「必ず〇千万円儲かる」 ネットで誘惑する情報商材の“甘い罠”

投資、副業、仮想通貨……。「こうすれば必ず●●万円儲かる」などとうたったビジネスがネット上にはあふれています。途方もない金額が簡単な手段で手に入るなんて、見るからに怪しげで、「自分だけは引っかからない」とつい思いがちです。しかし、こうした「情報商材」といわれる手口のビジネスには、「言う通りにお金を払って実行したのに損した」と被害を訴える人が後を絶たず、集団訴訟に発展するケースも多発しています。ネット上の怪しげなビジネスは一体、どのようなメカニズムなのでしょうか。情報商材のトラブルに詳しいあまた法律事務所(東京・文京)の豊川祐行代表弁護士に話を聞きました。


情報商材の被害が最多

たいていがネット上で「楽な手段で」「誰でも」「多額なお金がもうかる」などとネット上で勧誘してくる、こうした情報商材系のビジネストラブル。主に投資や副業といった形を取る場合が多いようですが、豊川弁護士によるとその内容には一種の「流行」があるそうです。

あまた法律事務所では、個人ごとではなかなか法律相談がしづらいこうしたビジネスの被害者向けに、クラウド上で繋がって集団訴訟を起こせるWebプラットフォーム「MatoMa」を運営しています。人数や証拠などが集まり、被害金の回収可能性が高そうな事案について交渉を行い、被害者救済を図っています。会員は約1万4,000人に上ります。

必ずしもネットビジネスのトラブルに限っているわけではないそうですが、現在プラットフォーム上で登録されている事案約680件のうち情報商材が350件、仮想通貨系は89件、ネットワークビジネス(口コミで商品を購入させる手法)40件などが上位に挙がっています。

最多である情報商材トラブルの中身を見ていくと、投資系ではFX(外国為替証拠金取引。証拠金を業者に預託し、主に差金決済による通貨売買を行う)、バイナリオプション(オプション取引を元にした金融取引)、副業系ではアフィリエイト、YouTubeやSNSで稼ぐノウハウといった“旬”なテーマも登場しているそうです。

豊川弁護士によると、中でも今の“主流”のトラブルはFX。「ひどいところだと『1カ月で何千万円も稼げるなどと言っているところすらある。『FXの専門家』と称する人物が(勧誘でノウハウを)説明するが、実際にはうまくいかないもの」(豊川弁護士)。「AIに運用させている」「ただお金を預けるだけで、世界有数のトレーダーが運用してくれる」と違法性を感じさせる内容の業者も存在するそうです。

もちろん、そういった儲け話はあまりに非現実的です。2019年9月には、「毎月10万円以上をプレゼントする」などと偽ったFX絡みの「GIFTプロジェクト」という企画の参加費名目で現金を詐取したとして、情報商材を販売していたグループが詐欺容疑で大阪府警に逮捕されています。本件では全国の延べ約6,800人から約9億2千万円を集めた可能性があると報道されており、情報商材トラブルの被害人数や総額は大規模化する傾向にあります。

ただ、豊川弁護士によると、明らかな違法性が考えられる事案であっても、必ずしもすべて警察が動いて刑事事件に発展するわけではないとのこと。MatoMaでも、実際は民事での和解で処理するケースが少なくないそうです。やはり、まずは「騙されてお金を払う前」の自衛が最も大事だと言えます。

稼げるのは「上位3%」

2018年ごろまでネット上で“流行”していた手口は、仮想通貨を使った「ICO」。門外漢にはちょっとややこしい投資手段ですが、一般的には企業などが出資を募り、その対価として仮想通貨(今の名称は暗号通貨)を発行する、といった仕組みを取っています。

豊川弁護士によると、仮想通貨ブームを背景に17~18年ごろに盛り上がり、年間800件ほどのICO案件が世に出たとみられます。コインを発行する企業の実態が不透明なことも多く、今では一般的に「詐欺が横行している状態」とまでメディアから指摘される状況にあります。加えて相次ぐ仮想通貨絡みの事件、法規制強化の影響でICOを使った投資勧誘は以前より下火になってきたそうですが、「今でも手掛けている業者はいる」(豊川弁護士)とのこと。

他にも、副業系の情報商材で古典的なのが「転売のノウハウ」。「10年ごろには店舗で仕入れた商品を転売する手法が流行ったが、その後はAmazonで買った物をヤフオクで売るといったノウハウが流行している」(豊川弁護士)。

もちろん、転売行為自体は明確に規制されている商品をのぞけば違法ではなく、サラリーマンの典型的な副業の1つです。ただ、豊川弁護士は「(こうした情報商材で指南される)転売の話自体は全くの嘘ではないものの、結局は上位3%くらいの人しか稼げず、後は挫折してしまう場合が多いようだ」とみています。

##「共通する手口」とは

こうしたトラブルのタネになる情報商材は、「儲け話の目新しいネタ」がたびたび登場するため、一般人には気付きにくいのも事実です。被害に遭わないため豊川弁護士が強調するのは、むしろ情報商材の勧誘に使われている「共通した手口」を知ることです。

「実は、これらのやり口は昔からやり方が蓄積され、あまり変わっていないもの。米国で提唱されたある(オンラインで商品を売る手法の)テンプレートがずっと使われ続けている」(豊川弁護士)。具体的はまず、業者が儲け話のきっかけとなるメールを大人数にばらまきます。そこには動画のリンクが張られていて、「情報商材を買えばいかに確実に儲かるか」が、“成功者の体験談”を元に説明されるのだそうです。

豊川弁護士によると、この「動画勧誘」はどの情報商材でもたいてい同じか似たパターンを取っています。全4回に分かれており、1話目は「説明担当者の自己紹介」、2話目は「その人物の過去に起きた不幸な出来事、沈んでいた時期の話」。3話目でようやく「商材のノウハウ説明、それによって自分がどううまくいったのか」、4話目の「商材の特典などの紹介」で完結。最後に、情報商材の購入ボタンがメールに付記されます。どうも、説得力を持たせるためにこうした一種の“起承転結”の形を取っているのだそうです。

全4回の動画メールは一挙に送られるわけでなく、豊川弁護士によると、1週間ほどかけて徐々に送られるのが一般的だとか。「『こんなの騙されないよ』と思えそうな内容でも、時間を掛けることで『この人(動画の説明者)はスゴイ!』と被害者は思い込み、抜け出せなくなる。動画は恐らく、対面の次くらいにセールスに向いている手法ではないか」。

“騙されやすい”リスト

セミナーなどリアルなイベントで勧誘するより、こうしたWeb動画を使った手法は低コストで大量に送り付けられる利点もあり、怪しい情報商材に頻繁に使われる傾向にあります。では、業者側はそもそもターゲットのメールアドレスを、どうやって調べ上げているのでしょうか。

豊川弁護士は「騙されやすい人のメールアドレスのリストが既に存在し、情報商材業者の間で回されている」と推測しています。アドレスの取得手段の典型例として挙げられるのが、儲け話などを紹介している「副業系ブログ」。こうしたサイト上でブロガーが「メルアドを登録すれば、儲けの“虎の巻”のpdfファイルを無料であげます」などとうたい、読者から大量のメルアドを取得。これらをリスト化したものが出回っている、と豊川弁護士はみています。

豊川弁護士によると、過去には1件につき30万円くらいのさまざまな情報商材を、1人で30件も騙されて買った例もあるなど、同じ人が多重の被害を受けるケースが後を絶ちません。後編では、なぜ「安易であり得なさそうな儲け話」に飛びついてしまう人の心理、そして防ぐための心構えについて解説します。

【プロフィール】
豊川祐行(とよかわ・ひろゆき)

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