近年、モータースポーツでは女性のドライバーやライダーの活躍が増えている。2019年には女性ドライバーの活躍を促進することを目的として、女性限定のフォーミュラカーシリーズ『Wシリーズ』が新設された。Wシリーズ自体にはレース関係者から賛否両論が飛び交うこともあったが、女性レーサーの活躍を目にする機会が徐々に多くなっていることは間違いない。
そこで今回は、この数年でWシリーズをはじめとするさまざまなカテゴリーで活躍し、2020年にさらなる飛躍が期待される女性ドライバー&ライダーをご紹介しよう。
■ジェイミー・チャドウィック:Wシリーズ初代チャンピオン。ウイリアムズF1で開発役も担う
まずは、2019年シーズンよりスタートした『Wシリーズ』の初代チャンピオンに輝いたイギリス人ドライバーのジェイミー・チャドウィックだ。
2017年にシングルシーターのレースにデビューしたチャドウィックは、BRDCイギリス・フォーミュラF3に参戦。2018年には優勝を飾り、イギリスF3史上初の女性ウイナーとなった。
そんなチャドウィックは、2019年はアストンマーティン・レーシングのオフィシャルジュニアドライバーとなり、ニュルブルクリンク24時間レースのSP8クラスに参戦。クラス優勝を飾り、総合27位という成績を残した。
そして、この年から始まったWシリーズに参戦。ホッケンハイムで行われた開幕戦ではポール・トゥ・ウィンを飾り、シリーズ最初の勝者に。5月にはウイリアムズF1チームの『ウイリアムズ・ドライバー・アカデミー』に所属したことを発表し、同チームの開発ドライバーに就任した。
全6戦で争われたWシリーズでは通算2勝を挙げ、最終戦以外の5レースで表彰台を獲得する活躍を見せたチャドウィックは見事初代チャンピオンに。
Wシリーズではランキング上位12名のドライバーに対して翌年のシリーズ参戦が保証されるため、当然チャドウィックにも2020年Wシリーズのシートは用意されている。
ただチャドウィック自身は他のカテゴリーへの参戦も視野に入れているようで、複数のカテゴリーを候補に挙げているようだ。
チャドウィックは9月にユーロフォーミュラ・オープンのダラーラF3マシンをテストしている。2019/20年シーズンのアジアンF3にも参戦しており、海外フォーミュラでの躍進に期待がかかる。
■アナ・カラスコ:2輪の歴史に名を残したスペイン人のチャンピオン
続いて2輪から、22歳のスペイン人ライダー、アナ・カラスコをご紹介。2013年にカテゴリー史上初の女性ライダーとしてロードレース世界選手権のMoto3クラスにデビューしたカラスコは、Moto3で3シーズンを過ごしたのち、2016年はCEV Moto2ヨーロッパ選手権に出場。
翌2017年よりスーパースポーツ世界選手権300(WSS300)に参戦を始めたカラスコは、FIMが統括するチャンピオンシップにおいて、史上初めて女性ライダーとして優勝を飾った。
そして2018年。開幕戦アラゴンと第2戦オランダで入賞すると、第3戦イタリア(イモラ)と第4戦ポルトガルで連勝を飾った。それ以降のレースでは表彰台を逃すも着実に入賞を重ね、93ポイントを獲得してチャンピオンに輝いた。もちろん、2輪の世界選手権において女性のライダーがタイトルを獲得するのは初めてこと。モータースポーツ界においても大きな話題となった。
続く2019年は優勝が2回、表彰台が3回、獲得ポイントは117と前年を上回る数字を残したものの、ランキングは3位だった。しかしながらシーズン終了後に行われたテストでは、レインコンディションでのライディングに苦労していたという2019年シーズンの課題について欲しかった情報を得ることができたとSBKスーパーバイク世界選手権公式サイトで語っており、2020年に向けて手応えをつかんだようだ。
カラスコといえば、2019年のシーズン終了後にも話題があった。それは、11月末にヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで行われたSBKのウインターテストにおいて、シリーズ5連覇を達成したジョナサン・レイの駆るZX-10RRをテスト走行したことだ。
カラスコは走行後に「私のバイクとは大きく違って、ZX-10RRのパワーに驚いた。一番驚いたのはバイクがセンシティブなことで、トラックの欠点も感じ取ることもできる」とZX-10RRの印象を語っていた。
史上初の女性チャンピオンということで話題を呼んだカラスコだが、性別に関係なく実力を発揮して世界の舞台で戦えることを証明した彼女の今後の活躍に期待がかかる。
■小山美姫:Wシリーズを戦うただひとりの日本人。夢のF1に向けて学びを活かせるか
世界で活躍する日本人の女性ドライバーとして名前を挙げるとすれば、小山美姫だろう。2019年、小山は日本でFIA-F4選手権に参戦しランキング17位だったが、彼女は上述のチャドウィックと同様にWシリーズにも参戦した。
Wシリーズ開幕戦の予選では17位と大きく出遅れるも、決勝レースで巻き返しを見せた小山は7位入賞を果たし、ファステストラップも記録した。続く第2戦ゾルダーでも8位に入賞すると、第3戦ミサノでは2019年シーズンのベストリザルトとなる4位に入り、最終的にはランキング7位につけ2020年シーズンのシートを確保した。
Wシリーズ初参戦を終えた小山は、日本でイベントに出席した際、Wシリーズが開催されるすべてのサーキットにおいて走行経験がなかったため、自信を持てなかったと明かしていたが、2019年に学んだことを2020年に活かしたいと意気込んでいた。
将来的な目標としては女性ドライバーをF1に送り出すことを目指しているWシリーズだが、その一方で一部の女性ドライバーらはこのシリーズに対して疑問を抱いている。
とはいえスポンサーマネーの持ち込みを必要とせず、金銭面というひとつの不安要素を打ち消したこのシリーズを足がかりにステップアップすることを望んでいるドライバーも数多くいる。そのひとりである小山は、2019年の学んだことを糧に、2020年はどのような活躍を見せてくれるだろうか。
■タチアナ・カルデロン:F1テストドライバーを務め、F2カテゴリー史上初の女性ドライバーに
最後は、2019年シーズンはFIA-F2を戦ったコロンビア人のタチアナ・カルデロンだ。
2013年からFIAヨーロピアンF3選手権を3シーズン戦ったカルデロンは、2016年から2018年までGP3(現在のFIA-F3)に参戦。そして2019年にはFIA-F2に参戦し、前身のGP2時代を含めて、初めてこのカテゴリーに参戦した女性ドライバーとなった。
GP3初年度をアーデン・インターナショナルから戦ったカルデロンは、2019年にそのアーデンに復帰し、BWTアーデンからF2に参戦。しかし厳しい戦いが続き、一度も入賞できずにシーズンを終えることになった。
一方F1では2017年よりザウバーF1チームの開発ドライバーに就任し、2018年(アルファロメオ・ザウバー)と2019年(アルファロメオF1チーム)はテストドライバーを務めてた。カルデロンには、フィルミングデーを利用して2018年にF1マシンを走らせた経験がある。この当時、女性ドライバーがF1マシンをドライブしたのは3年ぶりのことだった。
2020年はメルセデスの参加であるHWAがアーデンを買収し、ドライバーにジュリアーノ・アレジとアーテム・マルケロフを起用することがすでに決まっている。F2におけるカルデロンのシート探しは難航しているようで、アメリカでのレースや耐久レースも視野に入れている。2020年に1月にはデイトナ24時間レースに出場予定だ。
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今回紹介したのは4人とごく僅かだが、モータースポーツに詳しい方なら一度は名前を聞いたことがある選手ばかりだろう。また今回は触れなかったものの国内でも、全日本F3選手権を戦っている三浦愛を筆頭に、2019年のスーパーFJで勝利を手にした村松日向子、下野璃央など数多くの女性レーサーが活躍している。
まだモータースポーツに触れて日が浅い方も、今後彼女たちや彼女たちが戦うカテゴリーにぜひ目を向けてみてほしい。
もちろんモータースポーツ界で活躍している女性は選手だけではない。チーム代表やエンジニアとして働くスタッフも増えている。元レーシングドライバーのスージー・ウォルフや、2019年のF1第20戦ブラジルGPで表彰台に上がったハンナ・シュミッツがいい例だ。国内でも、autosport webでも話を聞いた水村リアさんをはじめ、多くの女性スタッフが活躍している。
今後、モータースポーツ界で活躍する女性ドライバーやライダー、スタッフは増えていくことは間違いない。