はない」と言うものの、「卓球台の周囲が暗くて、台にだけ白い光が当たっている。そして周囲が電光掲示板で囲われている場合、ほとんど球は見えていません」と目が見えない試合状況について説明。

そして試合中は「まず相手がボールを構える。その時に(掲示板と)かぶって、フッっと球が“消える”んです。その後、打球の音だけが聞こえる。ボールはネットを越えたあたりから突然現れる」という。

その中でプレーしているのかと思うと、未だに信じがたい。水谷にとって大事な東京五輪への代表選考レースも、大会の設備によっては“球が消える”状態で戦わなければならなかったのだ。

「今の自分は全盛期の3割くらい」と言い切った水谷。苦肉の策だったサングラスの着用によって「5割くらいの力はなんとか出せるようになった」と話すが、それでも自分らしいプレーができないもどかしさは感じているだろう。

彼は今も、満身創痍(そうい)の体で自分との戦いに挑み続けている。

日本はダブルスで強さ見せるも、立ちはだかる卓球王国の壁【世界卓球2019】

写真:早田ひな(左・日本生命)と伊藤美誠(スターツ)/撮影:田村翔(アフロスポーツ)

4月21〜28日には、世界卓球選手権大会が行われ、女子ダブルスの早田/伊藤ペアが48年ぶりの決勝進出と銀メダル獲得の快挙を成し遂げた。混合ダブルスでは吉村真晴(名古屋ダイハツ)/石川佳純(全農)のペアが2大会連続での優勝は逃すも、3大会連続でのメダル獲得を達成した。

早田/伊藤ペアは女子ダブルス決勝で孫穎莎(スンイーシャ)/王曼昱(ワンマンユ)(中国)と対戦。はじめに2ゲームを連取し、好スタートを切ったが、ここから中国ペアが本領を発揮。一気に4連続でゲームを奪い、力の差を見せつけられた。

それでも全日本選手権で同ペアで連覇を果たすなど、相性の良さは抜群。早田は「お互いに切磋琢磨した上で、東京五輪でもまた組みたいと思っている」と“みまひな”ペアで1年後を戦う未来を描いていた。

写真:吉村真晴(右・名古屋ダイハツ)と石川佳純(全農)/撮影:田村翔(アフロスポーツ)

吉村/石川ペアは、混合ダブルス決勝で許昕(シュシン)/劉詩雯(リュウスーウェン)の中国ペアと激突。前回2017年ドイツ大会で金メダルを獲得した日本ペアだったが、中国の壁は高く、1-4で敗北。2大会連続での優勝とはならなかった。

ちなみに中国は、今大会で全5種目で金メダル獲得と、他国との実力差を示す結果に。東京五輪に向けて「打倒・中国」の道のりは険しいと痛感した大会でもあった。

だが、これから令和に入り、2019年の後半を戦っていくに連れて、日本選手たちはさらなる進化を遂げていく。後半では、主要トピックスを取り上げつつ、東京五輪の卓球「シングルス枠」が決まるまでの道のりを振り返る。

文:佐藤主祥

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