2020長崎県内自治体の課題と展望(2) 長崎市 佐世保市 五島市 壱岐市 対馬市 波佐見町 川棚町 東彼杵町 長与町 新上五島町 佐々町 小値賀町 時津町

◎長崎市/核廃絶 機運高まるか
 米国による原爆投下から75年の節目を迎える。“被爆者なき時代”が近づく中、昨年11月に来崎したローマ教皇フランシスコは核兵器廃絶へ「一致団結」を呼び掛けた。被爆地がいかに国内外で核廃絶の機運を高められるかが問われる。
 長崎市が募集した民間団体による11の記念事業が年間を通じて展開される。長崎原爆の日の8月9日は東京五輪の閉会日に当たるため、市は大会組織委にハトなどを使った演出を要望しており、どう取り入れられるか注目だ。11月には「長崎平和マラソン」も開く。
 町づくりでは、3月末にJR長崎線の松山町-長崎駅の線路が高架化され、渋滞緩和へ一歩前進する。長崎駅西側で昨年着工したMICE(コンベンション)施設と高級ホテルのヒルトンは、来年11月の開業に向けた準備期間となる。
 観光では、市が稲佐山公園と山頂を結ぶスロープカーを1月末に開業予定。同公園と長崎ロープウェイは4月から、ジャパネットホールディングス(佐世保市)などの共同体が指定管理者となる。「出島」も長崎自動車(長崎市)などが新たな指定管理者になる。民間ノウハウによる活性化が期待される。

◎佐世保市/森きらら移設に注目
 町づくりや観光などに関する八つのリーディングプロジェクトをはじめ、地方創生を目指して市が取り組む事業の形が見え始める1年になる。
 国際クルーズ船の拠点整備では、4月に浦頭地区で16万トン級が接岸できる岸壁とターミナルビルの供用が始まる予定。クルーズ客誘致のために整備中の俵ケ浦半島の観光公園については、老朽化が進む九十九島動植物園(森きらら)の移設が可能か検討が続く。地元で交通渋滞などへの懸念が根強い中、どのような結論を導くか注目だ。
 名切地区の中央公園のリニューアルでは事業者が決まり、工事が始まる。屋内外の遊び場や広場などを整備する方針で、具体的な内容が明らかになっていく。
 県と市がハウステンボスへの誘致を目指す、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)は、県が春ごろに実施方針をまとめる予定。秋ごろに1事業者を選定する。
 市など11市町でつくる連携中枢都市圏「西九州させぼ広域都市圏」では、離脱から一転して参加を表明した北松佐々町の加入に向けて準備を加速させる。新たな事業の展開に期待したい。

◎五島市/暮らし支える施策を
 市が力を入れる「再生可能エネルギー事業」と「ツバキ振興」の分野で大きな動きがある。昨年は移住促進による「社会増」を達成した一方、二次離島などへき地の過疎化は深刻。大きな成果だけにとらわれず、市井の暮らしをこまやかに支える施策も求められる。
 再エネでは昨年末、国が洋上風力発電実施を優先整備する「促進地域」に国内で初めて指定された五島市沖で、洋上風車を10基ほど設置する構想が本格化。2、3月に市内で開催する国際ツバキ会議と全国椿サミットは、国内外からの来島者に五島をPRする好機だ。
 新庁舎完成と移転に伴い新年度から「福祉保健部」を新設。高齢者の移動支援や見守り、子育て支援などの充実に期待したい。始動する市の第2期総合戦略では、観光客年間30万人という高い目標を掲げる。市政トップを選ぶ夏の市長選にも注目だ。(三代直矢)

◎壱岐市/温暖化対策へ「行動」
 地球温暖化対策へ注力する姿勢を示そうと、国内の自治体として初めて「気候非常事態宣言」をした。新年度は、太陽光エネルギーで製造した水素で発電する実証実験を始めるなど「行動に移す年」になる。
 実験では、水素混燃(こんしょう)エンジンを導入し、再生可能エネルギーの発電効率などを調べる。リサイクル率は現在でも県内トップ。さらに引き上げようと、対象品目を増やしていく。
 ただ「宣言」の市民への浸透度はいまひとつだ。市は団体や企業の代表などで組織する期成会を設立。行政と市民が協働しながら啓発する。
 市の広報戦略も転換する。航路があり、昔から結び付きの強い福岡にある事務所機能を年度内に本庁に集約する。新年度には、東京事務所を開設。情報収集や、市場規模の大きい中央での発信力を強化する。

◎対馬市/国内外の誘客が鍵に
 対馬観光の柱だった韓国人客は、日韓関係の悪化による影響で激減。島の経済は大きな打撃を受けた。新年度は南部の厳原町で博物館などの完成が相次ぐ見込み。韓国からの来島者がいつ戻るか見通せない中、他の国からの外国人や国内からの誘客に、どう結び付けていくかが鍵となる。
 県と市が当初、11月オープンとしていた対馬博物館。不調だった入札をやり直し、新年度内の開館を目指す。市が既存施設を改修した朝鮮通信使資料館も完成予定。北部の上対馬町からの周遊を含め、観光客がもう1泊したくなるような仕掛け作りを進める方針。
 築45年たった市役所本庁舎(旧厳原町役場)は、耐震性が基準以下であることが判明。再選を表明している比田勝尚喜市長は、3月の市長選に向け、防災拠点でもある本庁舎問題への対応策を示すことが求められる。(緒方秀一郎)

◎波佐見町/「観光地」確立 正念場
 波佐見焼のブランド化を背景に観光客は増加しているが、消費単価は伸び悩んでいる。持ち味である官民連携を加速させ、経済効果を生む「観光地・波佐見」の確立に向けた正念場となりそうだ。
 昨年は波佐見焼を観光に生かす「クラフト・ツーリズム」の協議会が発足。産学官でつくり、経済産業省が支援する。今年は全国の産地に呼び掛け、協議会の全国大会を開く予定だ。
 町観光協会は昨年12月に法人化した。観光地づくりの中核を担う日本版DMO設置に向けて準備を進める。

◎川棚町/新庁舎建設が本格化
 町役場新庁舎の建設が本格化する。すでに全ての機能が別館、第2別館などに移行。現庁舎は年度内に解体工事に入り、4月以降に新庁舎建設に着手する。来年3月末が完成目標。
 知名度が上がり、来訪者が増えている軍事遺構、片島魚雷発射試験場跡はトイレや駐車場などハード面の整備に乗り出す。精力的に活動する戦時遺構ボランティアガイドなどのソフト施策と組み合わせ、観光客の満足度を高めたい。懸案の石木ダム建設事業では、反対住民の土地が強制収用されたが、依然静観の構えだ。(六倉大輔)

◎東彼杵町/そのぎ茶 上昇気流に
 お茶日本一を決める全国茶品評会の蒸し製玉緑茶部門で、そのぎ茶産地として3連覇を達成した。全国での知名度が徐々に増す中、販路拡大や発信力強化で官民が知恵を出し合い、上昇気流に乗せたい。
 昨年4月の町長選は16年ぶりの選挙戦となり、元町議の新人、岡田伊一郎氏が初当選した。長らく空席だった副町長の選任などすでに実行した公約もあるが、具体的な政策はこれから。厳しい財政状況だが、廃校の跡地活用や若者定住、農業振興など山積する課題の解決に向けた実行力が問われる。

◎長与町/商店街活性化を模索
 工事が長期化し、町の懸案となっている高田南土地区画整理事業は、早期完了を目指した残工事一括発注の手続きが進んでいる。受注企業グループと3月にも契約締結の予定で、5年後の工事完成に向けた再スタートの1年となる。
 かつてにぎわいの中心だった中央商店街の空き店舗に昨年12月、創業を考える人向けのチャレンジショップが開設された。起業家育成も踏まえた商店街活性化を模索している。
 町は子育てや教育、健康づくりの施策も引き続き進めていく意向だ。

◎新上五島町/災害に強い町づくり
 昨年の台風による大雨で起きた土砂崩れで、県道の通行止めは長期化。日常生活にも支障が出ている。復旧工事を進める一方、これを教訓に災害に強い町づくりを目指す。
 町は、県と連携し砂防ダムの建設を急ぐ。迅速な情報伝達のため、希望する全世帯には、防災無線の戸別受信機を新年度中に配布する考えだ。
 国の補助金も活用し、インターネットの光通信網整備の町内全域拡大も計画。就業環境などの利便性向上を図り、移住者らの受け入れ促進につなげる。

◎佐々町/大型事業 財源課題に
 懸案だった四つの大型事業が動きだす。し尿前処理施設建設事業は、国の交付金を受けるための手続きを進め、ごみ処理施設は長寿命化対策の計画を立てる。給食センターの実施設計や、庁舎建て替えの基本・実施設計にも取り掛かる。
 これまで取り組んできた福祉・子育ての事業に加え、大型事業を進めるため、財源を確保することが課題になりそうだ。
 古庄剛町長の3期目の任期満了まで残り約1年半。山積する懸案について解決への道筋をつくれるかどうか、正念場の年となりそうだ。

◎小値賀町/離島留学で生徒確保
 離島留学制度が4月から本格始動する。島の小中高は、1学年当たり十数人程度。島唯一の県立北松西高存続のためにも、一定数の児童生徒の確保は不可欠だ。受け入れ家庭の「しま親」や学校、地域でサポート態勢を整えたい。
 絶景の砂浜で、都会のカップルが結婚式をする事業は、県内の大学生のプランを活用。司会や参列者として住民が参加するなど、島ぐるみで盛り上がった。島ならではの豊かな自然を活用し、交流人口拡大や滞在型観光を促す妙手として、定番化を目指す。

◎時津町/浜田郷の家屋移転へ
 長年の課題である国道渋滞の解消策として期待される県事業の西彼杵道路は昨年、時津工区の久留里トンネル(仮称)が貫通した。2022年度予定の供用開始に向け、今年も工事が進む。時津中央第2土地区画整理事業は本年度中に浜田郷の家屋移転が本格的に進む見通し。
 町は各小学校区内の児童館に子育て支援センター機能を持たせ、相談がしやすい拠点にしていく。健康増進や要介護状態の予防にウオーキングが有効として、足への衝撃を吸収する歩道も徐々に増やしていく方針だ。

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